天神洋画劇場
伊藤隆介の「フィルム・スタディーズ」
2016年6月4日(土) − 7月3日(日)
10:00 - 20:00
休館日 6月21日(火)
一般:400(300)円 学生:300(200)円
- ( )は前売料金/チケットぴあ・10名以上の団体料金
- 再入場可
- 高校生以下、障がい者等とその介護者1名は無料
- アルティアムカード会員・三菱地所グループCARD(イムズカード)会員無料

展覧会ポスタービジュアル
視覚の魔術師 伊藤隆介による、人間と映像の歴史を探る「映画学」
三菱地所アルティアムでは、映像作家・美術家、伊藤隆介の九州初個展を開催します。実験映画やビデオ・インスタレーション(映像と造形を用いた美術表現)を制作してきた伊藤が、本展では1970年代のパニック映画を元にしたインスタレーション作品など、新作・旧作を交え発表します。
伊藤の代表的な作品シリーズ「Realistic Virtuality(現実的な仮想性)」は、映像とミニチュア・セットから成るビデオ・インスタレーションです。今回は、同シリーズの最新作として、旅客機内の座席、サメ、恐竜など、映画のワンシーンを想起させるセットが会場に登場します。これらの精密なセットをビデオカメラで撮影し、そのライブ映像の投影によって、実物と映像が同時に展示されます。「現実」と「メディアが運んでくる現実」の“段差”を表現する作品は、映画やメディア、時代をめぐる様々な思考を刺激することでしょう。
伊藤隆介 ITO Ryusuke
1963年 札幌市生まれ。東京造形大学で映像作家・かわなかのぶひろ氏 に師事、アートフィルム(実験映画)の制作を始める。 主な作品に、フィルムの物質性に着目したコラージュ/モンタージュ作 品「版(Plate)」シリーズ、撮影用のセットと映像を並置したビデオ・ インスタレーション「Realistic Virtuality(現実的な仮想性)」シリーズ などがある。 主な展覧会として、「第3回福岡アジア美術トリエンナーレ2005」 (福岡アジア美術館、2005年)、「ラブラブショー」(青森県立美術館、 2009年)、「黄金町バザール2012」(横浜市、2012年)、「第4回 恵比寿映像祭:映像のフィジカル」(東京都写真美術館、2012年)、 「Re:Quest-1970年代以降の日本現代美術展」(ソウル大学校美術館、 2013年)、「伊藤隆介ワンマンショー;ALL THINGS CONSIDERED」 (札幌宮の森美術館、2014年)など。
展覧会によせて
札幌のとあるバー。ここは元銀行の金庫室。悪だくみにはちょうどいい場所だ。まるで「ヒート」か「ダークナイト」じゃんか。男が3人、シングルモルト片手に小声で話し合うのは、福岡は天神の中心街にパニック映画館を再現するというものだ。火事、鮫、恐竜、異次元、悪魔、金、猿、処女、ボンド、モーゼ… 僕らの喉を枯らし、寿命を縮めたアレやコレやをインストールするぞー!!!
バーの片隅にはブラウン管のTVがぽつねんと佇む。ぼんやりとアクション映画が映っているようだ。画面の隅には“二カ国語”のひよこマーク。嗚呼、僕たちが子供の頃、「ヒーロー」はその中にいた。スタローン、イーストウッド、マックイーンにブロンソン… 憧れの男たちは4:3の荒いブラウン管越しにあらわれ、皆が日本語で決めゼリフを言い散らかしていたのだが、それになんの疑問も持たなかった。いやむしろ、映画館やDVDで地声を知って、頭がクラクラしたものだった…。「今まで見ていたのはニセモノか? いやこっちがニセモノ?」みたいな。伊藤隆介のインスタレーションは、言ってみれば映像と模型の二ヶ国語同時放送のようなもので、ブラウン管のあちらとこちらとのステレオ・リアリティが(中)毒性を持つのである。汝、スクリーニング・インフェルノに堕ちるがよい!!
□□
澤隆志
□□
「文化人」という言葉がある。もともとは文化的教養を持つ人を指すが、今ではマスメディアに出ている人、つまり有名人=文化人という認識が一般的かな?だから「文化人」と聞くと、何となく背中がムズムズしちゃう。「子曰、道聴而塗説、徳之棄也」とは論語の言葉。分かんなかったらググってみよう。すぐに意味は出てくる。そう、今の「文化」とはそんな程度のものだし、いわゆる文化人の言動もまさに「道聴塗説」そのものじゃないか。と悪態をつきながら、ここで伊藤隆介の登場である。伊藤は現代社会のありとあらゆる事象を、分け隔てなく「素読」する。美術、映画、マンガ、アニメから人々の生活や社会的・政治的問題までを等価な「教養」として蓄積し、ジャンルや時間、意識を自在に接続しなおして、新たな価値や思考を生み出していく。さしづめ江戸で言うなら戯作者か。例えば京伝による『小紋雅話』の洗煉とユーモア。あるいは『守貞謾稿』的な社会へのまなざし。伊藤は「模型+映像」という虚実皮膜の構造をとおして、我々の記憶、知性、感性に刺激と挑発を加えていく。今回のインスタレーションは、そんな伊藤が仕掛ける、「とある時代」の「映画状況」をモチーフにした一大文化ドキュメンタリー。まず、文化がかくも重層的で多声的であることに驚愕せよ。そして、「教養」がなんたるかをその目で確認すべし!
工藤健志