岡崎京子展

今日マチ子が語る岡崎京子マンガの魅力 レポート2

マンガ家の今日マチ子さんと、本展を企画した世田谷文学館学芸員の庭山貴裕さんのトークレポート第二回目です。第一回目はこちらからお読みください。

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(庭山貴裕さん/以下略)年代順にお話を進めていくと、岡崎京子さんは1985年に『バージン』という単行本を出されて、その後、『セカンドバージン』や『ボーイフレンドisベター』、『退屈が大好き』などの短編集や長編を発表されます。そして一つ転機になったと思われるのが『pink』という作品ですね。これまでにない強いストーリーラインを持った長編を描かれて、お話としてはユミコという女性が昼間は会社員、夜はホテトル嬢として働いて、自分の部屋ではワニを飼っているという設定の作品です。この『pink』について今日さんの印象はいかがですか。

(今日マチ子さん/以下略)オチを言っちゃっても良いか分からないんですけど、ワニの使い方が非常に秀逸で、そこに全てが入ってると言っても過言ではないと思うんですよね。

(庭山)ワニの使い方というと?

(今日)物語の中で「ペット、生き物」と「物」の間を反転する時があるじゃないですか。それがすごく岡崎京子さんの新しい表現というか、時代的に変わったと思わせるものだと思うんです。それまでの80〜90年代の明るい作品から、何か変わったなと思わせるような作品だったと思いますね。

(庭山)『pink』は、89年の作品で、歴史的にはいろんなことが起きた年ですよね。『pink』を読むと、私は今日さんの作品にもつながるものを感じたりします。『cocoon』も『アノネ、』も、言葉にすると言い尽くせないですが、何か主人公が自分にとって大事なものを守っているとか、周囲から守られているという状況が浮かんできます。『cocoon』の主人公のサンが、他の登場人物やいろいろなものに庇護されているということや、『アノネ、』で花子が自分の日記を大切に守っているということ。いっぽう『pink』のユミちゃんが昼も夜も働いて餌をあげているワニは、ひとつには消費社会を象徴しているのだと思いますが、それを彼女が大切に守っているという側面もあります。『リバーズ・エッジ』でも、死体を山田くんや吉川こずえちゃんがある種懸命に守ろうとしている。今日さんは、そういう主題についてはいかがですか。

(今日)岡崎さんの作品は、普段明るい女の子だけれども、ちゃんとその女の子の「弱さ」を描いているところが、みんなの共感を得るところなのかなと思うんですよね。ワニについての弱みとか。結構、岡崎京子作品の女の子って普段は悩みがないような明るい感じで描かれてるんですけど、あるところで急にガクッと深みに落ちるシーンが多いなと思うんです。「この子は実はものすごい何かを抱えてるのではないか」ということを描くのがすごく上手というか。最初から「この子は悩みがあります」みたいな感じで始まるんじゃなくて「何もないよ」みたいなふうに物語が進んでいるのに、あるところでハッと転換するっていうのが、すごく鮮やかだなというふうに思うんです。

(庭山)『pink』でも突然ユミコが発作に襲われるようにしてぺたんと座り込んでしまう、そこで闇の部分というか、この子は何かを抱えてるんだなということが伝わってきます。何かを大切に守るということでいうと、今日さんの場合は『cocoon』であれば「繭」みたいなもの。『アノネ、』でいえば日記や角砂糖のイメージみたいなものがありますが、一方で岡崎作品では、意味がわからない不気味なもの、社会にとってノイズのようなものを登場人物が守っているみたいな独特の味があって、その辺りがまた違うところだなと思いますが。

(今日)モチーフの違いというか。でも共通するのは、「弱さ」と「守らなくてはと思い続けている女の子」というのは似てるのかなと思うんです。

(庭山)今日さんはどんなふうに「少女性」を捉えて作品を描いていらっしゃいますか。

(今日)少女にこだわっているというよりは、あるひとりの主人公の物語ですね。誰でも自分の人生を邪魔されたくないじゃないですか。私はやりたいようにやりたい、それを戦争や他人からダメにされたくないという、そういうわがままな思いを「少女」なり「女性」なりが自分なりに続けようとしているというのをずっと描いているつもりです。

(庭山)岡崎さんと今日さんの描く女性像との違いを、ご自身ではどんなふうに感じますか。

(今日)私は本当にただのファンなので、自分と比べてどうこうというわけでは全然ないんですけどね。ただ、やっぱり岡崎さんのマンガは、どこか完璧な女の子じゃない、ある意味すごく愚かな女の子しか出てこないですよね。それが自分の作品でもそうなのかなと。やっぱり主人公とか女の子って本当に愚かしいし、でもその中で自分の世界を守ろうと足掻いているというところは似ているのかなと思います。

(庭山)岡崎作品には、とても魅力的なキャラクターがたくさんいます。東京の会場の出口に岡崎さんにメッセージを書くコーナーを設けたのですが、その中ですごく多かったのが、岡崎作品の登場人物を自分の人生のモデルにしていますというコメントでした。例えば、『東京ガールズブラボー』の主人公サカエちゃんに影響されて地方から出てきましたとか、『pink』を理解できないような男とは付き合えないとか、『ヘルタースケルター』のりりこがとても好きで、娘にりりこと名前を付けましたとあって、その隣にりりこちゃんが絵を描いていたりとか(笑)。男性ファンからすると、岡崎作品はキャラクターの魅力とは別のところですごいのだと思っていたのですが、岡崎さんの生み出したキャラクターって本当に女性の読者の中に息づいているんだなというのは驚きでした。今日さんは、岡崎作品の中で好きなキャラクターはいらっしゃいますか。

『リバーズ・エッジ』/宝島社 © 岡崎京子

『リバーズ・エッジ』/宝島社
© 岡崎京子

(今日)私はやっぱり『リバーズ・エッジ』のハルナちゃんが好きですね。ハルナちゃんは、やっぱり一番普通で、キャラクターとして薄い感じなんですよね。高校の頃も私があの世界にいたら、ああいう立ち位置しか取れないだろうなと重ね合わせて読んでいました。

(庭山)最終的にハルナちゃんが生き延びますよね。

(今日)そうですね。一番普通だし、特に何もないけれども、生き延びていくっていうところに当時共感したというか。岡崎作品ってすごく可愛い子とかモデルの子とか出てくるんですけど、そうでもない普通の女子高生という役どころがすごく良かったんですよね。

(庭山)透明な存在ですよね。

(今日)俯瞰的にいつも引いたところから状況を見ているっていうような。

(庭山)『リバーズ・エッジ』で後半にカタストロフというか、人が亡くなるような出来事が起こりますよね。観音崎くんが女性を絞め殺しかけたり、田島カンナがハルナの家に火をつけて自分が焼け死んだり、同級生のお姉さんが家に引きこもっていて、妹を切りつけたりとか。何かに執着している人間は破局を迎えるんだけれども、ハルナは透明な存在でいろんな人の存在を受け流しつつ、最後まで生き延びていく…そういう感じですよね。

(今日)他のキャラクターはキャラクターとしては好きなんですけど、岡崎作品の中で共感できるのは、やっぱりハルナちゃんですね。

(庭山)『cocoon』にも通じるものを感じますが。

(今日)そうですね。

(庭山)今日さんは作品を作る上で、登場人物を造形することと、ひとつの大きなストーリーラインを作ることは、どんな関係や比重があるんですか。

(今日)それは作品によりけりで、すごく奇妙な主人公の話となると、キャラクターを強くしなきゃいけないですし、ただ異常な状況下にあるというふうに舞台設定が決められているならば、その中に異常な主人公を置くよりは普通の人が翻弄される方が私は描きやすかったりしますね。

(庭山)ミドリさん』とかとても魅力的なキャラクターが配置されている作品もありますよね。

(今日)基本、普通の人が多いような気がするんですけど。

(庭山)岡崎さんのような強烈なキャラクターを作りたいとかは?

(今日)本当は作りたいんですけど、自分が薄い人間だからかだんだん薄くなってしまうというか、これからはもっと気合を入れてキャラクターを作ろうと思います(笑)。

 

『リバーズ・エッジ』/宝島社 © 岡崎京子

『リバーズ・エッジ』/宝島社
© 岡崎京子

(庭山)先ほど一番好きな作品は『リバーズ・エッジ』とおっしゃっていましたが、改めてお好きなシーンや理由はどんなところでしょうか。

(今日)当時読んでいたのが『リバーズ・エッジ』で、読んだときに主人公の彼らと同じような年齢だったっていうことが大きいですね。あとは「河」が好きだったので、河原が舞台っていうところにものすごく刺さりました。

(庭山)今日さんのいろいろな作品にも河が出てきますよね。

(今日)私の作品ではただ水辺のモチーフなんですけど、『リバーズ・エッジ』では、河はすごく不思議な場所で、誰のものでもない対象として描かれている。誰かの管理はあるんですけど、一種自由な場所で、でもそれは町の一部でもあるし、外側でもある。非常に不思議ないわゆる38度線的な場所だと私は思ってるんです。そこで展開される少年少女の話っていうのが、都市型のファンタジーみたいで、すごく好きだったんですよね。

(庭山)『リバーズ・エッジ』の「エッジ」は淵であり、「境界」ですね。

(今日)結局高校生って、自由と言われてるけど、自由じゃない。大人の管理している塾だったり、学校だったり、進路だったり、その中で動いてるだけで、別に大して自由じゃないなと思ってたところに、緩衝地帯みたいな河がパンっと入ってきたので、それがすごく当時の自分にとっては気持ち良かったというか、「そうか自由な場所もあるんだ」というふうに思ったんですよ。管理されているんだけど、でも普段よりは自由に動き回れる場所が与えられている場所ですね。

(庭山)避難所、逃げ場所みたいな。

(今日)避難所でもありつつ、暗部を展開できる場所と言えるかもしれませんね。

(庭山)『リバーズ・エッジ』以外に、岡崎作品で魅力的なキャラクターで、吉川こずえがいますよね。吉川こずえについてはどう思いますか?

(今日)そうですね。非常に岡崎作品的なキャラクターだし、当時私のクラスに本当に吉川こずえに似てる、読者モデルをやってる子がいたんですよ。現実の人が描かれているような、マンガと現実の境がよく分からなくなるような、そんな感じでしたね。読んだときに。

(庭山)吉川こずえは、『ヘルタースケルター』にも出てくるわけですけど、岡崎作品が今読んでもかっこいいと思える重要な部分って吉川こずえの造形にあるんじゃんないかと思うことがあります。

(今日)ショートカットで、すごいかっこいいなぁって思っていましたね。

(庭山)主人公と対比される存在で、そこがすごく面白いなと思うんですよね。『リバーズ・エッジ』では、河原で穴を掘りながら、世の中きれいぶってるけどざけんじゃねぇよってすごいセリフを吐いたりして、クラスメイトたちを相対化する虚無的な存在。『ヘルタースケルター』だと、りりこと対比される存在ですよね。りりこが語る「忘れられるのって死んでるのと同じよね。本当に死ぬことも怖いけど、忘れられることも恐ろしい」という印象的なセリフがありますけど、りりこの存在を象徴しているそのセリフに対比されるのが吉川こずえで「私は今ちやほやされるけれども、早く忘れられてほしい。その方が私は楽しみだ」と語る。「忘れられているもの」や「忘れられてしまう」ことの怖さということは、今日さんの作品でも感じることなのですが、何か『ヘルタースケルター』を読んで感じることはありますか。

(今日)りりこの焦りみたいなものって、今のSNSで必死で「いいね」とか「お気に入り」とかフォロワーが欲しいみたいな、そういうふうに焦ってしまう人の感情とすごく通じるなと読み返すたびに思うんですよね。そこにしか自分の生きてる場所はないように思い込んで、必死にすがりつくっていうような状況ですね。だから今もそういう意味で、普遍的に読み継がれているんじゃないかなとも思ったりしますね。

(庭山)忘れられることとしての死、ということを岡崎さんはいろんなところで描いていらっしゃって、雑誌の「ユリイカ」に寄せた文章でも萩尾望都の『トーマの心臓』を引きながら、「死には二種類ある。肉体としての死と、忘れさられることとしての死、と」ということを書いています。岡崎さんにとって、とても持続的なテーマだったのかなと思います。

(今日)やっぱりマンガ家っていう職業自体が人気商売というか、そういう部分があるので、ある程度、例えば80〜90年代を体現した存在であるほど、2010年代になるとその時代の人みたいに思われて、どんどん時代の奥に押しやられていくっていうことはあるのかもしれないですね。もしかしたら、岡崎さんはそういうことをうっすら自身が感じ取っていた部分があるんじゃないかなとは思ったりはします。

(庭山)それは職業マンガ家として、今日さんも感じられるところでもありますか。

(今日)業界でよく言われるのは、ものすごいビッグヒットを出してしまうと、長続きしづらくなるっていうのは若干言われることであって、別に誰かのことを言っているとか、自分がそうであるとかそういう意味ではないんですけども、やっぱりインパクトが強くなればなる分だけ、なかなかその時代から抜けられなくなるっていうふうには言われますけどね。

(庭山)そういうところでも『ヘルタースケルター』は、とても普遍的なことを描いているのではないかと思いますね。

最後に庭山さんより東京会場で寄せられた感想もご紹介頂きました。皆さんの思いが詰まったもので、なんと全部で2,000もの感想が集まったそうです。

(庭山)世田谷の会期終了後に来場者からのメッセージを岡崎京子さんにお届けしましたが、大変喜んでおられたようです。これは時代の回顧展ではないので、岡崎さんが来場者に宛てた現在のメッセージを受けて、皆さんも手紙を書くということが大事な展覧会の一部だと思っています。福岡会場での感想も楽しみにしていらっしゃると思うので、ぜひメッセージをお寄せいただきたいなと思います。展覧会では、なかなか岡崎作品の全てを網羅して紹介するなどということはできないですし、これによってなにかかりそめの全体像を与えてしまうかもしれないということは怖いことでもありました。岡崎作品の魅力はこれに尽きるものではないので、ぜひ展覧会をご覧になった後、また、自分なりの感じ方で改めて作品に出会って、その魅力を他の方達にも伝えて欲しいなと思います。こんな感じでしたが、今日さんいかがでしたか。

(今日)岡崎京子さんってやっぱりファンの方の思い入れが非常に強いというか、そういう独特な作家さんだと思います。ここまでマンガ家さん本人に思い入れがあるって、なかなかないと思うんですよね。作家っていうだけではなくて、その時代を体現した人だったんだなと思います。

岡崎さんと今日さんの作品の魅力を知ることのできる、大変充実のトークでした。トーク終了後は今日さんの九州で初となるサイン会も開催し、こちらもとても盛況でした。ご参加頂いた皆さま、誠にありがとうございました!展覧会は1月22日(日)まで開催しております。この機会にぜひご覧ください。

【展覧会ページ】
岡崎京子展
戦場のガールズ・ライフ

2016/12/3 − 2017/1/22

岡崎京子展

今日マチ子が語る岡崎京子マンガの魅力 レポート1

好評開催中の「岡崎京子展 戦場のガールズ・ライフ」。初日12月3日(土)には人気マンガ家の今日マチ子さんをお招きしてトークイベントを行いました。聞き手は、世田谷文学館本展企画学芸員の庭山貴裕さんに登壇頂きました。本展への思いや岡崎京子さんの作品を語る、大変貴重なトークです。全2回に分けてご紹介いたします。(以下はトークを一部抜粋・編集したものです)

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(ディレクター・鈴田)本日はお集まりいただきまして、誠にありがとうございます。本日からアルティアムで岡崎京子展が始まりました。本展は世田谷文学館で2015年に開催され、九州では初の開催となります。この度は、展覧会の主役である岡崎京子さんを語る場を設けたいと思い、世田谷文学館本展企画学芸員である庭山貴裕さんとマンガ家の今日マチ子さんにお越しいただきました。

(庭山貴裕さん/以下略)「岡崎京子展 戦場のガールズ・ライフ」が東京の世田谷で開催されたのはもう2年近く前になりますが、その企画や構成などをしていた者です。今日さんには本当にお忙しい中いらしてくださって、ありがとうございます。本展で今日さんには、カタログに素敵なトリビュート作品「リバーズ・エッジ2015」を描いていただいたり、東京の会場ではギャラリートークもしていただきました。福岡での展示の感想はいかがでしたか。

(今日マチ子さん/以下略)岡崎京子さんは純粋にファンというか、10代の頃に見ていた絵柄なので、見るたびにあの時の自由な気持ちが湧き上がってきます。マンガ家としてというよりは、ただひとりの10代の人間として見てしまうというところがありますね。

(庭山)東京でもそういった感想がすごく多くて、皆さんの記憶や思いが集まる場所のような感じがあったかもしれません。今日さんは、夏に伊丹市立美術館で開催された時も関連イベントに登壇されていましたし、今回もトークにご出演されることになったわけです。関連企画は各地の学芸員が独自に企画しているので、今、岡崎京子さんを語っていただくならこの人と、今日さんの名前が必ず挙がるのはすごいことですよね。

(今日)非常に光栄というよりは、私はただのファンというか、ファンにしてもディープなファンには怒られそうなくらいなんですけど、本当に岡崎京子さんを好きでよかったなと思いますね。関連イベントに呼んでいただいて、私なんかで良いんでしょうかというところですね。

(庭山)岡崎さんのコミックは普通より少し大きなA5サイズのものが多いですが、今日さんもそうしたコミックの世界でたくさんアーティスティックな作品を描かれていて。かつお二人ともマンガ雑誌以外にもいろんな媒体で、ジャンルを越境するようなお仕事をされている。ひとまずはそんなところで、お二人が重なって見えるのかなと思います。ただ、お二人にはそれ以上の共通項があるのではないかと思っていて、今日はそのあたりも垣間見えるお話になればと思います。
まず、お二人とも読者に長く読み継がれているという点が共通しているなと思うんです。今日さんの『センネン画報』や『cocoon』は、ずっと版を重ねられていますよね。

(今日)重版をされたからといって読まれているというわけでもないんですけど、いわゆるサブカル系のマンガにしては非常によく出ている方だとは思います。

(庭山)『センネン画報』はもう10年以上前になりますか?

(今日)2008年の初頭に出版されていて、でも描いてる期間を合わせると10年以上前なんです。

(庭山)少し前の作品が新しい読者に読まれて、感想や反応が届くことで感じることはありますか。

(今日)特に『センネン画報』は私にとっては処女作というか、描きたいというエネルギーをそのままぶつけていたような作品集なので、そういう力が若い人たちにも通じるのかなと思っています。それと、結構前の本になってしまうので「初恋の人にもらったけど、その人とは別れてしまって、でも本だけは読み継いでいます」という感想もありました(笑)。

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(庭山)そうやっていろんな人びとの思い出の本になっていくんですね。今日さんと違って、岡崎さんの場合は残念ながら多くの作品が書店で手に入る状況ではなくて、時々ネットですごい高値がついていたりもします。岡崎作品のファン層はかつて読んだ30~40代位の女性が多いと思うので、来場者もそういう方で占められるのかなと思っていたんですが、東京で展覧会の蓋を開けてみると60代以上の方も沢山いらしていましたし、10〜20代の若い方が思いつめたように原画を見つめているのを会場でよく見かけたりして、岡崎作品は世代を超えるのだなと嬉しかったですね。そういえば余談ですが、今日さんにギャラリートークをしていただいた時に、70才位かなという女性の参加者がいて、この方も読者なのかなと思ったら女優の京マチ子さんの話が聴けると思って来た方でした…(笑)。でも楽しんで帰られたようだし、その方は例外としても、幅広い層の方が来ていました。
さて、お二人のデビューについていうと、マンガ雑誌で受賞してという通常のデビューの仕方とは違う形で人気を博していかれたのも少し共通しています。岡崎さんが最初に注目されたのは、全頁が一般読者からの投稿で埋まっている「ポンプ」という雑誌で、そこに岡崎さんは毎号のようにイラストや文章を投稿されています。「ポンプ」の編集長だった橘川幸夫さんが最近、『ロッキングオンの時代』という本を出版されましたが、それによると岡崎さんは、イラストを束になるほどの量で毎月送っていたそうですね。時期としては岡崎さんが高校生から短大に通われていた頃ですが、その頃すでに岡崎京子ファンクラブまでできていたそうです。今日さんも学生時代は、ノートにたくさん絵を描いたりするような少女だったんですか。

(今日)そうですね。ただマンガ家になりたいわけじゃなかったので、岡崎さん的だったと思うんですよね。ただマンガっぽい絵が描きたいみたいな。ストーリーは出てこないけれども、断片を描きたいという感じでしたね。高校でも1ページマンガを描いてたことは描いてたんです。それがマンガだとは認識してなくて、1ページ内にレイアウトされたイラストと、ややストーリーみたいなものがある感じですかね。

(庭山)あまりマンガと認識せずに描いていた、というのは面白いですね。

(今日)マンガは好きでしたけど、マンガ家になろうとは思っていなくて、志望としてはイラストレーターに近かったですね。ただイラストレーターだけだと物足りなくて、物語のようなものを描く人なりたいと思っていました。もしかしたら絵本作家とか、そういうものの方が近かったかもしれない。

(庭山)それは今に繋がっていますね。

(今日)ただ「そういうあやふやな志望だと職業にならないよ」みたいなことを先生に言われて、それはそうだと思いましたね。

(庭山)マンガをよく読まれていたということですが、どんなマンガを読まれていたんですか。

(今日)高校生の頃は本当に「ガロ」が大好きで、丸尾末広先生とか花輪和一先生とか、そういう方面を読んでいました。

(庭山)いわゆる少女マンガ雑誌などは読まなかったんですか。

(今日)私そもそも恋愛が大嫌いで(笑)、自分も女性誌に描いているんですけど、読者としては読めないんです。なんか突っ込んじゃうんですよね。「こんなやついないよ」みたいなことを。 

(庭山)女子中高生の王道みたいなものは通らずに来たと…

(今日)多分「女子ならみんな恋愛好きだろう」みたいな押し付けがそもそも当時から嫌で、そういうのもあって読んでいなかったっていうのもあるかもしれないですね。でも本当に名作は読んでいるので、大丈夫です。

(会場)

(庭山)すごく清潔な少女を描いていらっしゃるイメージがあるので少し意外ですね…けっしてガロが不潔ということではないのですが(笑)、そこから何か転換があったんですか。

(今日)転換はないんですけど、絵の線の数を減らしていくうちに自然とですね。でもガロでも鈴木翁二さんとか、線の数の少ない方っていらっしゃるので、そちらの方を参考にしつつ、内容はガロ的なもので進んでいった。そうすると『cocoon』なんかに繋がっていくんです。

(庭山)さっきのお話に戻ると、岡崎さんが束になるようなイラストを毎月描いていたとか、今日さんもノートにたくさん1ページマンガを描かれていた。それは作品をつくるというより、日々描くという行為の方が根底にあるという感じなのでしょうか。

(今日)10代で体力、気力ともに有り余っていて、そこにマンガとかアートが好きとなると、自分でやってみたくなるんだと思うんです。とにかく作品にする気はないんですけど、ぶつけていくっていうのが岡崎さんのその紙の束だったと思うんですよね。

(庭山)岡崎さんの初期作品にも、そんな衝動が感じられると。

(今日)やっぱり描く絵柄とか、「今この東京に生きている私」みたいなものが、ものすごくぶつけられているなと思いますね。

(庭山)『センネン画報』と表現の仕方は違いますが、瞬間的なものやその場の空気感を写し取っているという意味では、初期の岡崎作品も似たところを感じます。岡崎さんのデビューのきっかけになったのはミニコミ誌の「東京おとなクラブ」ですが、今日さんもご自身で、「Juicy Fruits」というミニコミ誌を大学時代につくられていたんですよね。

(今日)そうですね。でも岡崎さんは編集さんがちゃんといるようなミニコミで、私は完全に自分でしか作っていないので、天と地の差があるという感じですけど。

(庭山)どんなものだったのでしょうか?

(今日)雑誌でもなんでもなくて、1ページのイラスト新聞みたいなものをずっと描いていて、それが貯まったら10枚セットにして本屋さんで売ってもらうというものですね、本当に手作りです。学校に通う時間が長すぎたので、通学時間で描いていました。行きで描いて、駅で降りたらコンビニでコピーして学校に貼って帰って来るみたいなシステムでした。

(庭山)その「Juicy Fruits」は、編集方針みたいなものってあったんですか。

(今日)「Olive」を「GOMES」っぽくするみたいな(笑)。単語知らないと何のことやらな感じですが、ガーリーだけど、すごいアングラ感ある感じのサブカルみたいな。でもポップみたいな。

(庭山)「GOMES」はパルコが発行していたフリーペーパーで岡崎さんも描いていたんですよね。それも当時お読みになっていたんですね。

(今日)そうですね。「GOMES」が大好きで、毎号発行の日にパルコに取りに行くっていうくらい好きだったんです。

(庭山)そういうフリーペーパーの執筆や編集が今のお仕事に生きている部分はありますか。

(今日)当時D.I.Y.女子みたいなブームがヒロミックス以降10年くらいあって、自分を大手のメディアに載せてもらうために合わせるんじゃなくて、「自分でメディアを作っちゃえばいいんじゃないか」みたいな機運があったんですよね。私も、自分で本を作った方が早いと思って、誰からも文句言われない媒体を勝手に作って載せていたというところですね。

(庭山)この展覧会のイベントでもZINEづくりのワークショップがあるみたいですけど、今、個人店主の新しい本屋さんなどに行くとたくさんZINEがあったりして、またそういう機運が盛り上がっているのかなという感じがしますね。

(今日)今のZINEは割ときれいめに、読みやすいように皆さん努力されているという感じですよね。昔のミニコミって本当に汚くて「汚い方がかっこいい」みたいな感覚があったんです。私はそれが割と好きで、もっとコピー用紙で作りましたみたいなのもいいんじゃないかなと思いますね。

(庭山)今日さんの作品や発言を読んでいると、とても取材を大切にされているんだなということを感じます。例えば『ぱらいそ』では長崎に、『アノネ、』ではアウシュヴィッツにまで行かれたり、それが全然別の象徴的な表現になっていたりするのが面白いなと思うんですけど。

(今日)わりとフィクションを描くということを大事にしていて、別に事実に沿ったことは私自身の表現には必要ないなと思っているんですけど、事実を知った上でアレンジしないと、ただの空想のファンタジーよりもさらに違うところになってしまう。まず最初に、一次資料ありきみたいなところで、できるならば取材をするようにはしてます。フィクションの手前の段階で、ちゃんと必ず現実に向き合って描こうということはありますね。

(庭山)面白いですね。いろんな取材先で出会ったものの中から、何かのエピソードや出会った方のお話が、今日さんの中で眠っているものにカチッと歯車がかみ合って、ひとつのエピソードが作品の中心になっていくわけですね。

(今日)そうですね。だから必ず行くようにはしてますね。宇宙とか無理なところはありますけど(笑)、行ける場所は行こうというふうには思いますね。

レポートは第二回目に続きます!

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岡崎京子展
戦場のガールズ・ライフ

2016/12/3 − 2017/1/22

岡崎京子展

ワークショップみんなでつくろう 岡崎京子に捧げるZINEづくりレポート

12/17(土)に行われたワークショップのレポートをお届けします! ZINEを作ってくれるアドバイザー・編集長として、地元・田川を独自の視点で紹介するフリーペーパー「ネゴトヤ新聞」編集長でもある佐土嶋洋佳さんをお迎えしました♪佐土嶋さんは、元田川市美術館職員で、その後ずこう舎を立ち上げ、アートワークショップ、造形教室など多彩な活動をされている作家さんです。
当日はボーダー柄着用で割引ありということで、ほとんどの方がボーダー柄着用で来てくださいました! それだけですでに連帯感があるアットホームな雰囲気に。ご参加の皆さま、ありがとうございます!

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ZINEづくりを始める前にお一人ずつ自己紹介を兼ねて、岡崎マンガの中で一番好きな作品や好きな場面を挙げていきました。どの場面を好きかというだけでなく、何故その場面や主人公が好きなのかを語り始めると、ぐっと深い話やそれぞれの思い出、ひいては人生観に繋がってくるのが面白いところですね。80~90年代を象徴する漫画家である岡崎さんに捧げるZINEづくりワークショップということで、小沢健二、ピチカート・ファイヴなどを制作のBGMに♪さらに佐土嶋さん&アルティアムスタッフ私物の岡崎マンガ、そしてアルティアム所蔵の雑誌「STUDIO VOICE」で、岡崎さんやあの頃のトークに花が咲きます。

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短い時間でしたが、皆さま集中してそれぞれ自分だけの岡崎さんへ捧げるZINEページを作っていただきました。

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佐土嶋さんに編集していただき、出来上がったZINEがこちら! 表紙の蛍光ピンクとのぞく絵柄が可愛いです。そして、このZINEは岡崎京子未完作『森』になぞらえたコンセプトとなっています。

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佐土嶋さんによる、一ページ目の「森につづきがあるように、」序文を紹介します。
「2016年12月17日、岡崎京子を愛するファンたちが集い、この本を作りました。お菓子を食べながら、好きな作品やシーンについて、語り合い、90分という時間はあっという間に過ぎました。 この本は、手に取った人が、岡崎京子作品への思いをどんどん綴じていく、いわば成長する本です。 岡崎京子を愛する私たちはしばしば、『森』のつづきを想像します。100人いれば、100通りのつづきがあるでしょう。『森』につづきがあるように、この本も手に取った人の手元で、どんどん成長してくれれば幸いです。」

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大変な力作揃いです!お一人ずつ挙げていただいた一番好きな岡崎マンガのワンシーンとそれぞれ作ったページが順番に綴じられています。 このZINEのカラーコピーした見本を、会場内の感想コーナーでお読みいただくことができます。ぜひ一度お手に取ってご覧くださいね。

『pink』より

『pink』より

《おまけ》 当日、『pink』に出てくるお菓子をお出ししました。作中で主人公のユミコと妹のケイコがマクビティのダイジェスティブビスケットにピーナッツバター、薄切りのバナナをのせて食べていたあのシーンの再現です。合わせてお淹れした紅茶の名前はマリアージュ・フレールの「EROS」♡恋人たちのお茶として知られている紅茶で、とても華やかな香りのお茶です。気になる方は『pink』を片手に、お家でも試してみてくださいね♪

【展覧会ページ】
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戦場のガールズ・ライフ

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岡崎京子展

会場レポート+感想帳より

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好評開催中の岡崎京子展、会場内のレポートと会場に設置している感想帳から皆さまの声をお届けします!


Prologue
 オンナノコ考現学

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はじまりはプロローグとして、岡崎京子さんの年譜や受賞トロフィー、学生時代のイラストなどを展示しています。岡崎さんの年譜と共に、当時のセンセーショナルな事件や社会的な出来事も記載されているので、時代の空気や記憶を振り返ることができます。懐かしいあの頃がよみがえってくる感覚はぜひ実感していただきたいです♪

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学生時代のイラストは、すでに後の作風に通じる絵柄が見受けられるなど、大変興味深い資料です。


SCENE 1
 東京ガールズ、ブラボー!!

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「SCENE1」では『東京ガールズブラボー』や、主人公サカエちゃんのその後が描かれた『くちびるから散弾銃』の原稿が並びます。『東京ガールズブラボー』は、「サカエちゃんに憧れて上京しました」など人生に影響を受けたというファンも多い、岡崎さんの代表的な作品です。他にも、いとうせいこうさんと岡崎さんの90年の秘蔵トーク映像や、当時の雑誌もご覧いただけます。若かりし日の岡崎さんの姿を見ることのできる映像は貴重なもので、大変人気のあるコーナーです。


SCENE 2
 愛と資本主義

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岡崎作品でも特に人気の作品『pink』の原稿を展示しています。ワニを飼うホテトル嬢ユミコが主人公のこのマンガは、岡崎さんの作品で転換点になったとも言える作品です。会場内には「お金でこんなキレイなもんが買えるんなら あたしはいくらでも働くんだ。」という『pink』の名台詞をはじめ、印象的なフレーズがところどころに散りばめられていて、言葉の強さにもぐっとくるものがあります。

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そして、2013年に蜷川実花監督、沢尻エリカ主演で映画化され大きな話題となった『へルタースケルター』の原稿、原画も展示しています。代表作『ヘルタースケルター』の研ぎ澄まされた線の美しさは必見です!


SCENE 3
 平坦な戦場

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『リバーズ・エッジ』の展示室は照明を落とした小部屋となっており、雰囲気が一変します。やはり『リバーズ・エッジ』を抜きにして、岡崎京子を語れないというほどの不動の名作です。「平坦な戦場」という言葉は、元々『リバーズ・エッジ』に引用されたウィリアム・ギブスンの詩から取られています。

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そして最後には、悲しいストーリーと美しい描線で描かれた、『うたかたの日々』や未完作である『森』、『恋とはどういうものかしら?』などの原画のほか、当時の貴重なグッズや資料が展示されています。

展示会場の最後には、岡崎京子さんご本人から福岡会場に頂いたメッセージを展示しています。こちらはぜひ会場でご覧いただきたいです。
合わせて、出入り口には岡崎さんへのメッセージを書く感想帳コーナーを設置しています。会期終了後には岡崎京子さんにお渡ししますので、思いを書き込んで頂ければ嬉しいです。
最後に、皆さまから寄せられた岡崎京子さんへの思い溢れるメッセージを一部抜粋してご紹介します。

・すばらしかったです。福岡に来てくれてありがとう。
・2年前に東京へ行きました。まさか二回目を地元の福岡で見れるなんて思いませんでした。岡崎さんの描く女の子の引力が好きです。
・今だったら、岡崎さんがどういう作品を描くのだろうかとあれこれ想像するのも楽しいです。帰ったら、また読み直したいと思います。
・岡崎京子さん、ずっと大好き。
・この展覧会のためだけに、鹿児島から来ました。1冊1冊集めていたあの頃、夜に歩くとUFOを呼んでみたりしていました。今もふと思い出します。
・昔から岡崎さんの作品が大好きで、歳を経て、ますます好きになっています。作品の輝きは増すばかり。すばらしい作品たちを世界に出してくれて、ありがとうございます。これからもずっと読んでいきます。
・10代20代の頃、自分が生きていた世界がどんなふうだったかその空気を思い出しました。『ヘルタースケルター』や『うたかたの日々』の原画を見られる日が来るなんて。じわっと来ました。
・今日岡崎さんのことを初めて知った33歳男です。女の子って凄い…と感じました。描きこんでない画風で、この迫力は一体どこからくるのかと考えました。一本の線にも力は宿るんですね。
・同じ時代に生きてよかったです。人生半世紀、これからもすてきな女性でいてください。
・ずっと来たかったです。涙が出ました。
・いつまでもあなたの作品は心に刺さります。ありがとうございます。

会期は1月22日(日)まで!会期中、何度でも再入場できるチケットです。皆さまのご来場をお待ちしております!

【展覧会ページ】
岡崎京子展
戦場のガールズ・ライフ

2016/12/3 − 2017/1/22

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アーティストトーク〈井上絢子〉レポート&会場内のご紹介4

4名の作家それぞれのトークレポートをお届けしてきましたが、最後は公募枠で選ばれた井上絢子さんです。現在、地元福岡を離れ、横浜にレジデンス滞在中の井上さん。福岡を出てみて感じたことや、《覚えていて眠る》《それまでのもしも》などの印象深いタイトルが作品に付けられていることについてもお話いただきました。

(以下はアーティストトークを一部抜粋・編集したものです。)

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10年くらいこうやって作品をつくって人前で展示をするという活動をしています。以前から、植物の中でも、街路樹、植栽された人の手の入ったものをよくモチーフに使っています。それは、植物の存在が自分に近いところにあるからです。見慣れた光景というのと同時に、よく見たら虫の食べた葉っぱの後が付いていて気持ち悪いなというような、両極を持っている存在だと思っていて。存在の近さと遠さをどっちも持っている存在だと感じて、気になってよく絵にモチーフとして登場しています。

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展覧会のテーマが「アイデンティティ」で、作品は展示が決まってからほぼ全て描きました。今回も植物を使って、これまでの延長で無理なく描けたというふうに感じています。テーマにしていて、よく考えることは、自分の存在と他者、人に限らず自分以外のものとの距離感を気にしていて、それが「アイデンティティ」という自分の在り方というものと共通するところがあると思い、これまでのまま制作を進めました。

私は福岡出身で、絵描きの活動を始めたのも、ずっと活動していたのも福岡ですが、今年の4月から横浜の黄金町というところに長期レジデンスという形で滞在制作をしていて、一回離れた状態になっています。離れてみて福岡について初めて考えたことがたくさんあって、それまでいた時には全然気づかず考えもしなかったこと、自分の家族などそれまで自分と近かったものを、横浜に行って考えたりしています。福岡を離れてみて自分ってこうだったなというのが分かって。福岡にいた時は、こうしなきゃ、こうであるべきというのを勝手に自分で作っちゃってたというのがあって。それが今外れているので楽になっている部分と、福岡という故郷があるから、足場がある心強さもどちらも感じているような感じです。

今回展示するときに、まず自然光を入れたいという思いがありました。それは外の風景が見えることによって、外のものと自分の作品が繋がるということと、普段昼間は大体自然光で描いているので、制作の環境に近いということがあって。見え方が全然違うんですよね。晴れた日と曇った日も違うし、昼と夜とでまた影響を受ける。地続きで自分の作品の世界と日常の世界が繋がっていくというのがやりたかったことです。

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2年前に一ヶ月半くらい台湾に滞在して制作をしていました。9月末くらいから行っていて、まだまだ暑いし、かなり日差しが強いんですね。使わせていただいていたスタジオも窓が大きくて、かなり外光が入るような状況で描いていて、日本で感じていた光とは違っていて、それはどっちかというと、戸惑いの方が大きかったです。それをどうやって自分に引きつけていったらいいんだろうと戸惑っていた一ヶ月半でした。

作品のスタイルについて、抽象度が高くなったということを言われるのですが、ずっと描いてきて、描き方が大きく変わったりはしてないんですが、描いていく中で、だんだん自分の中で確信めいたもの、こうしたかった、これをやりたいというのが分かってきたと思っていて。分かってくると、描かなくてもちゃんと伝わるし表せると思って、すごく楽になりました。それも福岡から離れて、かなり集中して描いたので、それが変化と言えば、変化なのかなと思います。

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タイトルは、順番でいうと、絵ができたあとに全部付けます。ある意味言葉から外れたもの、言葉にできないものを描いているので、できたものにもう一度言葉を付けることによって、グッとこちら側に戻すみたいな…。意味で理解できないことを、なんとかもう一回言葉に書き直して、意味づけするような作業です。ストーリーもなくて、言葉一個一個の意味より、何か言葉を与えるということが私にとって重要です。

アルティアムでの展覧会は終了しましたが、4人の作家たちの今後の活動も楽しみですね!

 

【展覧会ページ】
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アイデンティティ

2016/11/5 − 11/27

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トークイベント九州と震災とアートレポート4

11/6(土)に開催したトークイベント の様子を全4回にわたってお届けしています!今回はいよいよ最終回!3人のプレゼンテーションのあとのクロストークの様子をお伝えします。第1回第2回第3回は、ゲストごとにまとめたレポートとなっています。

(以下はトークを一部抜粋・編集したものです。)

(野中さん)ず、熊本市現代美術館のお話にすごく感動しました。そもそも熊本の中心部である鶴屋の前の上通りと下通りを挟んだ場所に熊本市現代美術館ができたことは当時ものすごく大きなことだったのです。アートに関わっていなくても入館できて、子どもたちを連れて行けるし、無料でソファにくつろいで作品が見られるし、すごく開かれている。県民にとっても誇りに思える場所です。

僕の場合、地震直後にアートのことを考える余裕がなかったのですが、こうやって美術館を開けた時にすぐ人が来てくれたり、連休に問合せの連絡があったと言う話を聞くと、いかに自分が理性的であることを痛感しました(笑)。被災して、子どもが元気じゃなくなった、傷ついたとか言われていますが、子どもは本能的にはすごく元気なんですよね。大人の言葉を聞いたり、大人の地震の話を聞いたりするのがトラウマになってる気がします。

(坂本さん)子どもは元気ですね。あんなに揺れたのに、うちの子どもなんかは「あの時は避難所で、皆で遊んだり、外でご飯食べて楽しかったな〜また来んかな」などと呑気に言っていて、こちらとしては「縁起でもない、大人はもうこりごりよ!」というやりとりをしたこともありました。でも、一方で、すごくショックを受けられているお子さんもいます。大人は大人で、「子どもを守らなくちゃ」とか、「家をどうにかしないといけない」とか、「館をどうにかしないといけない」という、プレッシャーがすごくありますよね。

(宮本さん)子どもさんの企画(「かえってきた!魔法の美術館」展)から再開されたじゃないですか。あれがすごく印象に残っていて。子どもがちゃんと元気だとまたそれを見て、大人も元気になってくるっていうのは避難所でもありましたね。美術館で子どもさんが喜んでいる画像とかを見ると、すごく私も勇気付けられます。あと、館長さんの言葉が良いですね。「美術館として開けたい」っていうのが、かっこいい。

(坂本さん)やはり、館長のアートに関わる年月の長さを感じましたね。もちろん、災害の度合いによっては、美術館としてじゃなく避難所として開けたほうが良い場面もあるかもしれません。しかし、今回の熊本においては「美術館は美術館として開ける使命は果たせたよ」と、言っても良いかなと思いました。

帰ってきた!魔法の美術館

かえってきた!魔法の美術館

(野中さん)震災の時、一番困ったのは子どものことなんですよね。自分たちは何とかなるんだけど、学校とか休みになっちゃったじゃないですか。最初は三日後に開くとか、一週間後に開くとかで、それが来週までになったよとか、連休明けになったよとか、だんだん伸びていくものだから。最初から連休明けまで閉めますと言われれば、それこそ疎開しますってなるだろうけど、出てこないわけですよ、情報が。子どもってやっぱり子ども同士でいたい。特にうちなんか田舎なので、車でかなり行かないと知り合いの子がいないので、やることがなくなっちゃうんですよ。その時に地震の影響を与えずに、いかに子どもにご機嫌でいてもらえるかっていうことがやっぱりものすごく大変でしたね。

(坂本さん)確かに、南阿蘇村は、一軒一軒が遠いということもあると思います。美術館のある熊本市中央区は、やや都市部ということもあり、いろんな層の方がお住まいで、例えば、街なかなので、若い方も多いのですが、外国人のご家庭ですとか、障害を持ってらっしゃる方、お年寄りのユーザーというのも、すごく多いのです。観光客を意識した美術館というよりも、福祉や教育などを介して、地域コミュニティと触れ合う意味というものが、地震のあとに、より際立って来るような気がしています。

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(ディレクター・笠井)せっかくなので、会場からご質問、ご感想などあれば。

(お客様)この年になりますまで、身近にそういう大きい災害とか経験したことがないんですよ。それで、今回近くでこういう大きな災害が起こりまして、報道の偏りって本当だなって思いました。我々が感じる熊本の地震というのは、あの橋の崩壊した現場、あのイメージなんですよ。南阿蘇近辺全部ああだとインプットされまして。私、野中さんは数年前から存知あげておりまして。お宅にも伺ったことがあったものですから、あの報道を見たときにびっくりしました。あれだけの映像を毎日毎日流されますと、全体がああなっているんだと。こんなときにのこのこお見舞いになんか行ったらどこの能天気だと言われるんじゃないかということまで感じました。外の人間から見ると感覚が全然違いますね。こういう大きな被害、災害とか身近に経験しないとこういうことは分からないと思います。

我々被災者って言い方しますけど、家族や子どもさん亡くされた方から、そうでもなかった方までいらっしゃる中で、我が子を亡くされたような方にとっては、アートなんかってそんな馬鹿なこと言うなよって気持ちだと思います。思いますけど、いろんな層の方がいらっしゃるわけですから、我々結局それぞれのできる立場でできることを躊躇なくやるっていうことが大事なことじゃないかなと今日の話を伺ってそう思いました。本当にありがとうございました。

(野中さん)挨拶に困るんです。坂本さんもそうだと思うんですけど。最初、挨拶の時に、お宅はどうだったって話をできるかできないかっていう空気を読みあわないといけないというのがすごいリアルにありますよね。

(坂本さん)そうですね、話題の中で、探り探りのようなところもあります。

(野中さん)逆に自分のところの方が酷かったらちょっとホッとしたりとかね。相手が大変だった時など、そういうこと知る前に自分の被害状況を先に言っちゃったことを自己嫌悪したりとか。小さなことなんだけど、これが震災っていうものなのかなって思いますよね。ただそんな中でも自分自身は被災者って思ってないところがあります。自分で被災者って決めちゃうと被災者になる。じゃなくて、自分がいつも通りでいればいいわけですから。ご飯を食べていつも通り生きていくっていう気持ちです。だから坂本さんの話で一番感動したのは、日常。日常のための美術館っていうフレーズ。自分も震災直後から普通でいるかっていうことを心がけてツイートしたり、壊れた家の庭先でわざわざいつも通り珈琲ドリップしたりといろんなことやってて、非日常だけど、普通だよっていうことをやっぱり一番大事にしていた気がしますね。

(坂本さん)アーティストのひびのこづえさんが、熊本までお見舞いに来てくださり、その時に、ご自身がデザインされたレースのハンカチを差し入れて下さったことがありました。食料品なども、もちろんものすごく有難いのですが、まさかレースのハンカチをその時頂くとは思わなくって。地震の後、街はグレーがかっていて埃っぽく、電気も暗く、服もあまり構わず、着たきりだったような時に、「あっアイロンがかかったハンカチ」ってものすごく新鮮でした。綺麗な色って、人をこんなに励ますんだなと感じましたし、あの時のレースの美しさを、私は忘れないようにしようと思いました。

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(坂本さん)私は、美術館・博物館というのは、歴史化するというか、長いスパンで物事を続けていくのが、得意な施設だと思っております。今回も、地震から半年や1年という時間の経過に従って、最初はアートではできなかったことが、徐々にアートだったらできることも増えていくかもしれません。そして、私たちの館としてのミッション、DNAには地震という出来事が入っちゃったなと、すごく思ったんですね。地震の前と後では、同じようには語れない。これからも、美術館としての得意技とか良さを生かしていきたいと思います。

(野中さん)宮本さんのお話の中で、アートの相談板をSNSで作ったら、関心がだんだん薄れていったというお話あったじゃないですか。僕は被災直後、雑誌を手に取ろうとさえ思わなかった。自分が撮った本もそうでした。変な話、アートが必要だとは正直考えられなかったです。さすがに直後は余裕がなかったんだと思うんですね。さっきの話と矛盾するかもしれませんけど、震災に対して関心が下降している反面、今、アートの必要性が上がってるっていう感覚があるんですけど、その辺りはどうですか。

(宮本さん)神医療の文献でPTSDに関して読む機会がありまして。被災して半年くらい経つと心の傷っていうのは大体7〜8割の人は自分で治すらしいんです。そういう回復力は人間の中には元々あって、どんなに傷ついていてもそこから、生きる道とか自分にとっての居心地の良い場所とか、工夫していく。その文献はそこで終わっていて、だから、大概治るんだよってで終わってるんです。待って、2割残ってるじゃんって。多分そこの人たちが長引くんですよね。2割の人が治らないっていう意味じゃなくて、治ってるように見える人もその中にそういう部分があるんじゃないかと思って。

自分の回復力を信じてやるっていう時に芸術が役に立つというか、支えになるのかなというふうには思っています。それは、絵とか写真とかっていうビジュアルのものだったり、お芝居とか音楽とかっていう体験するパフォーマンス型のものかもしれないけど。誰かがそういうことを考えてつくった、あるいは全然考えてなくても、例えば、戦争とか宗教の争いで傷ついた人たちが、立ち直る時に、使われたそういったものが必要となってきてるのかな、と今半年経って思います。

(野中さん)常々思うのは、最近、地震が当たり前のことになってきているんですね。メディアとかいろんな問題はあると思うんですけど、関心が薄れる以上に、災害が普通になったことの表れだなと思っていて、毎年の台風や大雨のように災害が普通に起きている。ただその中で、今回経験して一番思ったことは、熊本も予期せぬ震災に非常に混乱したとはいえ、20年前の阪神大震災と東日本大震災での経験の蓄積があったからできたことが相当ありますよね。ボランティアとか、神戸の時までは考えたことなかったじゃないですか。そして、東日本大震災でさらにいろんな経験がつまれて。南阿蘇村でも三日我慢すれば、ものがたくさん届きましたよ。支援物資の水の重さで中学校で体育館の床が抜けましたからね。三日目に自分の寝る避難所に帰ったら、避難所がいきなりホームセンターのようになってました。歯ブラシからナプキンから、非常食からもうあっという間に物資の山です。なので、三日間分の食べるものとか備えておけばなんとかなるし、こういうことが当たり前になってきた今、今日聞いていただいたことが少しでも役に立ってもらえたらと思います。

(笠井)ありがとうございます。今日は本当にお三方の素晴らしいお話と、何より生の声を聞いたなという感覚があります。これから先も関心を寄せ続けていくことを忘れないでやっていけたら良いのかなと思っております。

4回に分けてお届けしてきたトーク「九州と震災とアート」レポート。それぞれのお立場からお話いただき、多角的にこのテーマについてお届けできたのではないかと思います。レポート全編をお読みいただくことで、今私たちにどんなことができるか考えるきっかけになれば幸いです。

【展覧会ページ】
Local Prospects 2
アイデンティティ

2016/11/5 − 11/27

鹿児島睦の図案展

書籍刊行記念サイン会

鹿児島睦の書籍刊行を記念し、会場内にてサイン会をおこないます。下記の対象書籍にサインをいたします。

日時:2017年1月29日14:30〜15:30
会場:三菱地所アルティアムイムズ8F
※参加無料・予約不要要展覧会チケット

対象書籍 ※併設ショップでも対象書籍を販売いたします。
鹿児島睦の器の本美術出版社2,800円 1冊ずつデザインが異なる特装本数量限定/5,200円も販売します。※併設ショップでの販売は終了いたしました。
なにのせる? 文化出版局 / 器・絵:鹿児島睦 お話・企画:ギャラリーフェブ1,600円
Makoto Kagoshima CeramicsChariots on Fire4,000円
※価格はすべて税抜

【展覧会ページ】
鹿児島睦の図案展
Makoto Kagoshima ZUAN Exhibition

2017/1/28 − 3/12

鹿児島睦の図案展

ライブペインティング

会場にて鹿児島睦によるライブペインティングをおこないます。

2015 年図案展(doinel) ライブペインティグ ©ZUAN&ZOKEI

2015 年図案展(doinel) ライブペインティグ ©ZUAN&ZOKEI

日時:2017年1月29日13:00〜1時間程度
会場:三菱地所アルティアムイムズ8F
※参加無料・予約不要要展覧会チケット

【展覧会ページ】
鹿児島睦の図案展
Makoto Kagoshima ZUAN Exhibition

2017/1/28 − 3/12

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