シンプルの正体 ディック・ブルーナのデザイン展

菊地敦己×中村至男 オープニングトーク レポート2

本展にそれぞれ別の形で関わられているお二人のデザイナー、菊地敦己さんと中村至男さんによるオープニングトークのレポート2回目をお届けします。1回目はこちらからお読みください。
(以下は、トークを一部抜粋・編集したものです。)


(司会)
次は、中村さんの展示作品についてお話を伺おうかと。

(中村)展覧会全体の紹介スライド進めてなかったけど、いいの?(笑)

(菊地)それでは、早解り解説をしましょう(笑)。

(中村)お願いします(笑)。

(菊地)まず、グラフィックデザインって一体なんだろうと。例えば絵画とどう違うか。単純な説明をすると、絵画はひとつだけのものをつくる。それに対して、グラフィックデザインは同時に同じものがたくさん存在するというのが前提となります。要するに版をつくるということです。設計図や版があると複製が可能になります。そうすると、色と形が分離して考えられます。絵の具で塗られた形は、ものとしての絵の具と形というのが一体のものとして存在していますが、グラフィックデザインの場合は、形を色の組み換えることができるんです。版画の版を考えてもらえばいいと思うんですけど、同じ版に違う色を塗って刷ることができますよね。だから、色と形が別々に計画されるんです。それが第1章の中で色や線、くり返しの話として、それぞれの特徴に分けて展示されています。
第2章はおもに絵本を紹介しています。絵本というのは平面の絵の連続性です。絵が連続していくことで、時間軸ができていきます。だから主に時間の話なんですよね。ピクトグラムなんかもここで展示されていますが、これは早いスピードで意味を認識するための形です。ブルーナはそういう端的な形を使って絵本をつくっています。瞬間的にそのものが何であるかを認識できる、記号性の高い形を連続させて、時間軸のある物語を展開させています。
そういう基本的なグラフィックデザインの方法を軸にして、ブルーナの仕事が配置されていて、デザインというものがどうやって出来ているのか、暗に伝われば良いなという展示構成です。

(司会)ブルーナさんのアプローチは、デザインの教科書のようだとおっしゃる方もいらっしゃるくらい、きちっとやるべきプロセスを経ていたり、工夫されるべき点がそれぞれにちゃんとなされています。とてもブルーナさん一人の作品とは思えない、いろんな引き出しを持って取り組まれているのが分かります。多様な表現を、千本ノックのようにいろんな実験をされているので見ていただければと思います。

(中村)僕は1章の装丁コーナーを一番楽しく拝見しました。ブルーナさんって好きに描いているようで、ちゃんとテーマを持って、苦しんでいる号もあるんだろうなと思いながら見ました。本のお題とのすり合わせをずっと行ってきた流れも読み取れて。もちろん時代も国も全然違うんですけど、何かつくる時の機微があったんだろうなと、同業者の目線で見て楽しかったです。

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1章 おしゃべりな色 ブルーナさんの装丁を大小様々な大きさで展示

 

(司会)多い時は年間に150冊くらいの装丁を手がけたそうです。デザイナーとして次々装丁の仕事がくる環境というのは、同じ職業としてどんなふうに想像されますか。

(中村)どうかな。まず時代も違うけど、家業でもあった。

(菊地)自分ちだと、いわゆる受注仕事とはまた違いますからね。装丁だけであれば、150冊はそんな多くないと思うけど(笑)

(司会)多くないですか(笑)。

(中村)「この時の号は、売れなかったじゃないか!」って怒られたりしたのかな?(笑)好き勝手やっていいわけでもないでしょうし。やっぱり売らなきゃというのも頭の中には絶対あったと思いますし、そこでも工夫されてたでしょうね。実際どの装丁が売れた売れなかったとか知りたい。「反復」などシリーズを作って繰り返して出していくというのは、シリーズを続けていく中で見つけた手法だとも思います。

(司会)シリーズごとにテーマ設定や色使いなど、ブルーナさんの中で自分の規則を作りながら取り組まれていた様子が感じられますよね。

(中村)自分でルールを作って、それにキツく縛られつつ、デザインするって楽しいですよね。

(司会)菊地さんは、ブルーナさんが、キャラクター性あるものを繰り返し使う技術が優れているとご指摘されていましたよね。

(菊地)それはミッフィー以降の仕事ではっきり表れますね。初めの頃のミッフィーシリーズは、まだ一つ一つの造形が汎用的ではなく、内容に対しての応え方をしています。後期になればなるほど、絵柄自体はかなり汎用性が高まって、個別の表情は薄くなっていく。だから「絵」が好きな人は、初期のミッフィーが好きっていう人が圧倒的に多いですよね。

(司会)特に『ちいさなうさこちゃん』『ゆきのひのうさこちゃん』など初期の4冊でしょうか。

(中村)歪んでたり、ひしゃげてたり、楽しいですよね。

(菊地)絵の魅力でいうと圧倒的に初期の方が僕も良いなと思っています。ただ、ミッフィーというシムテムと考えると後期の方が正しいですね。

 

***

 

(司会)1、2章でシンプルの魅力を味わっていただいたあと、4組の作家にブルーナさんのシンプルを受けて、作品を新たに創作していただくというコーナーです。中村さんから今回の作品についてご説明いただけますか。

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中村さんの作品「#∩∩」

(中村)このお話をいただいた時、ブルーナさんがまだご存命でした。ひょっとしたら僕のを見てくれるかも!という期待をもって考えたものなんです。これはミッフィーだから出来るコミュニケーションです。必ずミッフィーが一枚のどこかにいるのですが、どこまで見えたらミッフィーを感じるか、現代の自分のトーンで、試しました。全く描かなくても存在を感じるようなものも、もう1~2枚作ってみたいなと、本当はまだいろいろチャレンジしたかったですね。

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(菊地)ミッフィーを有名人という前提で扱ってますよね。

(司会)耳の形の一部だったとしても、ミッフィーという誰もが知ってるキャラクターだからこそ、成立する。

 (中村)本当は僕も尖ってる耳が好きなんですよね。

 (司会)初期のミッフィーですね。

 (中村)でもこの考え方だとやっぱり完成形の丸い耳が正しいだろうということで。

 (司会)中村さんがタイトルにつけてくださっていた「#∩∩」。

 (中村)これ、なんて読むんですかね?(笑)。

 (司会)「U」の形を逆さまにした文字を二つ並べることでミッフィーの耳をイメージさせるくらい、形が浸透しているからこそできる遊びですよね。

 (菊地)ちょっと聞いても良いですか?至男さん、最近妙にマットな色調というか、グレイッシュな、あまりコントラストが強くない色を使っていますよね。色に対して何かありますか。

 (中村)うーん。今言われて気がついた(笑)。なぜ段々グレーになってきてるんだろう。インスタグラムのハッシュタグで「#∩∩」で入れたらこれが出てくるという仮設定もありましたので、その時に、もしかしたら写真的な空気を感じた方が良いと考えたのかな。そういうパキッとつく感じじゃなくて、空気がある感じなのかな。

 (司会)モニター越しに見る、みたいな気分があったりしますか。

 (菊地)結構グレイッシュでしかもトーンがあるんですよね。

 (中村)どっちが良い?

 (菊地)いやいや(笑)。トーンがあるというのは要するに、淡いグレーと濃いグレーとか階調違いがある。そうすると画の中に光を持ち込むということになる。微妙な対比なんだけど、そういうものがだんだん入ってきたなと思って見てたんですよ。昔はもっと幾何学的なラインで、パースがなかったり、陰影がなかったりしたんだけど。最近は透視図法が入ってきて、しかもトーンも入ってると思って。

 (中村)まだまだ成長中です(笑)。

 (菊地)画面の構成でいうと、割とどこでも切り取れる広い情景があって、写真のように切り取ってきたみたいな、ある種の便宜性に見えるのが面白いなと思いました。一枚の絵として定着させたわけじゃなく、瞬間的にトリミングしたような感じが。

 (中村)切り取り癖は、職業柄あるのかな。つい、やっちゃいますね。

 (司会)温度が低い感じもあったり、少し距離を感じるとか、そういうのも色のトーンで感じるところはありますよね。

 

***

 

(司会)今回、『クマくんがしんだ』という絵本を展示しています。これは、ブルーナさんが2017年2月に亡くなられたあと、4月に関係者の方に配られました。(※市販はされておりません。)ブルーナさんがこれを制作したのは2011年で、ブラック・ベアシリーズのポスターに使用したイラストに、お話がついています。通常のブルーナさんの絵本だと、サイズが15.5×15.5cmですが、この絵本は22cm角です。お話自体も少し不思議な感じがあります。それをご覧になってお二人はどんな印象を受けましたか。

 (菊地)これは刊行目的でつくられたものじゃないですかね。

 (司会)つくられた2011年の段階では、今発表するとご覧になる方の受け取りも様々なので、良い時期が来たら発表しましょうと、保留されていたとお伺いしています。

 (中村)つくった時は完全に創作としてつくったということですか?

 (菊地)遺作のつもりでつくってるように見えますね。

 (司会)その想いはあったかもしれませんね。

 (菊地)僕は1ページ目は好きですよ。「クマくんが しんだ、ぼくは しんぶんで よんだんだ」っていう言葉がいいなぁ。1ページと最後のページはとても好きだった。
中身は、ブラック・ベアの既存の作品のカットアップでページがつくられていて、それに文章が添えられています。ブラック・ベアの回顧集的な意味合いが強い。やっぱり遺作として、自分のこれまでの作品をどう扱うか考えられていたように感じますね。

 (司会)絵本の形をしてるけど、単に絵本ということでもない。何か不思議な存在です。

 (菊地)ブラック・ベアがぴったりだなって思ったんでしょうね。その気持ちなんとなく分かります。

 (司会)ミッフィーではなくて。

 (菊地)たくさん作品をつくってきて、最期に何をつくろうかなとなった時に、やっぱりブラック・ベアを選んだのかって。ことも向け絵本っていうよりは大人も含めたすべての読者に向けてという気持ちもあったんじゃないかと。

 (中村)いまのお話を聞いて、これを遺作として自覚的につくるっていうのはすごいなって。引退されたというか、アトリエに通わなくなってからつくられたもの?

 (司会)2011年の何月に作られたのか具体的には分からないですが、絵本シリーズの最後の作品が2011年ですので、それと同じ年ですね。

 (菊地)生前に自分でお墓買ったり、遺影用意したりするのと近いのかな。準備万端な人だなぁと思って感心しました。ディック・ブルーナなりの仕事の終わらせ方がこういうやり方だったのかなと。なんというか、整頓された美しさがあるなと思いました。

 (司会)これまでブラック・ベアの設定は、あまり説明されてこなかった。そのような中で、『クマくんがしんだ』では、イラストに言葉を添えているので、ブラック・ベアというキャラクターがすごく生き生きして見えてきます。絵本を見ると、そういう楽しみ方もあるなぁ思います。とても素敵な言葉が付いているので、ぜひ会場でじっくりご覧いただければと思っております。

 

デザイナーならではのブルーナ作品の捉え方や展覧会を構成してくプロセスなど、興味深く貴重なお話を菊地さんと中村さんに楽しく繰り広げていただきました。今回のトーク内容をふまえ、あらためて展示をご覧いただくと、新たな発見があるのではないでしょうか。「シンプルの正体 デォック・ブルーナのデザイン」展は、7月2日(日)まで開催しております。ディック・ブルーナさんの魅力がたくさん詰まった展覧会に、ぜひ足をお運びください!

【展覧会ページ】
シンプルの正体
ディック・ブルーナのデザイン展

2017/5/13 − 7/2

Local Prospects 3

オープニングレセプション《作家来場》

出展作家を迎えて、オープニングレセプションを開催します。

日時:2016年11月11日 18:30〜20:00
会場:三菱地所アルティアムイムズ8F
※参加無料・予約不要

【展覧会ページ】
Local Prospects 3
原初の感覚

2017/11/11 − 12/3

諏訪敦展

オープニングレセプション《作家来場》

諏訪敦を迎えて、オープニングレセプションを開催します。

日 時 2017年10月7日 18 : 30~20 : 00
会 場 三菱地所アルティアムイムズ8F 
※参加無料・予約不要

【展覧会ページ】
諏訪 敦 展
2017/10/7 − 11/5

シンプルの正体 ディック・ブルーナのデザイン展

菊地敦己×中村至男 オープニングトーク レポート1

5月14日(日)にグラフィックデザイナーであり、アートディレクターでもある菊地敦己さんと中村至男さんをお招きし、トークイベントを開催いたしました。司会は、本展の企画プロデューサーに務めていただきました。デザイナーとしての視点を通して見えるブルーナ作品の魅力や展覧会への想いをお話いただきました。今回は、2回に分けてお届けします。
(以下は、トークを一部抜粋・編集したものです。)

(司会)お二人をご紹介いたします。まず、本展のアートディレクターであり、グラフィックデザイナーやアートディレクションのお仕事をされている菊地敦己さんです。
3章「シンプルの明日」というコーナーに作品を寄せてくださいました、グラフィックデザイナーであり、アートディレクターの中村至男さんです。

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(司会)
では、早速ですが内容に入っていきたいと思います。お二人が最初にブルーナさんの作品に出会ったのは、どの作品ですか。

 (菊地敦己さん/以下略)どうですかね。あまり「これがブルーナ初体験」っていうのは記憶にないですね。大学生の頃、自分の作品をつくり始めてデザインを意識するようになってから、ディック・ブルーナはデザインだなと見るようになりました。

 (司会)それはミッフィーの絵本でしょうか。ブラック・ベアシリーズ?

 (菊地)ミッフィーの絵を展開させる仕組みが面白いと思ったんです。平面の形がいろんな方法論で使われていて、しかも色が分離されている。形と色の組み合わせが、使われる状況に合わせて変化しますよね。色は限定されていて、いわゆるモダンデザインの方法ですよね。

 (司会)中村さんはいかがでしょうか。

 (中村至男さん/以下略やっぱり仕事をし出してからですね。デザイナー的な目線で、ブルーナさんの仕事を見て、改めて面白さが分かるようになった。

 (司会)読み聞かせてもらった絵本としてというよりは、大人になってから。

 (中村)僕はもともと絵本では育っていなんです。大人になってから、デザインとして見て、すごいなと。

 (菊地)「ディック・ブルーナの絵本を子どもは好きなのか?」問題ありますよね。

 (会場)

 (菊地)子どもの頃からブルーナの絵本が大好きで育ったっていう方いらっしゃいますか?

 (会場)挙手あり

 (菊地)ちらほらいらっしゃいますけど少ないですね。あの、悪く言っているわけではないですよ、もちろん。ただ、結構難しいというか。子どもに対する求心力があるかっていうと、あまりないのではないかと僕は思ってるんです。読み手というか、一緒に読む大人次第なところはあると思いますけど。

 (司会)言葉を覚える前のお子さま向けという位置付けで親しまれている印象はありますね。赤ちゃんって色がしっかり認識ができないので、ブルーナ作品のような明確な色使いが選ばれる理由だと聞いたことがあります。

 

***

 

(司会)展覧会のビジュアルをつくると同時に、デザイン展として成立させたいと、まず菊地さんにご相談に伺いました。ブルーナさんの「デザイン」をテーマにした展覧会は、それほどたくさんは行われていなくて。その話しを受けて菊地さんはどう思われましたか。

 (菊地)僕はもともとブルーナは好きでしたし、キャラクターではなくグラフィックデザインとして捉えていたので、面白そうだなと。ブルーナを通して、グラフィックデザインの考え方が伝わる展覧会になったら良いなと思いました。

 (司会)「シンプル」が今回の展覧会のキーワードになりそうという話は割とすぐに出てきました。ブルーナさんの作品はただの「シンプル」じゃないとおっしゃってましたよね。

 (菊地)そうですね。デザインといった時に「白くて角張ったシンプルなもの」という風潮が僕はすごく嫌いで(笑)。ミニマルなものをよしとする美意識が信用されすぎている。僕もかなり単純な図形を使ったデザインをしますけど、シンプルな中に別な意味や余分な要素をどうやって存在させることができるかが、結構大事なんです。使っている要素は似ていても、モダンデザイン的な様式とはちょっと距離があるんです。
ブルーナの形は、最初からシンプルな形があるんじゃなくて、元にちゃんと具体的なものがあって、それが簡略化されていく段階があるように感じます。だからシンプルな形にも、表情があるのではないかと思います。

 (司会)ブルーナさんの「シンプル」って、実はすごくカラフルだったり、情緒豊かなものが見える。それでも「シンプル」って言われている所以はなんだろうと、菊地さんとご相談を重ねながら、展覧会の構成を決めていきました。
今回のポスターのビジュアルを考えた時の菊地さんのアプローチなど教えてください。

 (菊地)はじめは、今ならではのディック・ブルーナの解釈があって良いのではないかと思って、自分の方法に引き寄せて考えました。使う要素はブルーナの形だけど、ちょっと違和感があるようなものをつくったのですが、ボツられました(笑)。

 (中村)誰から(笑)。

 (菊地)よくわからなかったんだけど、いろんな人の都合ですかね(笑)。ケチがつくと全然違うことをやりたくなるので、だったら極力自分の個性を消してつくろうと思って、より技術的というか裏方的なデザインのやり口を考えました。でもまあ、個性を消してつくったと思ったものに、滲み出てしまうものもあるわけですが。

ブルーナ展_ポスター

展覧会ポスター

元々ブラック・ベアシリーズのポスターの中で、この寝た熊のポスターがあるんです。それを基本的に踏襲してつくりました。ただそのままだと展覧会自体のアイデンティティにならないから、背景色を変えて、単純な方法で文字を組んで、少し多めの余白をつくって、結果このようになりました。会場別に色を変える計画もあったんですけど、それはここの会場に蹴られて(笑)。
決定プロセスに多くの人が関わる場合、新規性の高いものってなかなか受け入れられづらいんですよね。見慣れたものが良いということになってしまうことが多い。人は、自分の中にある記憶と、外側の対象物が符号した時に、いいなと思う傾向があるので。だから、多くの人が良いと思えるものは既成のものに近くなっていくんです。でも本当はそれだけだと、活力が生まれないので、求心力が生まれないのですが

 (司会)ちなみにアルティアムは初夏でもあるのでブルーはどうでしょうかとご提案をしたんですが、明るい印象もあるので、黄色が良いということで選んでいただいたプロセスがありました。

 (菊地)明るいから良いというのも、呪縛のひとつなんですけどね。

 (司会)ちなみに中村さんは展覧会のポスターのビジュアルご覧になった感想はありますか。

 (中村)デザイナーの工夫とか知恵を全く見せずに、それらを裏に秘めて、まっすぐに投げてきて、おお!そうきたかと思いましたね。

 (菊地)素晴らしいフォローをありがとうございます(笑)。実際は結構難しいんですよね。既にデザインされたものを扱って、リデザインしていくのは。どうデザインするかではなく、どういうレベルでその対象と関わり合うのかをすごく考えます。これまで知られているディック・ブルーナという絵をそのまま活かすやり方もあるし、新鮮さを引き出すために違うイメージを加えていく方法もある。どういう関わり方を、どういう段階でするかを、喧々諤々考えるんです。

 (司会)今回はグラフィックデザイナーとしてのブルーナさんを紹介するにあたり、必ずしも可愛らしさだけじゃなく、今まで見たことのない姿を見れますよ、ということも伝えたいという想いがありました。結果的に可愛らしさもあり、シンプルでデザイン性も高い、両方の要素を持ち合わせたこのデザインに落ち着いたということかなと思っています。ブルーナさんの魅力をブラック・ベアに背負ってもらって、直球でまっすぐに出していったっていうアプローチは、すごく良かったなと思いました。

 

***

 

(司会)展覧会の図録の話もしていただいてよろしいでしょうか。今回判型が小さめの図録なんです。

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展覧会図録の表紙

(菊地)ペーパーバックと言われる小説の装丁のデザインをブルーナはたくさん手がけていました。高さはそれと同じサイズにしています。

 (中村)幅は違う?

 (菊地)違います。ペーパーバックって細長いんです。横組みの文章を読むものだから、あまり文章のストロークが長くなりすぎない可読性の高いフォーマットになっています。今回の図録は、絵を一枚ずつ見える方が良いなと思っていたので、サイズが大きい必要がなかったけど、ポスターなどを見せるには、ペーパーバックサイズだと横幅が足りないので伸ばしています。表紙には文字もなく、ポスターがまんま表出されるのが良いかなぁと思って。表紙のシールはきれいにはがせます。

 (司会)図録は17.5×13cmくらい。判型は小さいですが、図版の大きさ自体はこれまで発行している本の中でも、それぞれが大きく見えるよう配置されています。ページの構成、文字の関係とかで、何か気にしてくださったことはありますか。

 (菊地)造形的なことで言えば、何もデザインしていません。1ページごとのレイアウトも基本右ページに作品1点というかなり単純なつくりです。気をつけたのは絵や文字のサイズを大きめにして、全体におおらかな空気をつくること。装飾を極力無くして、ひとつひとつの絵に集中できるような本にしたかったんです。そういった全体の構成という意味では、かなりデザインしたつもりはあるんですが。

 (司会)菊地さんは本をデザインするとき、最初にどういうプロセスからスタートされますか。

 (菊地)それぞれですね。

 (司会)今回は?

 (菊地)今回は作品を一点ずつ見せるという構成を決めたことが出発点ですね。

 (中村)そうそう!一個ずつ見たかった。必ず視界に一つだけ入ってくるようにしてもらえたのは嬉しかったですね。

 

レポートは第2回目に続きます。お楽しみに!

【展覧会ページ】
シンプルの正体
ディック・ブルーナのデザイン展

2017/5/13 − 7/2

Local Prospects 3

公募告知 Open call

三菱地所アルティアムでは、1989年4月から三菱地所の文化支援事業の一環として、現代の様々な芸術表現を、既成の評価、ジャンルにとらわれることなく紹介・発信しています。この度、九州・沖縄とその周辺地域を拠点とする作家を紹介する展覧会シリーズ「Local Prospects 3」を開催いたします。
本シリーズは、地域を見つめる多様な視点の創出と対話の深化を目指す展覧会シリーズとして2015年に初開催したグループ展です。第2回からは、さらに門戸の開かれた展覧会とするべく、出展作家の中の1枠を公募枠として広く募集しています。ファイル審査により入選者を決定し、招待作家とともに新作を発表していただきます。
第3回となる本展は、テーマを「原初の感覚」とし、自らの身体感覚や内なる感情、原初的な衝動とともにある表現に焦点を当てます。招待作家として、自身に内在する風景を探り、それを写真に託す木下由貴、糸や布を解き/編みつづけることで身体を拡張する平川渚、自身を深く見つめ、衝動や葛藤などの感情の揺れを絵画で表現する山下耕平の3名が確定しています。他1名は公募枠にて選出し、招待作家とともに4名のグループショーとして開催いたします。
多様な文化の交わる場として機能してきた福岡の地域性と、地方にスポットが当たることの増えた時代性を踏まえ、“いま、ここで紹介すべき作家”を吟味して発信します。本シリーズに、新たな1ページを加える表現を心待ちにしております。

三菱地所アルティアム

 

※英語版は後日更新予定です。
We are preparing the English text,please wait for it for a while.

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【概要】
タイトル:Local Prospects 3
テーマ:原初の感覚
会 期:2017年11月11日(土)〜12月3日(日)
会 場:三菱地所アルティアム(福岡市中央区天神1-7-11イムズ8階)
時 間:10:00〜20:00
入場料:一般:400(300)円  学生:300(200)円、高校生以下無料、再入場可、( )内は前売料金/チケットぴあ・10名以上の団体料金、障がい者等とその介護者1名は無料、アルティアムカード会員・三菱地所グループCARD(イムズカード)会員無料

主 催:三菱地所、三菱地所アルティアム、西日本新聞社
助 成:公益財団法人 福岡文化財団

■展覧会招待作家(順不同・敬称略)
木下由貴(1986年佐賀県生まれ、福岡県在住/写真)
平川渚(1979年大分県生まれ、鹿児島県在住/インスタレーション)
山下耕平(1984年兵庫県生まれ、福岡県在住/絵画)
+公募枠作家

【公募枠 作品募集要項】
■募集内容
三菱地所アルティアムの展示空間を使った、募集時に提示するテーマに沿った作品展示プラン。立体、絵画、インスタレーション、写真、映像作品など表現の形式・ジャンルは問いません。

■採用作家
1名(1グループ)

■応募資格
日本語または英語でのコミュニケーションが可能で、九州・沖縄および周辺地域を拠点に作品を創作し、その著作権を有する個人または団体。

■サポート
・制作補助費:20万円程度(予定/補助費を超える必要費用は自己負担)/ 搬出入は各自で行うものとし、展示に使用する什器や備品も出品者が用意)
・展覧会記録冊子作成
・三菱地所アルティアムウェブサイトにおける展覧会の紹介、および郵送・Eメールによる開催告知

■審査方法
応募プランおよび、ファイルによる審査でおこないます。

■提出内容
① 応募用紙(PDFエクセル
応募用紙は、コピーを2部提出し、原本は保管してください。
② これまでの作品(画像添付)、活動実績のまとめ
映像作品(時間は3分以内とする)は、作品を収録したDVD(1枚)とイメージ画像を送付してください。

■応募方法
・A4サイズのファイル(1冊)に、上記の項目を入れ、郵送または宅配便にて提出してください。
※実際の作品は受け付けません。応募書類の持ち込みもお断りしております。
・選外者のファイルは返却しますので、返却用切手貼付の封筒を同封してください。
※封筒が無いもの、封筒のサイズが合わないもの、返信用の切手無貼付または料金不足の場合は、着払い扱いで返送します。なお、応募用紙は返却いたしません。

■審査員(順不同・敬称略)
竹口浩司(広島市現代美術館 学芸担当課長)、阿佐美淑子(三菱一号館美術館 学芸員)、宮本初音・木下貴子(Fukuoka Art Tips)、鈴田ふくみ・安田由佳子(三菱地所アルティアム)

■公募選考スケジュール
募集期限:2017年8月14日(月) 必着
結果発表:2017年8月31日(木)
搬 入:2017年11月8日(水)〜11月10日(金)
会 期:2017年11月11日(土)〜12月3日(日)
搬 出:2017年12月4日(月)

■結果発表
審査結果は2017年8月31日(木)にアルティアムのウェブサイトを通じて発表します。また受賞者には事前に電話、メール等で通知します。結果に関するお問い合わせはお断りいたします。ご了承ください。

■注意事項
・搬入可能な作品は、搬入用エレベーター(幅2.5m×奥行1.6m×高さ2.5m)に積載可能なサイズです。
・発音、発光、臭気を発する作品など他の作品や展示環境に及ぼす影響が大きい作品は不可とします。
・過去にコンテスト等で発表歴のある作品は、出展不可とします。
・会場内での火気の取り扱い、塗装作業、食品販売、生き物の持ち込みは厳禁です。
・床面への釘打ちやカッティングシート貼り等の作業はできません。カッター等工具を使用する際は、必ず床面を養生してください。
・壁への釘打ちは可能ですが、会期後はパテ等で穴埋めをお願いいたします。
・法律や何らかの契約、または公序良俗に反した作品の応募は不可とします。
・応募者は、作品が第三者のいかなる権利も侵害していないことを保証し、万一苦情等があった場合には自らの責任で解決してください。
・展示上、支障が生じた場合は、作品の撤去について協議することがあります。
・展示室内での特定企業や店舗の宣伝行為、応募作品、関連商品の販売表示や呼びかけはできません。
・入選が確定した後、作品のタイトル、形状、構成、材質など著しく応募作品と異なる場合は入選を取り消すことがあります。
・応募用紙の記載内容に不備、虚偽が認められた場合、または規定違反、その他の問題が生じた場合は、入選を取り消すことがあります。
・出品作品は十分注意して取り扱いますが、損傷については理由のいかんに関わらず、主催者は一切責任を負いません。必要と思われる方は、各自で保険加入をお願いします。
・出品作品の著作権は、応募者本人に帰属します。ただし、展覧会での公開・発表、使用、およびその広報・告知(印刷物やインターネットなど)、記録目的で使用する権利については、三菱地所アルティアムにあります。

■個人情報の提供・利用目的
応募用紙にご記入いただいた個人情報は主催者が適正に管理し、本事業に関する資料送付、連絡、その他必要と思われる事項(来年度以降も含む)以外での使用はいたしません。また主催者は入選者の氏名・生年月日・居住都道府県名・経歴等の公表ができるものとします。

■お問い合わせ・ファイル送付先
三菱地所アルティアム 810-0001 福岡市中央区天神1-7-11イムズ8階
「Local Prospects 3」公募事務局
TEL 092-733-2050

※審査員略歴
竹口浩司 Takeguchi Koji
広島市現代美術館 学芸担当課長
1970年京都生まれ。大阪大学大学院文学研究科西洋美術史専攻を修了後、2000年より福岡県立美術館に勤務。主な企画展に「小石原焼と小鹿田焼 いとおしいやきものたち」(2010年)、「糸の先へ」(2012年)、「江上茂雄 風ノ景、絵ノ奥ノ光」(2013年)、「とっとっと? きおく×キロク=」(2014年)などがある。近現代工芸との関わりを中心にしながら、ひとがものをつくることで生きて在るさまを見つづけている。2016年より現職。現在は2017年冬から開催する企画展「交わるいと」の準備に勤しんでいる。

阿佐美 淑子 Asami Yoshiko
三菱一号館美術館学芸員
専門は染織を中心とした装飾美術、東西交流史。東京芸術大学大学院美術研究科西洋美術史専攻修了。レンヌ第二大学(フランス)に留学後、神奈川県立近代美術館、東京芸術大学大学美術館、北九州市立美術館を経て2007年より現職。主たる担当展覧会に、「高松次郎―思考の宇宙」展(2004年)、「田園の輝き 児島善三郎」展(2007年)、「田園讃歌―近代美術に見る自然と人間」展(2007~2008年)、「三菱が夢見た美術館 岩崎家と三菱ゆかりのコレクション」展(2010年)、「KATAGAMI Style」展(2012年)、「画鬼・暁斎 KYOSAI―幕末明治のスター絵師と弟子コンドル」展(2015年)。

 

公募告知画像

公募告知画像

【展覧会ページ】
Local Prospects 3
原初の感覚

2017/11/11 − 12/3

シンプルの正体 ディック・ブルーナのデザイン展

ワークショップ 活版印刷でブラック・ベアのポストカードをつくろう

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BLACK BEAR © copyright: Dick Bruna

活版印刷という印刷方法で、「ブラック・ベア」のオリジナルポストカードをつくります。
ディック・ブルーナさんは、いつもどのようにすれば、見る人の心を惹きつける作品となるのか考え、多くの試行錯誤をしながら作品をつくってきました。

今回のワークショップでは、ブルーナさんのデザインスタイルに注目しながら、各自で紙を選び、活版印刷するレイアウトを考え、ポストカードをつくっていきます。活版印刷とブルーナさんの生まれた国、オランダとの関係性についても紐解きながら、ユーモアに溢れたかわいい「ブラック・ベア」のポストカードを一緒につくってみませんか?

【講師プロフィール】
山田善之(文林堂)
http://kappanblog.exblog.jp/
1941年、福岡県福岡市生まれ。修猷館高校定時制卒業。10歳の頃より家業の活版所「文林堂」を手伝う。1972年「文林堂」を再創業、現在に至る。カッパン倶楽部/リトグラフ工房 G & Bを運営。印刷の技術と歴史の保存に取り組み中。

横山桃子(晋弘舎活版印刷所)
http://ojikappan.com
1988年長崎県小値賀町生まれ。岡山県立大学デザイン学部卒業。東京の編集プロダクションで働いた後、小値賀島へUターン。100年続く、家業の「晋弘舎活版印刷所」4代目として働く。2017年にオランダの活版印刷所を訪ねる。小値賀島と活版印刷の未来のために日々模索中。

中川たくま(ブルームーンデザイン事務所)
http://aoi-tsuki.com/
1978年福岡市生まれ。福祉・公共・医療・子ども・文化・地域などに関わるデザインと社会的課題に取り組むNPOやボランティア団体のデザインのサポートを行う。2009年に廃業する活版印刷所から道具と技術を受け継ぎ、現在は活版印刷を未来につなげる活動を行っている。

【活版印刷】
活字や亜鉛版などを使って行う印刷のこと。印刷される部分が凸面になっており、その部分にインクが付き、紙を乗せて圧力をかけることで印刷される。ヨハネス・グーテンベルクが、ぶどう絞り機から着想を得て発明。日本で初めて活版印刷が行われたのは1591年。天正遣欧少年使節に随行したコンスタンチノ・ドラード(日本人。生誕450年)がヨーロッパから活版印刷機を持ち帰り、長崎・加津佐町でキリシタン版の印刷を行った。禁教令で活版印刷は一度姿を消すが1857年、オランダ人活版印刷技師のインデルマウルが活字や印刷機とともに来日。出島の「阿蘭陀(オランダ)印刷所」で印刷を行った。オランダ通詞で校正や検閲を行っていた本木昌造がその印刷物に感銘を受け、オランダ商人から活字や印刷機を購入し印刷を行う。研鑽を重ね、遂には日本語の活字の製造にも成功。現在の印刷文化の礎を築いた。

日 時:6月17日、18日 両日とも①11:00~、②13:00~、③15:00~各回1時間程度
会 場:会議室イムズ8F
講 師:山田善之、横山桃子、中川たくま
参加料:1,000円小学生以下保護者同伴
定 員:10名
申 込:要電話予約 ※6月1日より受付開始 ※定員に達したため、受付は終了いたしました。
三菱地所アルティアムTEL 092-733-2050
※インクが手や身体に付く可能性があります。汚れても良い服装でお越しください。

企画協力:ディック・ブルーナ・ジャパン、Mercis bv、ブルームーンデザイン事務所
協力:有限会社田中凸版、文林堂、晋弘舎活版印刷所

【展覧会ページ】
シンプルの正体
ディック・ブルーナのデザイン展

2017/5/13 − 7/2

クエイ兄弟―ファントム・ミュージアム―

会場レポート

会期も残り一週間となりました。今回は会場内の様子をご紹介します。関連イベントとしておこなった神奈川県立近代美術館学芸員の籾山昌夫さんの講演会レポート(12)に展示作品についても詳しいお話がありますので、合わせてお読みください。

◆デコール(模型)
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「デコール」とは、簡単にお伝えすると、クエイ兄弟が考えた「模型」を表す言葉です。実際に映像作品に使用されたパペットや背景のセットなどを、クエイ兄弟がデコールとして再構成した作品8点を展示しています。近くで見ると、細かい部分まで緻密に作られていることが分かります。これらを少しずつ動かしながら、膨大な枚数一コマずつ繰り返し撮影し、短編作品が作られています。クエイ兄弟ファンはもちろん、今回初めて映像作品をご覧になる方にとっても、映像に登場するパペットやセットの実物がそこにあるという喜びを味わうことのできる展示作品です。腕や頭が動くよう作られたパペットの細部や、風合いのあるセットなどを間近でご覧くださいね。

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◆ポーランド・ポスター
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この5点のみ、クエイ兄弟の作品ではなく、クエイ兄弟が影響を受けた作品として展示をしています。学生時にポーランド・ポスターの展覧会を見て、ヨーロッパの文化に興味を持つようになったクエイ兄弟。本展のために、神奈川県立近代美術館収蔵のポーランド・ポスターの中から、クエイ兄弟自ら選んだポスターです。

◆学生時代のイラストレーションや挿絵
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カフカの短編やヤナーチェクの音楽からインスピレーションを受けて制作した学生時代のイラストや版画作品や、挿絵16点を展示しています。クエイ兄弟の映像以外の作品を見ることのできる貴重な機会となっています。

◆黒の素描
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1970年代に鉛筆で描かれたドローイングです。細部まで真っ黒に描き込まれています。初期の短編映画に同じモチーフが出てくるなど、のちの作品に繋がる作品群です。

◆代表作のダイジェスト上映

『イーゴリ―パリでプレイエルが仕事場を提供していた頃』1982年

『イーゴリ―パリでプレイエルが仕事場を提供していた頃』1982年

1980~2000年代まで代表作7作品からダイジェストとして15分にまとめたものを常時ループ上映しています。全編をご覧になりたい方は、土・日・祝日18:30~日替わりで3プログラムに分けて開催中の上映会(A・Bプログラム特別上映会)に足をお運びくださいませ。ショップでは短編作品集のブルーレイディスクも会期中のみ販売しています!

本展は6月から東京・松濤美術館での巡回展も決まっています。この機会に、ぜひクエイ兄弟の他に類を見ない世界観を会場でお楽しみください。

【展覧会ページ】
クエイ兄弟 ―ファントム・ミュージアム―
2017/3/25 − 5/7

クエイ兄弟―ファントム・ミュージアム―

オープニングイベント 上映会 & 講演会映像作家クエイ兄弟の今昔レポート2

前回に続いて「クエイ兄弟―ファントム・ミュージアム―」展の初日に行われた講演会のレポートをお届けします。クエイ兄弟の映像作品に込められた思い、舞台美術や商業的な仕事など多岐にわたる彼らの仕事を紹介していきます。

◆映像作品に込められたクエイ兄弟の思い

クエイ兄弟 デコール《この名付け難い小さなほうき》1985年

クエイ兄弟 デコール《この名付け難い小さなほうき》1985年

(籾山昌夫さん)次に、『ヤン・シュヴァンクマイエルの部屋』の翌年、1985年に作られた映像作品『ギルガメッシュ叙事詩を大幅に偽装して縮小した、ハナー・ルウスの局長のちょっとした歌、またはこの名付け難い小さなほうき』を採り上げます。長いタイトルです。今回の展覧会の前まで、日本では『ギルガメッシュ/小さなほうき』として紹介されていました。しかし、これは省略すると映像作品に込められた意味が解からなくなってしまいます。作品の冒頭に現れる数字は、クエイ兄弟のパスポート番号で、ふたりは1983年頃に、パスポートの期限が切れたために不法滞在者となり、移民局に呼び出されて、国外退去を命じられました。移民局が入っていたのが、ロンドン郊外にある「ルナー・ハウスLunar House」という巨大なビルです。タイトルの中の「ハナー・ルウスHunar Louse」というのは、この先頭の1文字を入れ替えたものです。この物語は宙に浮いた箱のような場所で展開し、周囲は真っ暗な空間です。おそらく、これはイギリスという島国を表しています。この映像作品の後半には、主人公がコオロギをその真っ暗な空間に捨てる場面がありますが、それは単に無邪気な子どもがコオロギを捨てるというのではない、別の意味があります。

クエイ兄弟『ギルガメッシュ叙事詩を大幅に偽装して縮小した、ハナー・ルウスの局長のちょっとした歌、またはこの名付け難い小さなほうき』1985年

クエイ兄弟『ギルガメッシュ叙事詩を大幅に偽装して縮小した、ハナー・ルウスの局長のちょっとした歌、またはこの名付け難い小さなほうき』1985年

コオロギを捨てるこの場面、背景に「Pepek」という文字があります。これが重要です。このアングルは意図的に撮られているのです。そして、「名つけ難い小さなほうき」とは、三輪車に乗ったこの奇妙な主人公です。ちなみに、映像では白目ですが、デコールでは黒目があります。この人物は、一昨年、亡くなったイギリスのロック・スター、デヴィッド・ボウイに似ているかもしれません。クエイ兄弟と同じ1947年生まれのボウイは、クエイ兄弟にとって、成功したイギリス人芸術家の象徴であったでしょう。

クエイ兄弟 デコール《この名付け難い小さなほうき》1985年 部分

クエイ兄弟 デコール《この名付け難い小さなほうき》1985年 部分

この映像作品では、コオロギの美しい鳴き声に誘われて飛んできたギルガメシュ叙事詩のエンキドウ、おそらくクエイ兄弟自身が、性的な誘いに乗って罠にかかり、おそらく「イギリス」を暗示するギルガメッシュから袋叩きにあう。現実では、クエイ兄弟がロンドンでアニメーション制作を始めたものの、およそ5年後に国外退去を命じる大英帝国は、「コオロギも用が済めば自然に返すことなく、捨ててしまう、そうした冷酷な場所だ」といったところでしょうか。

クエイ兄弟 デコール《この名付け難い小さなほうき》1985年 部分

クエイ兄弟 デコール《この名付け難い小さなほうき》1985年 部分

デコールの背景には「優雅な」カリグラフィで「ペペクPepek」と書かれています。「ペペク」とはチェコ語で「ポパイ」のことです。この文字の優雅さとは対照的に、第二次世界大戦中、ポパイはアメリカの敵を叩きのめす存在でした。

戦時ポスター《日本ナチスを叩きのめそう!今ここで戦争貯蓄切手を買おう!25セント切手1枚で弾丸12発》

戦時ポスター《日本ナチスを叩きのめそう!今ここで戦争貯蓄切手を買おう!25セント切手1枚で弾丸12発》

クエイ兄弟の作品で、「Pepek」という文字は、おそらく、国家の暴力を表しているのだと思います。彼らは国家の暴力を嫌っていました。クエイ兄弟がイギリスに留学した1969年までに、アメリカが参戦したベトナム戦争は激化して、若者を中心に反戦、厭戦気分が広がりました。1969年は、ヒッピー文化のひとつの頂点とされるウッドストック・フェスティバルが開かれた年です。クエイ兄弟は徴兵を避ける意味もあって、イギリスに留学しました。それから10年後にロンドンにスタジオを構えて、英国映画協会を始め、BBCやチャンネル4といったイギリスの放送局のために映像作品を作ってきたにも関わらず、国外に叩き出されそうになる。幸いにも、ある人物の取り成しで、国外退去は免れましたが、この事件が、クエイ兄弟にどれほどの衝撃を与えたことでしょう。

◆舞台デザインへの進出

『ギルガメッシュ叙事詩を大幅に偽装して縮小した、ハナー・ルウスの局長のちょっとした歌、またはこの名付け難い小さなほうき』は、もともとアニメーションと実写を組み合わせた作品として企画されましたが、資金不足から、アニメーション部分だけが完成されました。一方、俳優を使って劇場で撮影された実写部分には、バレエ振付師のキム・ブランドストラップが参加してました。人形を動かすことと、人間に振付すること、クエイ兄弟はそこに共通点を見出したのだと思います。ブランドストラップは、デンマークのコペンハーゲン大学で映画とメディアの研究をしましたから、クエイ兄弟の創作に理解があったのだと思います。ブランドストラップは、この3年後の1988年に、自らのバレエ公演『ディブック』の舞台デザインをクエイ兄弟に依頼します。それをきっかけに、クエイ兄弟はバレエ、オペラ、演劇の舞台デザインの分野に進出します。

オペラ『三つのオレンジへの恋』1988年

オペラ『三つのオレンジへの恋』1988年

残念ながら『ディブック』の舞台そのものを写した映像はありません。これは『ディブック』と同じ、1988年にクエイ兄弟が舞台デザインを手掛けた、リチャード・ジョーンズ演出によるプロコフィエフのオペラ『三つのオレンジへの恋』です。この布の襞や歪んだ窓枠、こうしたところに、クエイ兄弟らしさが認められます。

演劇『耳に蚤』1989年

演劇『耳に蚤』1989年

同じくジョーンズの演出による、ジョルジュ・フェドーの演劇『耳に蚤』の1989年の舞台デザインも、クエイ兄弟によるものです。この細かな縦の線は『ヤン・シュヴァンクマイエルの部屋』にも見ることができます。

オペラ『マゼーパ』1991年

オペラ『マゼーパ』1991年

これもジョーンズの演出によるチャイコフスキーのオペラ『マゼーパ』の1991年の舞台デザインです。路面電車もクエイ兄弟が多用するモチーフです。

オペラ『世界の劇場』2016年

オペラ『世界の劇場』2016年

これは、昨年に初演されたオランダの作曲家ルイ・アンドリーセンの新作オペラ『世界の劇場』です。クエイ兄弟が舞台デザインと映像を提供しています。

ところで、ブランドストラップの振付によるバレエを、クエイ兄弟が監督した2000年の映像『砂男』では、人間が人形を演じます。ここに、クエイ兄弟が見出した「人形を動かすことと、人間に振付すること」の共通点を認めることができるでしょう。

クエイ兄弟『砂男』2000年

クエイ兄弟『砂男』2000年

◆クエイ兄弟の映像作品の特徴

クエイ兄弟の映像作品の特徴を確認しましょう。まずは、モノに近づいて撮影するクローズアップです。クエイ兄弟は、しばしば接写レンズを使って、対象を極端に拡大して撮影します。次に、人形などの不自然に速い動きです。本来であれば、アニメーションでは本物らしい動作を追求します。しかし、クエイ兄弟の場合は、あえて現実にはないような動きを映像に採り入れています。そして、音楽と映像との一致です。普通、映画やテレビ・ドラマでは、映像が準備されて、それに音楽がバックミュージックとしてつけられます。しかし、クエイ兄弟の場合は、音楽に合わせて映像を修正するため、映像と音楽がシンクロしています。これらの特徴を意識しながら、クエイ兄弟の映像作品を見ると面白いと思います。

クエイ兄弟 デコール《ブルーノ・シュルツ『ストリート・オブ・クロコダイル』》1986年

クエイ兄弟 デコール《ブルーノ・シュルツ『ストリート・オブ・クロコダイル』》1986年

「ストリート・オブ・クロコダイル」のデコールを見てみましょう。左上の部分と右下の部分を見ていきます。まず、左上にはシンバルを叩くサルの人形がありますが、映像で見た時とは違っていて、胴体から下が骨組みだけになっています。映像では、このシンバルが不自然なほど早く叩かれていました。
そして、デコールの右下にはネジが通り抜けた時計が組み込まれています。この時計の裏は機械仕掛けではなく、「肉」が詰まっていて、「非日常的」なものを表していました。そして、中央部分は、この映像作品のラストシーンです。このように「デコール」というのは、映像そのものの場面を再現したものではなく、異なる場面、時間を組み合わせて「映像の世界観」を表す独立した作品です。美術の専門用語で言えば、絵画の「異時同図」、異なる時間が同一の図の中にある状態です。
一方、クローズアップは『不在』で多用されています。

クエイ兄弟『不在』2000年

クエイ兄弟『不在』2000年

◆ミュージック・ヴィデオやCMの仕事について

さて、1986年の『ストリート・オブ・クロコダイル』がカンヌ国際映画祭の短編部門にノミネートされ、有名になったクエイ兄弟には、ミュージック・ヴィデオやテレビ・コマーシャルの依頼が来るようになります。クエイ兄弟はこれまでに、ミュージック・ヴィデオやテレビ・コマーシャルといった商業映像を、約40本制作しています。一方、それ以外の自分たちのオリジナルな映像作品は、約30本です。ここで言う「商業映像」というのは、映像を作る前に、音楽や商品があって、それらを宣伝する目的で作られるものです。クエイ兄弟は、こうした商業映像を作って得たお金で、自分たちのオリジナルな映像作品を作っています。
1990年にデビューしたアメリカの実験的ロック・バンド「His Name Is Alive(ヒズ・ネイム・イズ・アライヴ)」のミュージック・ヴィデオでは、ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』を参考にした映像と、音楽がよくシンクロしています。

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葉山の第3展示室には、このミュージック・ヴィデオに登場する女の子とウサギの人形を展示していました。クエイ兄弟が人形を調整し、ティモシーが靴下を履かせています。葉山では、ピンポン玉の代わりにウズラの卵を並べたいとクエイ兄弟が言い出して、僕が近くのスーパーで1パック10個入りを買ってきました。 

クエイ兄弟 パペット《ウサギ》1992年

クエイ兄弟 パペット《ウサギ》1992年

クエイ兄弟はコマーシャル映像も手掛けています。例えば、1996年にはのど飴「ロケッツ」のコマーシャル、1997年には除草剤のラウンドアップのコマーシャルも作っています。テレビ・コマーシャルは予算があるので、アニメーションのクオリティが高いと思います。クエイ兄弟は、1本のコマーシャルを制作すると、半年は自分たちの作品を作ることができたと言っていました。

◆長編映画について

最後に、クエイ兄弟の長編映画に触れておきます。彼らは、これまでに長編映画を2本作っています。1995年の『ベンヤメンタ学院、または人々が人生と呼ぶこの夢』と、10年後の2005年に作られた『ピアノ・チューナー・オブ・アースクエイク』です。ここで、『ピアノ・チューナー・オブ・アースクエイク』のデコールを見てみましょう。

クエイ兄弟 デコール《樵》2005年 部分

クエイ兄弟 デコール《樵》2005年 部分

樵の人形は、まだ斧を振り下ろしていないのに、すでに膝から血が噴き出ています。これも、デコールの特徴である、異なる時間を組み合わせた「異時同図」になっています。それにしても、なかなかの迫力です。この人形は、1988年の『スティル・ナハト―寸劇』、1990年の『櫛』にも登場する、クエイ兄弟の映像作品でひとつのキャラクターになっています。

クエイ兄弟『ピアノ・チューナー・オブ・アースクエイク』2005年

クエイ兄弟『ピアノ・チューナー・オブ・アースクエイク』2005年

アルノルト・ベックリン《死の島》1883年

アルノルト・ベックリン《死の島》1883年

『ピアノ・チューナー・オブ・アースクエイク』のラストシーンは、19世紀末の絵画に基づいています。スイスの画家アルノルト・ベックリンが繰り返し描いた《死の島》です。ベックリンは1880年から1886年まで5点の油彩画を描いていますが、ご覧いただいているのは3枚目、1883年の《死の島》です。アドルフ・ヒトラーの旧蔵品で、今はベルリンの旧国立美術館にあります。このように、アメリカ生まれのクエイ兄弟は、ヨーロッパの文化伝統に基づきながら、1979年以降、現在までロンドンで製作を続けています。

ロンドンのクエイ兄弟のアトリエ 2015年講演者撮影

ロンドンのクエイ兄弟のアトリエ 2015年講演者撮影

これはロンドンにあるクエイ兄弟のアトリエの打ち合せスペースです。後ろには実にたくさんの書籍が並べられていて、その間の小さな電球が光る、ごちゃごちゃとした、とても不思議な空間です。今にも、何かが動き出しそうな雰囲気です。こうした空間から生み出させるクエイ兄弟の不思議な世界を、後は会場で楽しんでいただきたいと思います。

講演会後の質疑応答でも多くの方から質問があり、クエイ兄弟の作品への関心の高さが伺われました。作品の解説をもとに映像作品や会場内に展示している人形を見ると、改めてその不思議な魅力に気づかされることでしょう。「クエイ兄弟―ファントム・ミュージアム―」は5月7日(日)まで開催しております。是非、この機会にミステリアスな美の世界を堪能頂ければ幸いです。

【展覧会ページ】
クエイ兄弟 ―ファントム・ミュージアム―
2017/3/25 − 5/7

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