チャペック兄弟の絵本・ブックデザイン・舞台

オープニングイベント 講演チャペック兄弟の創作とその時代 レポート後編

初日に阿部賢一先生をお迎えし開催した講演「チャペック兄弟の創作とその時代」レポート後編です。前編と合わせてご覧ください。

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新聞記者/『郵便屋さんの話』『ダーシェンカ』

チャペック兄弟は、新しくクオリティーの高い、子どもも楽しめる文化を作ろうとしていました。今回展示されている『長い長いお医者さんの話』もそうですが、実はこれは依頼原稿です。この時代の新聞記者はいろんなものを書いて紙面を埋めていかなきゃいけない。一人何役もこなすわけです。カレルとヨゼフは、「日曜版」に子ども用の読み物も書いています。
チャペックの児童文学の特徴は、王様などが出て来ることもあるんですが、郵便屋さんなどの毎日見かける身近な人を素材にしている点があります。チャペックはお話というのは、身近なことや、生活から生まれてきているんだと言っています。
その中のひとつである『郵便屋さんの話』は、郵便配達員のコルババさんがうつらうつらしていると、夜中に小人たちが現れて、手紙でトランプをしている。一枚だけ温かい手紙があって、これは心がこもっている手紙だと。でもその手紙には、宛名も差出人も書いてないんです。コルババさんはどうしてもその手紙を届けたいと、1年かけて手紙を届けるというお話です。実は教育的な側面があると思いますが、コルババさんが配達先を探しているところで、チェコのいろんな名所が出てきて、チェコの風土巡りのようにもなっているんですね。絵を描いたのは、お兄さんのヨゼフ・チャペックです。ペンで描いた非常にシンプルなものですが、それは新聞用だからなんです。新聞には縮小して掲載されるので、大きな輪郭が強調されています。

『ダーシェンカ』 出典: http://www.digitalniknihovna.cz/mzk/view/uuid:c121cd00-2d8e-11e2-89c9-005056827e51?page=uuid:fd5c89454792a3d3fdc165df8edcd95b

『ダーシェンカ』
出典:
http://www.digitalniknihovna.cz/mzk/view/uuid:c121cd00-2d8e-11e2-89c9-005056827e51?page=uuid:fd5c89454792a3d3fdc165df8edcd95b

『ダーシェンカ』の表紙を見てください。
文章を書き、
絵を描き、
写真を撮影し、
挑戦したのは
カレル・チャペック
と書いてあります。カレルは決して児童文学の専門家ではない。『ダーシェンカ』も依頼原稿ですが、ニーズがあるならトライしてみたという感覚でしょうね。それはやっぱり、この時代のチェコの雰囲気だと思います。この時代のチェコスロヴァキアはありとあらゆるものを急いで作らないといけない時代で、まだそんなに専門家がいなかった。優秀な人にはいろんなジャンルの仕事が多く舞い込んだということです。だからこそ、固定観念がなく、新しいものができたと言えます。実は装丁家のカレル・タイゲはこの作品で、テキストとイラストに加えて、写真も使っています。児童文学でフォトモンタージュを使ったのは、この1933年の『ダーシェンカ』が初めての例だと言われております。そして、カレルが描いたイラストも一筆書きですね。ヨゼフの影響を受けていると思いますが、素人とはいえ、非常に卓越した観察眼と表現力を持った人物だと思います。

画家ヨゼフ・チャペック

チャペック兄弟は二人とも、フランスの文化、芸術に傾倒しています。フランス的な芸術潮流がチェコに生まれますが、その先駆的な存在がヨゼフ・チャペックでした。カレルはフランスの詩を翻訳して、近代的なチェコの詩の石杖を築きました。ヨゼフはキュビスムの影響を受けていて、ピカソの作品と通底しているような、いろんな視点から描いた絵画作品を残しています。

キュビスムの多視点的手法は、カレルの小説にも表れており、ヨゼフがカレルに影響を与えていると言えると思います。カレルの小説『流れ星』は、ある嵐の夜に飛行機が墜落します。男の人が意識不明で身元を証明するものがなく、ある病院に運ばれます。でも、識別できるものがなくて、その人は患者Xと呼ばれます。そこにたまたま居合わせた何人かの人が、じゃあこの人はどういう人なのか、ということでいろいろと推理を働かせていくという物語です。尼僧看護婦、千里眼の超能力者、詩人という人たちが、それぞれの立場から推理をする。これはキュビスムと同じで、いろんな視点から書いていくけれども、答えは言わない。どれかが正解というわけではありません。カレルはこうした相対主義のやり方、検討に検討を重ねるという形で、小説やエッセイを書いています。そういった意味では、カレルのキュビスム的な小説、ヨゼフのキュビスム的絵画というのはどこかで通じるものがあったというわけです。

カレルはおとぎ話をつくる時には生活から出る身近なものを書きましたが、ヨゼフも絵画作品においてそうしたものを描いています。ヨゼフは1910年代にキュビスムの前衛的な作品に出会ったんですけども、1920年代は子どもを主題にしたものが増えていきます。その理由の一つには、娘アレンカの誕生があります。ヨゼフが書いた童話作品では、最初に彼女に読み聞かせて反応を見て、加筆修正していくという形で書かれていたと言われています。
また、ヨゼフはいわゆるアフリカの芸術や彫刻にオマージュを捧げていると同時に、日曜画家の絵が大変素晴らしいという内容の著作『原始民族の芸術』を出版しており、ヨゼフは絵画表現においてアマチュアであり続けようとしたと言えると思います。

ヨゼフの装丁/カレルの著作

チャペック兄弟二人がともに力を入れてきたのが本づくりでした。ヨゼフの装丁には、幾何学的なキュビスムの感覚が見られます。ただし、シンプルな一色刷りが多く、複雑な多色刷りや凝ったグラフィック加工はやらない。シンプルで幾何学的なんだけれども、図案の配置を計算し尽くして立体的で躍動的なブックデザインになっている。パッと目を引く、そういった効果を出すために非常に細かいことをやっています。展覧会場でぜひ実際に見てお楽しみください。

チェコは中世の宗教戦争で負けたことで、貴族階級があまり存在しないんです。国ができた当時ほぼ均一な社会階層になっていた。芸術家たちはそうした市民に楽しんでもらえる芸術ということで、本作りに力を入れていました。本は買おうと思えば買えるんです。そして書棚に置くだけでちょっとしたアートになる。そういった一番身近な芸術が本でした。

ロボット

最後に「ロボット」についてお話しします。1920年に発表された戯曲『R.U.R.』から派生した言葉です。『R.U.R.』というタイトルは、「ロッサム社のユニバーサルロボット」という意味です。展覧会会場には、ベドジフ・フォイエルシュタインという人が描いた舞台案が展示されています。大変貴重なものですので、ぜひご覧いただきたいです。非常に色彩豊かで近未来的な、1920年代としては先端的な表現です。フォイエルシュタインは日本と所縁がある作家、美術デザイナー、建築家で、東京の築地の聖路加国際病院を手がけています。チェコ系の建築家が日本にも数多く来ていたんです。
「ロボット」と言う言葉の由来はちゃんとわかっています。しばしばいろんなクイズとかで「ロボットを発明したのは誰ですか」「カレル・チャペック」というのがありますが、これは間違いです。実はヨゼフ・チャペックなんです。カレルが「人工の労働者をどう呼んだらいいのか分からないんだ」とヨゼフに相談したところ、「ロボットにしたら」と。ロボットとは、チェコ語で「ロボタ」、つまり「賦役」を意味します。
もう一つ間違っていはいけないのは、カレルが描いたロボット像です。みなさん「ロボット」と聞いてどういうものを思い浮かべますか。

出典: https://www.denofgeek.com/us/culture/279175/the-legacy-of-rossums-universal-robots

出典:
https://www.denofgeek.com/us/culture/279175/the-legacy-of-rossums-universal-robots

これは1938年にBBCテレビが作ったロボットですが、どうですか。金属っぽくて、動作がカクカクしていそうな。これは、カレルの戯曲を読んでいない証拠です。戯曲にはロボットとはどういうものか、ちゃんと書いてあります。「金髪の女性には典型的なうぶ毛まであります。目は小さめですけれど」と。実は人間の造形そっくりなものとして考えられていたんです。今で言うアンドロイド寄りです。ロボットの作り方も書いていて、粉末を混ぜて作るというシーンがあります。日本語だとよく分からないんですが、チェコ語で「チェスト」、つまり「練り物」を指します。プラハに昔からあるゴーレム伝説というユダヤのお話があります。土くれから作った人造人間がいて、あるお守りの言葉を入れると自分のいうことを聞いて、自分の二倍の仕事をしてくれる召使いとして作ったという内容です。つまり、チャペックがいきなりゼロから人造人間を作り出したのではなくて、ゴーレム伝説が下敷きになっている。ゴーレム伝説では、ある時お守りの言葉を入れ忘れて、夜になって召使いが暴れ反乱を起こしますが、この内容もチャペックの『R.U.R.』と重なっていますね。

おわりに

チャペック兄弟は生活に根ざした考えを持ち、日常生活を大事にしていました。カレルは徐々に電車も満員電車になって、人間らしさが失われてきている、仕事をするために仕事をしていると危惧していました。カレルもヨゼフも、人間らしさ、生活感を大事にし、どこか超えてはならない一線という意識を持っていて、それを超えるものとして生まれたのがロボットという造形だったかもしれません。

チャペック兄弟は、皆さんにいろんな入り口を作ってくれています。純粋にかわいいもの、SF的なもの、思索へと誘うもの。チェコスロヴァキアという新しい国ができて、新しい芸術、娯楽、哲学、思想、美術、本を作り上げていった二人です。いろいろな入口から入って、チャペック兄弟の世界、そしてチェコ、さらには中央ヨーロッパへと興味を広げ深めていっていただければと思います。今日はありがとうございました。

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本展会期は7月15日(月・祝)まで。阿部賢一先生の講演レポートを読んで展覧会をご覧いただくと、違った発見があるかもしれません。ぜひ、足をお運びください。

【展覧会ページ】
「ロボット」誕生100年記念
チャペック兄弟の絵本・ブックデザイン・舞台

2019/6/8 − 7/15

チャペック兄弟の絵本・ブックデザイン・舞台

オープニングイベント 講演チャペック兄弟の創作とその時代 レポート前編

展覧会オープニングイベントとして、中東欧美術および文学を専門に、多数翻訳を手掛け、東京大学で准教授として教鞭をとっている阿部賢一先生をお招きし、チャペック兄弟が生きた時代とその創作についてお話いただきました。非常にわかりやすく面白いと大好評でしたので、その内容を抜粋・編集したものを2回に分けてお届けします!

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(阿部賢一) 今日はこういった機会に福岡でお話しできて大変嬉しく思います。

カレル・チャペックが「ロボット」という言葉を世に出したのは1920年、ちょうど100年前のことです。私たちが知っている人造人間の雛形を作ったのが、このカレル・チャペックという人物です。今日は、なぜこの時代にチェコスロヴァキアで「ロボット」という言葉が生まれたのか、なぜチャペックという作家が誕生したのか、ということをお話していきたいと思います。

チェコスロヴァキア共和国

出典:„Atlas Světa“ Praha: Vojenský zeměpisný ústav v Praze, 1931. (https://cs.wikipedia.org/wiki/Soubor:R%C4%8Cs._Pom%C4%9Bry_n%C3%A1rodnostn%C3%AD.jpg)

出典:„Atlas Světa“ Praha: Vojenský zeměpisný ústav v Praze, 1931.
(https://cs.wikipedia.org/wiki/Soubor:R%C4%8Cs._Pom%C4%9Bry_n%C3%A1rodnostn%C3%AD.jpg)

チャペック兄弟は、チェコスロヴァキアができた時代の立役者です。1918年、第一次世界大戦でオーストリア=ハンガリー帝国がなくなり、チェコスロヴァキアという国が誕生しました。こちらが当時の地図です。非常に横長い。左側が今のチェコです。国境が、ドイツ、オーストリア、ポーランドに接している。このオレンジのところは、今日のウクライナになります。かつてのチェコスロヴァキアはとても大きかったんですね。住んでいる民族で色分けしています。最も多いピンクがチェコスロヴァキア人です。左側の水色がドイツ人。ドイツ系の人々が当時から多かったということがお分かりいただけると思います。緑がハンガリー系。オレンジはポーランド系、あとはロシア、ウクライナなど。チェコスロヴァキアは多民族、多文化の国でした。
国ができあがった時に中心となったのが、マサリク大統領です。私たちにとっては、国ができるという感覚は分かりづらいかと思うんですが、国ができるということは、すべてを一から作るということです。紙幣をつくる、切手をつくる。ありとあらゆる役所、省庁、かつては領事館しかなかったところが大使館になる。一夜にしてとは言いませんが、短期間の間に、すべてをプラハで担うようになります。その時に活躍したのは官僚や政治家だけでなく、あらゆる文化人も動員されました。例えば、チェコスロヴァキア建国後作られた10コルナ紙幣。国の依頼で、皆さんご存じのアルフォンス・ミュシャ(チェコ語の発音ではムハ)が手がけました。国から依頼され、芸術家たちが短期間でそれまでなかったものを作った時代でした。今日お話しするカレル・チャペック、ヨゼフ・チャペックの芸術家兄弟も、ミュシャのように、チェコスロヴァキア建国時に大きな役割を担ったのです。

チャペック兄弟

出典:https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Karel_a_Josef_%C4%8Capkov%C3%A9_1927.jpg

出典:https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Karel_a_Josef_%C4%8Capkov%C3%A9_1927.jpg

カレル・チャペックは、小説やおとぎ話の作家、劇曲家として知られていますし、ヨゼフ・チャペックは画家として知られています。日本ではあまり訳されていませんけど、ヨゼフは詩人でもありました。共通するのは、二人とも生涯記者であったということです。彼らは、チェコスロヴァキアができてから、第二次世界大戦が始まる前の1939年3月にチェコスロヴァキアがドイツ保護領となり、国がなくなるまでの約20年間に8〜9割の作品を作りました。

カレルはその前年1938年のクリスマスに48歳という若さで、肺炎が原因で亡くなっています。ナチスの侵攻が続いている状況で、プラハ城の聖ヴィート大聖堂で夜通しクリスマスに祈り、寒くて体も冷えて、肺炎にかかったのではないかと言われています。
ヨゼフも当時非常に影響力のある人物だったため、すぐ捕まりました。初めはいろんな収容所で絵を描く仕事をしていましたが、最終的には強制収容所で亡くなったと言われています。ヨゼフがいつどこで死んだのかは、遺体が見つかっておらず分かっていません。

じゃあ、新しい国ができてわずか20年で無くなってしまうという状況の中で、二人は何をしたのか。画家であるミュシャが切手や紙幣のデザインをした時に、作家であるカレル・チャペックは言論空間、つまり社会情勢の基礎となる言葉を作っていきました。新聞にいろんなエッセイや政治的な記事、チェコスロヴァキア人の文化生活について書きました。また、カレルは毎週金曜日に自宅に文化人を招いていたのですが、この「金曜日会」にマサリク大統領もお忍びでやってきて、いろんな議論をしたと言われています。

出典:https://cs.m.wikipedia.org/wiki/Soubor:T._G._Masaryk_a_K._%C4%8Capek.gif

出典:https://cs.m.wikipedia.org/wiki/Soubor:T._G._Masaryk_a_K._%C4%8Capek.gif

カレル・チャペックの作品を紹介しますと、みなさんご存じの『長い長いお医者さんの話』、『ダーシェンカ』といった児童文学。それから『ロボット(R.U.R.)』のような近代SF。『絶対製造工場』や『クラカチット』といった放射能を想起させるような作品。不死の女性が登場する不滅をテーマにした戯曲『マクロプロス事件』。短編推理小説『ひとつのポケットから出た話』。哲学小説も書いています。いろんなジャンルを書いているんです。これはチェコスロヴァキアという国が新しくできたということと密接に関係しています。こういったことは、この人はこの分野といった住み分け、つまり専門化が進んでいるフランスやドイツでは起きない現象です。もちろんチェコ文学というのは以前からありましたが、国の人口も増えて、共通して読める国民文学となるのはこの時が初めてだったんです。そこで、カレル・チャペックは、子どもから大人まで、さらには哲学、SFもの、息抜きができるようなエッセイまでと、縦横無尽にありとあらゆる層を対象に書き、文学の土台を作ったのです。

さらに特徴的なのは、それらの作品の多くが新聞小説だったことです。彼はジャーナリストだったので、都度どんどん書いていった。かつて夏目漱石がそうだったように、チャペックの主要な作品は新聞小説で読まれてきました。単に今のように、特定の小説家が特定の小説を書いて、文学好きな人が読むというのとはちょっと違います。日本だと明治時代あたりを想像していただければと思いますが、特段文学好きというわけではない層も、この時代は新聞小説を読んでいた。先ほど言った言論・文化空間というのはまさにそういうことで、今まで以上に日常の出来事も含めた問題が作品で書かれていました。あとは『園芸家12ヶ月』というマニアックなエッセイや旅行記もありますし、いろんなジャンルの作品を多数書いていったのです。

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レポートは後編へ続きます。

【展覧会ページ】
「ロボット」誕生100年記念
チャペック兄弟の絵本・ブックデザイン・舞台

2019/6/8 − 7/15

日常のとなり anno lab

オープニングレセプション レポート

初日にanno labの皆さまをお迎えし、オープニングレセプションを行いました。活動拠点の福岡で初個展ということもあり、たくさんの方にご来場いただきました。当日の様子をお届けします。
(以下はオープニングレセプションでのトークを一部抜粋・編集したものです。)

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(アルティアム・安田)本日は「日常のとなり anno lab」オープニングレセプションにお集まりいただき、ありがとうございます。本日は、anno labのメンバーの皆さんに来ていただいています。

今回、「九州発信プロジェクト」という九州の魅力的な取り組みや表現活動を紹介するプロジェクトの一環として、anno labにお声掛けさせていただきました。 anno labは地元・福岡を拠点に、福岡市科学館、福岡市動植物園、福岡タワーなど、地元に根付いて活動をされているところ、「世界一楽しい街を創る」をモットーに活動されているところに興味を持ちまして、anno labだったらどんな展覧会をつくるのだろうと思ったのが、本展のはじまりです。

「日常のとなり」というテーマで、ここにリビングの部屋が出現し、実はこの中に、約20点の作品が潜んでいます。このあと、どこに作品があるのか発見し体験を楽しんでほしいと思います。

それでは、anno labの代表である藤岡定さんから、今回「日常のとなり」をテーマに設定した思い、どういったところを楽しんでほしいかをお話しいただければと思います。

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(anno lab代表・藤岡定さん)今日はお集まりいただき、本当にありがとうございます。この展覧会で、「日常のとなり」をテーマに設定したきっかけですが、元々ぼくたちがものをつくる発想の中で、日常に落とし込んだ作品をつくりたいという思いがあります。

ものをつくる時のアプローチとして、非日常をつくりだして、日常を忘れて楽しい気分になってもらう方法もあると思います。一方で、ぼくたちはどちらかというと、日常自体をどんどん楽しくすることで、人生がどんどん豊かにになっていくのではないか、という思いがあり、日々ものづくりをしています。

この空間コンセプトは、まず実家に帰ってきた感覚になってもらおうと考えました。会場の入り口である押入れの中から服をかき分けて入っていくと、「なんじゃこりゃ!家やん!」という驚きとともにスタートしてもらいます。

こういった日常の空間をつくりだし、13人のメンバーが、それぞれの視点で、日常を切り出して、日常のとなりにどんなものがあれば、自分はわくわくするだろう、どういうものに知的好奇心を持って、ここまで生きてきたのだろうと考え、約20点の作品として形にしてもらいました。それぞれに味のある作品ができたのではと思います。

このリビング部屋の空間には、何の説明やキャプションもなくて、どこに作品が存在するのか、全く分からない状態ですが、実は、奥の空間では、リビング部屋の空間と同じ間取り図になっていて、ソファーやテーブルなどそれぞれの位置にどういった作品が仕掛けられているのか説明しています。

リビングの部屋で運良くいろんな作品を見つけられた方は、もちろん楽しんでいただけますが、もし見つけられなかった方も、奥の空間に入って、こういう作品があったんだ、じゃあもう少し遊んでみようと、楽しんでいただける仕組みになっています。

皆さまには、会場内の様々な作品を体験して、自分の日常を振り返り、日常でどういうことをすれば、もっとわくわく暮らすことができるだろうという発想に至るきっかけになればと思っています。

この作品をつくるにあたって、いろいろな方にご助言、ご鞭撻をいただきました。アルティアムにも本当に感謝しています。そして、メンバーの方々、来ていただいた皆さん、本当にありがとうございます。それでは、皆さん楽しんでください。

(安田)ありがとうございました。
会期中は、二つのイベントを予定しております。一つは、5/12(日)に、anno labと建築事務所Drawing Heads Fukuokaさんが共同開発した建築知育玩具KUMICAを組み立てて遊ぶワークショップを行います。イムズB2Fで11〜16時の間、予約不要で随時参加できます。ぜひ遊びにいらしてください。
もうひとつ、5/18(土)にギャラリーツアーを行います。会場内でanno labの皆さんが作品について解説いたします。この作品にこういった意図があったんだという発見のあるギャラリーツアーになるかと思います。こちらも予約不要です。ぜひご参加いただければと思います。

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2012年に九州大学芸術工学府出身の4名で設立されたanno lab。現在のメンバー13名による作品を日常空間の中で見つけながらお楽しみください。
会期は6/2(日)までです。※休館日5/21(火)。ぜひ、会場に足をお運びください!

【展覧会ページ】
日常のとなり
anno lab

2019/4/27 − 6/2

田根 剛|未来の記憶

田根 剛 トークイベント レポート3

田根 剛 トークイベント「Archaeology of the Futureー未来の記憶 Image & Imagination」』レポート最終回です。第一回目二回目と合わせてご覧ください!

ホーム

(池田美奈子さん)今パリに事務所を持っていらっしゃるということですが、田根さんにとって、ホームはどんな所でも良いのでしょうか。現在たまたまパリということなのか、どこに行っても外部者という立場を好むのか。拠点やホームについてはどのようにお考えでしょうか。

(田根剛さん)あまり考えてなかったかもしれないです。現場がホームという感じです。今回も福岡に良い展覧会をつくろうという思いで来ているし、次の現場があればそこで一生懸命働くし、パリに戻ったらその中で日々の仕事をする。今は、現場で一生懸命やることがホームという感じですね。

(池田さん)なるほど。

(田根さん)その時にチームワークが重要で、関わる人たちとの信頼づくり、良い意識を持ってその場その場で活動するようにしています。

 

基本に戻る

(池田さん)バックグラウンドも価値観も国籍も違うであろう30数名の方々とチームワークをつくるときに、何を大事にされていますか。

(田根さん)今年初めにスタッフに伝えたのは、もう一度自分たちの基本に戻ろうということ。大きな展覧会も含めて、去年はかなり大変な一年でした。その一年を終えて、彼らにも自分にも言い聞かせたのは「back to the basic」。最も基本的なところに戻る。
日々働いていると、今日ここに何をしに来たのか考えなくなってくる。毎朝何がしたくてこの場所にいて、何をしようとしているのかという意識や思いが、ちゃんと自分自身に問いかけられているか。
ここで仕事をしたい、こういう建築をつくりたいという思いが、毎日の仕事のベースにあってほしいと。それを問いかけながら、この一年仕事をやろうと彼らに話したし、僕自身もこれから先に向けて、その基礎が固まらないともっと先にいけないなと思いました。

(池田さん)何か転機があったのですか。

(田根さん)去年本当に大変だったということ、そして全て出し切ったからですかね。10年以上の仕事を、展覧会と「Archaeology of the Future」というマニフェストも含め、多方面に紹介してくださって、自分たちの手を離れて何かが伝わった印象がありました。
そこから更に次のステージにいきたいと思ったときに、原点に戻って基礎を固めないといけないと思った。このままやっていけば良いと安心したくなかった。ここからまた次に行くために、今何をしたら良いのかをもう一度、自分に問わないといけないということです。

(池田さん)厳しいですね。そのまま進むこともできそうですが、それは見直して、常にとどまらずにチャレンジされている。

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考えなくていいことは考えない

(池田さん)例えばエストニアのコンペは当時26歳で若くして挑戦されていますよね。エストニアは当時、安定したかしないかくらいの、政治的にも転機だったと思います。
非常に思い切ったことにチャレンジされているなと思います。そういうところにあえて飛び込んでいこうと思われた理由をお話いただけますか。

(田根さん)そうですね。チャレンジ精神は大事だと僕は思っているので、自分自身が本当にやりたいのか、ということ以外はあまり考えない。
20歳から海外に住み始めたことも含めて、大変だったけど一生懸命だったし、いろんな人の力もあってそれなりに楽しくできた。あまりやる前から大変そうだとか、頭で分かったかのような気になるより、とりあえず行ってみて、大変でも頑張ってみれば良いんじゃないかと思っています。

エストニア国立博物館も完成まで10年かかって大変でしたね、と言われます。大変だったかもしれないけど、やることもいっぱいあったし、どれだけやっても足りないほどの大きなプロジェクトだったので頑張るしかなかった、ということですよね。

(池田さん)規模もそうですし、転換期を迎えた国だった。エストニアにとっての最初の博物館ですか。

(田根さん)エストニアがソ連から独立をしたとき、国の約束として、国立博物館、美術館、オペラ座の三つをつくると宣言しました。実は過去に国立博物館という民族の精神を語る場を絶対につくりたいと、2、3回コンペも実施されましたが、頓挫したという経緯もありながら、いよいよ開かれたのが2005年の国際コンペで、初めて参加しました。

(池田さん)ある意味、エストニアという国のアイデンティティー、希望を背負った感じですよね。

(田根さん)もちろんそういった背景を建築が背負うことも大事ですが、一方で、何か創造していくというのは、規模が小さかろうと大きかろうと、考えすぎて、背負い込むのも良くないと思っています。

(池田さん)自由にできなくなる感じがしますね。

(田根さん)そうですね。様々な制約から解き放たれて、自由にものを創造できるのが建築の魅力なので。建物をつくる為の法律や予算のしばりはあっても、「建築を考える」ことは、本当に自由にやっていたいなと思います。考えなくていいことは考えない、考えたいことを一生懸命考えるというスタンスでやっています。

(池田さん)考えなくてもいいことは考えない。大事ですね。

 

三つの部屋

(池田さん)展覧会の見方があれば教えていただけますか。

(田根さん)展覧会場は、三つの部屋に分かれています。「Image & Imagination」というサブタイトルに基づいて、Room1は僕らのプロセスの原点ともいえる膨大なイメージの空間があります。Room2では、ものしかない空間に変わり、建築のプロセスでいうと、つくっていく作業が垣間見える部屋だと思います。今回は、いわゆる建築展にある図面も写真も、スケールという大きさを測るものもありません。模型を置いて、見る人が考古学的に、何がどれに繋がっているのか発掘するように見てもらう展示になっています。Room3は、リサーチや模型を経てできあがったプロジェクトのプロジェクション映像です。建物を展示会場に持ってくることはできなくても、映像技術を通して、空間体験ができればと思い、映像担当の方と制作しました。

(池田さん)3面の非常に大きな映像ですね。

(田根さん)限られたスペースの中で、全く異なる体験ができたらと思っています。

(池田さん)情報がぎゅっとつまっていて、本当に見応えがありました。

 

手を動かしながらイメージをつくりだす

(池田さん)Room2を拝見して面白かったのが、棚の上の模型です。つくっているライブ感が伝わる模型の原型、粘土や発泡スチロールでつくったもの、カラーのチップ等が置いてあります。
イメージを形にするより、手を動かしながらイメージ、アイデアをつくり出しているのかなと感じました。

(田根さん)仰ってくださったように、イメージしたものを形にするのはあまり面白くないんですね。最近は、つくっていくうちに思いつき、最終的に「こんなものができてしまった」、というプロセスのつくり方をし始めました。

(池田さん)もうひとつ面白いなと思ったのが、プロジェクトごとに分かれた棚に一文入っていますよね。非常に印象深い、ああそうかと膝を打つような言葉が随所に書かれています。これも結構見逃せないなと思いました。

(田根さん)会場内には、唯一その一文しかプロジェクトの解説といえるものはないので、言葉の力を借りて伝えられること、考えていることをテキストにしました。

(池田さん)あの一文は、建築を考えるときに、膨大な言葉が出てくる中で、選び抜かれた一文ということになりますか。

(田根さん)大概は、そのときに本当に思ったこと、書いているときに思ったことを率直に言葉にしていることが多いですかね。

(池田さん)ぜひ注目していただければと思います。

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Room 2 展示風景 撮影:古賀亜矢子

 

展覧会に足を運ぶ

(池田さん)これから展覧会をご覧になる方に、何かメッセージはありますか。

(田根さん)展覧会は、今見ないと終わってしまうもので、見ないと分からない。見たことで、何か自分のためになるかもしれないし、時代を感じるかもしれないし、怒りをおぼえるかもしれない。
また展覧会は、今起きていることをダイレクトに感じる場だと思います。見たものを自分の中にとどめず、人と話したり、それにより見方の違いを理解したり、そういった意味で展覧会は非常に大事なものだと思っています。

もうひとつは、芸術鑑賞は知的な好奇心を学ぶ場だと思います。そこにある意味を問い、何の関係があるのか、知的に読み解くことによって、よりたくさんのものを知ることができます。文化や芸術の意味を考える場として、ぜひ展覧会を通して、ただ見た、感じたというだけではなく、そこから次に繋がるものを考える、という体験をしていただけたらと思います。展覧会を見て、いろんな方と話していただけたら嬉しいなと思っています。

(池田さん)ありがとうございました。展覧会を介してアイデアを交換したり広げたりするような機会になればと思います。

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田根さんのお話をお読みいただいたうえで、もう一度展覧会をご覧いただくと、見る人それぞれに違った発見があるのではないでしょうか。本展会期は3/10(日)まで!ぜひ、足をお運びください。

【展覧会ページ】
田根 剛|未来の記憶
Archaeology of the FutureーImage & Imagination

2019/1/19 − 3/10

田根 剛|未来の記憶

田根 剛 トークイベント レポート2

建築家・田根剛さんと、聞き手に池田美奈子さんをお迎えし、開催した『田根 剛 トークイベント「Archaeology of the Futureー未来の記憶 Image & Imagination」』レポート二回目です。第一回目と合わせてご覧ください!

記憶とは何か

(池田美奈子さん)今回サブタイトルを「Image & Imagination」とし、東京二会場と変えていて面白いなと思いました。そしてマニフェスト、「記憶は未来をつくる」という部分に非常に共感しました。
記憶というと、正しいとは限らないですよね。人は絶えず変わっていってしまう。記録は残るかもしれないけど、記憶は人の中にあって、ときに都合の良いように、または年代によって変わるかもしれない。「記憶」についてもう少し具体的にお話いただけますか。

(田根剛さん)ひとつ記憶が良いのは、記憶に正しいも間違いもない。一番大切なことは、正しさではなく、その記憶に何の意味があるのかを問いかけられることです。その問いが、記憶の力になるのではないかと思うと、僕らがものをつくる原動力もそこに集中していきやすい。
また記憶というと、人の記憶と思われがちですが、ここで語っているのは、場所の記憶です。人の記憶は変わって忘れられても、場所の記憶は絶対に忘れない。古代でも現代でもその場所で起きたことを僕らは掘り返し、その場所が持っている最も大切な記憶はなんだろうかと考えます。それを建築として残し伝えることで、もしかしたらそこから未来をつくることができるかもしれないと考えています。

(池田さん)なるほど。それが根本的な考え方なのですね。

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リサーチとクリエーション

(池田さん)アルティアムの展覧会は、膨大なリサーチ資料の部屋から始まります。建築の展覧会ということで、模型や図面、あるいはドローイングがあるのかなと思ったら、いきなり圧倒的な量のリサーチがある。

(田根さん)そうですね。

(池田さん)学問としてのアーキオロジー、考古学は、事実を求めていきますよね。でも、田根さんの場合、事実ではなく、何か別のものを掘り返している気がします。というのは、膨大なリサーチのイメージに添えられたキーワードが、どこかポエティックで恣意的なものかもしれない。それらのキーワードが、どうクリエーションに変わっていくのでしょうか。

(田根さん)その土地を掘り返して、様々な地層や土から見つかったものによって、歴史的な発見もできるかもしれないというモチベーションがある。
過去を掘り返すことで、歴史的な発見をしたいというのが考古学者であれば、僕らも同じように未来を創造したいという気持ちで、一見時間軸では未来とは真逆な過去を掘り返していく。このモチベーションが、日々の仕事に、密接に繋がっているような気がしています。

今回の展示は、最初の部屋に「記憶とは何か」をリサーチした約1,500枚以上の膨大なイメージがあり、ここに記憶の力が蓄積されているのではと考えています。イメージの中に、6つのキーワードがあり、例えば、「SYMBOL」の周りには、象徴的な画像や図像があります。古代人はシンボリックなものを見てそれを記憶してきた。または、シンボリックなものによって何かを崇拝、信仰する、祈る力があった。僕なりに、「象徴は記憶の原点ではないか」と考えています。他には、「IMPACT」の周りには、突然起こる出来事、予期せぬ衝撃を受けることで、「衝撃が最も強い記憶ではないか」。また「NARRATIVE」では、我々にとっての「記憶とは物語や伝承によって繋がる」ことができるのではないか、などの考えを展示しています。

イメージから様々な想像力を働かせ、建築を考え始める。これが基礎的な思考のプロセスだと思うと、この部屋なしで「Image & Imagination」というサブタイトルを語れないと思い、今回の展示構成に加えました。

(池田さん)展示を見られる方は、最初の部屋を読み解くと本当に面白いと思います。

(田根さん)読み解こう思えば、1時間でも2時間でも楽しめると思います。

 

リサーチの面白さ

(池田さん)プロジェクトごとに、このようなリサーチをされるのですか。

(田根さん)そうですね。どんなに小さなことでもやります。例えば、お酒のボトルをデザインしたことがあるのですが、たった一本のボトルデザインでも、お酒、ワインの容器の歴史的変遷やお酒を発酵させるプロセスを調べたりします。そうすると、大概はメソポタミアに辿り着くことが多いです。またこの文明に辿り着いたのかというくらい、大概のことはメソポタミア文明がやってしまっている。
メソポタミアで様々なものが発明されて、それを強い信仰で意味をつくり出したのがエジプトであったり、思想や哲学をつくったのがギリシャだったりします。ただ、大体はメソポタミアで発明されているというのが、僕の今のところの感想です。

(池田さん)そうすると、メソポタミアで生まれたものを、時間と空間を超えて我々は根源に持っていると。

(田根さん)コップにしても、持ちやすくするための取っ手は、メソポタミアが発明しています。ふたをすることもです。そういう意味でもなかなかすごい人々ですね。今日はそういう対談ではないですけど(笑)。

(池田さん)リサーチをやることでそういった発見がある、という面白さですよね。

(田根さん)僕らはまず言葉と本から学ぶことが多く、本を読みながら、書かれている言葉や気になっていることを見つけつつ、短時間で膨大な情報量を集めることができるインターネットを活用して作業をします。その作業がないとこのような様々な時代やスケールのものを扱えなかったのではと思うと、面白いですね。

 

ラベルを剥がす

(池田さん)あのリサーチの部屋自体がひとつの宇宙のように見えます。何かのプロジェクトがあれば、そこにだんだんフォーカスしていくと思いますが、全体の中であるものをどう位置付けていくのでしょうか。例えば「日本である」ということを、全体の中でどう位置付けますか。

(田根さん)例えば、「ここは日本である」といった抽象的な既成概念はどんどん外してしまう。そのとき、信じられるのは具体的な「場所」で、地名は信じていいと思っています。既成概念を外したときに何が見えるか、残っているか。または全く違うものを照らし合わせ、比較することで、何が見えてくるか。
日本という一応の概要はあっても、日本はどこかというと特定の場所はない。建築はその場所に建つので、場所の記憶の部分を探ってリサーチを行います。

(池田さん)なるほど。ラベルを剥がしていくということですかね。

(田根さん)そうですね。既成概念や一般化されたものは気にしないで、次々見ていくということですかね。

(池田さん)多くの人がラベルによって物事を認識して生きている中で、田根さんたちは、ラベルはないものとする、あるいは膨大な作業をするうちにどんどんラベルが剥がされていく。

(田根さん)そうかもしれないですね。一般的な見方をすると、どんどんものごとがつまらなく見えてきてしまう。でも、ものの意味を深く探っていくと、非常にたくさんの記憶が蓄積されている。
そう思うと、知っていく想像力が面白い。何も知らないことを前提に、知ろうとする好奇心が、物事をより深く広く繋げていく作業が面白いなと。

(池田さん)そういったベースがあると、まったく見たこともない新しいものがつくれる。

(田根さん)つくれるかもしれない。僕らがつくるものは基本的には建築なので、リサーチしたことがダイレクトに形や色に反映されるという訳ではありません。あくまで知らないことを知ることにより、自分たちの中になかったものが次々と思考の中に入ってきて、そこから何かつくりたいという衝動に変わっていく。内側からこみ上げる衝動をより強くする仕事としてやっています。

(池田さん)体づくりのような感じですかね。

(田根さん)基本は体育会系なので、筋トレとしてやっているような部分はあるかもしれないですね(笑)。

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Room 1 展示風景 撮影:古賀亜矢子

 

リサーチを始めたきっかけ

(池田さん)体育会系というのが気になってしまったのですが、どういうことでしょうか。

(田根さん)実は、元々スポーツをずっとやっていました。
2011年に長野・松本で、サイトウ・キネン・オーケストラという小澤征爾さんの舞台で、オペラの舞台空間をつくる仕事がありました。その時に舞台裏でオーケストラの方々がリハーサル前に個人でウォームアップをしていました。日々のトレーニング、ウォームアップで自分と向き合っている時間やその音色がとても美しくて、それを見たときに非常にショックを受けました。

基礎トレーニングとして、音楽家であれば本番に向けてリハーサルや練習をする。スポーツであれば、試合に向けてトレーニングを行う。それに対して、設計をやっている僕らが、いきなりプロジェクトを始めてしまうのは、何の準備もしてないのではないかと。
そこから、僕たちであればリサーチを基礎トレーニングとして繰り返すことによって、本当にオリジナリティのある仕事ができるのではないか、と気づき、必要を感じて、基礎の作業としてリサーチを始めました。それが、今仕事に大きく役立つようになったという経緯があります。

(池田さん)非常に納得感がありました。

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レポートは第三回に続きます!

【展覧会ページ】
田根 剛|未来の記憶
Archaeology of the FutureーImage & Imagination

2019/1/19 − 3/10

田根 剛|未来の記憶

田根 剛 トークイベント レポート1

初日に開催した『田根 剛 トークイベント「Archaeology of the Futureー未来の記憶 Image & Imagination」』の模様を3回に分けてお届けします。第一回目は、トークの導入として建築家の田根剛さんにプレゼンいただいたご自身の設計事務所や本展のテーマやマニフェストについてご覧ください。


Atelier Tsuyoshi Tane Architects

(田根剛さん)オフィスはAtelier Tsuyoshi Tane Architectsという名前で、パリに拠点があります。フランス、日本、イタリア、オーストラリア、カナダやキプロス島など様々なところから集まった30数名のスタッフがいます。若い世代を中心に、異なる文化や背景を持ったスタッフが集まり、一緒に建築を考えています。
デジタル化が進み、コンピューターでの設計作業も多いですが、しっかりと自分たちの手を使いものを考えながらつくっていこうと思い、「アトリエ」を事務所の名前の最初につけました。また、「アーキテクツ」には、建築家として未来、次の時代を考え、つくっていこうとする意思を持った集団でありたいという想いがあります。
つくることからものの始まりがあると思っています。つくりながら考え、考えたものを図面に起こし、建築に展開することを日々の仕事としています。

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展覧会のテーマ

今回の展覧会のテーマは「Archaeology of the Future」です。「アーキオロジー」は「考古学」や「遺跡」などの訳がありますが、今回は展覧会に向けて「記憶」と意訳し、「未来の記憶」というタイトルにしました。
建築が生まれるときに、遺跡発掘現場のように、その場所を掘り返していく。過去を掘り返すことで、遠い時代や、現在の場所や時代にはなかったものが発掘される。考古学の発掘現場では、発掘されたものによって、それまで与えられてきた歴史を塗り替えることがあります。建築においても、この建築をつくることによって未来が変わるかもしれない。
そう考えたときに、考古学的なアプローチを「Archaeological Research(考古学的リサーチ)」と呼び、設計のプロセスを始める前に、その場所にまつわる様々なものを文脈だけでなく、ありとあらゆるものを調べ尽くします。気になったもの、発見したもの、そこから関係、発展したものなどを考察し、類推することで、多くの知らないことを知っていくという作業です。

去年の秋に15年間続けてきた仕事を東京の二会場で展示しました。単純に仕事を紹介するより、時代を切り取る「展覧会」というフォーマットを使って、「この時代、建築が何を考え、何を志すのか」を示すチャレンジの場にしたいという思いがありました。
東京オペラシティ アートギャラリーでは、サブタイトルを「Digging & Building」とし、掘り下げていくことと、未来を立ち上げていくことをテーマに。建築の専門ギャラリーであるTOTOギャラリー・間では、サブタイトルを「Search & Research」とし、仕事の考察のプロセスを探索していく作業と、リサーチという実験のような作業を見せ、同じ展覧会テーマ「Archaeology of the Future」で、二館違う側面を提案しました。

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展覧会のマニフェスト

展覧会のメッセージは、『記憶』、何かを覚えていること、それは単に過去を覚えているだけではなくて、「記憶は未来をつくるためにあるのではないか」という問い掛けです。展覧会を構想していく中で、このメッセージをいかに伝えるかを考えてきました。
そして今回、アルティアムの展覧会サブタイトルは、「Image & Imagination」としました。一見似た言葉ですが、「Image」は、ものを視覚的にみること、または見なくても自分の中でイメージできること、図像としてのイメージ。そして、「Imagination」には、想像力によってイメージを乗り越えたいという思いがある。東京会場とは異なるサブタイトルと展示構成で伝えようとしました。

また、作品集を初出版し、展覧会で考えてきたこと、見せてきたものを1冊の本にまとめています。単なるプロジェクトの紹介ではなく、建築が持つ形式や言語を、マニフェストやコンセプト、イメージ、ドローイングなど異なる役割を持ったフォーマットで表現した本です。

 

レポート第二回目は、池田美奈子さんをお迎えした対談に続きます。

【展覧会ページ】
田根 剛|未来の記憶
Archaeology of the FutureーImage & Imagination

2019/1/19 − 3/10

田根 剛|未来の記憶

オープニングレセプション レポート

Archaeology of the FutureーImage & Imagination

初日に建築家・田根剛さんをお迎えし、オープニングレセプションをおこないました。当日は会場に入りきれないほどたくさんの方にお越しいただき、大変なにぎわいのなかご挨拶いただきました。
(以下はオープニングレセプションでのトークを一部抜粋・編集したものです。)

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(アルティアム・安田)本日は「田根 剛|未来の記憶 Archaeology of the FutureーImage & Imagination」のレセプションパーティーにお越しくださり、誠にありがとうございます。本展は昨年秋に東京の二会場(TOTOギャラリー・間東京オペラシティ アートギャラリー)で開催されました展覧会を「Image & Imagination」というサブタイトルのもと、再構成し実現しました。関係者の皆さまに、心より感謝の気持ち申し上げます。本当にありがとうございます。

アルティアムとしましても、建築の展覧会は約5年ぶりということで、世界で活躍される田根剛さんに、ここで展覧会を開催いただきましたことを嬉しく思います。それでは、田根さんからご挨拶をお願いいたします。

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(田根剛さん)こんばんは。建築家の田根剛と申します。今日はお集まりいただきまして、本当にありがとうございます。僕自身、福岡に来るのは初めてです。一昨日着いてからほとんどこちらで最終確認をしており、なかなか街に出られなかったのですが、ようやく今日オープンして街を歩いた第一印象として、本当に文化度の高い街だなと感じました。海外に長く暮らしていると、わりと福岡出身の方に会う機会が多く、聞いてみると、福岡は東京に出るのも海外に出るのも感覚的には同じくらいだということで、海外に行く人も多いらしいですね。
そういう意味では今日こんなに集まってくださったことも含めて、好奇心の多い方が育まれるすばらしい環境だということが、なんとなく肌感覚としてあります。初めて来た街ながらもこんなに集まってくださって嬉しいなと思っています。

去年の秋にTOTOギャラリー・間という建築専門のギャラリーと、東京オペラシティ アートギャラリーの二会場で初の展覧会を開催し、それを福岡でやってくださるというお話をいただきました。

東京で開催した展覧会から、このアルティアムという会場に合わせて、展覧会を通して何を強く伝えたいかを再考し、「Image & Imagination」をテーマに、「物事を見てイメージすること」と「そこからより遠くへ想像力を働かせてつくっていくこと」を建築を通してやっていこうと構成しました。

展覧会は一回終わってしまうと再現は不可能なものだと思っています。その場所でしかできないことや体験できないこと、それを見る前と見た後とで、価値観に変化が生まれるような強いものをどうにか伝えたいという想いがあって。会場内の三つの部屋は異なる構成ながら、でもそれがひとつの建築、ひとつの建築家として形にできることを表現してみようと思いました。限られたスペースですが、濃密な体験が伝われば良いなという思いでやっていました。
たった三つの部屋でありながら、それぞれでまったく違う世界観と空間体験を、どうにかつくれたかなと思っています。
最初の部屋はイメージという二次元の表現で、真ん中の部屋では様々なプロジェクトの模型、奥の映像の部屋は光だけで出来上がった空間です。まったく異なる素材を使って、三つの会場をつくってみたので、そのアプローチの違いもぜひ楽しんでいただけたらと思います。

こちらのギャラリーは、一回チケットを買えば会期中何回来ても良いということなので、毎回来るたびに見えるものや伝わるものが変わってくるぐらい密度の濃い空間を体験しに、ぜひまた足を運んでくださると嬉しいなと思っています。ありがとうございました。

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「未来の記憶」をテーマに、三つの部屋を通して、イメージからイマジネーションへと飛躍していくプロセスをお楽しみください。
会期は3/10(日)まで。2/19(火)、2/20(水)は休館日です。ご注意くださいませ。
ご来場、お待ちしております。

【展覧会ページ】
田根 剛|未来の記憶
Archaeology of the FutureーImage & Imagination

2019/1/19 − 3/10

krank marcello ぼくらはいつのまにか 虹にさわれないことをおぼえていた

感想帳+作品紹介

好評開催中の本展、会期も残りわずかです。会場に設置している感想帳から来場者の声と、展示作品について紹介します。

・お店とはまた一味違った物語が見られて楽しかったです。お店にまた行きたくなりました。

・素敵な世界、時間をありがとうございます!ふと、ひとつひとつのタイトルと文章を読み、あらためて作品を見ると心の中にあった、なつかしい何かをたくさん思い出しました。また少し時間をおいて、見に来ようと思います。

・ 小さい頃、虹が出るたびに、虹の根っこまで行ったら触れる!と心から信じていたことを思い出しました。今回の展示を見て普段しまいがちな好奇心をもっと出していこうと思えたことや、いろんな感情があふれてきて、思わず涙がこぼれました。

・krank marcelloさんに加えて、haruka nakamuraさんや、tsumugiさんも参加されており、大好きな方の重なり合いで、とても素敵で居心地のいい展示でした。また何度も足を運びたいと思います。

・藤井さんの作品は初めてですが、素敵で感動しました!古くて新しくて、新鮮だけど懐かしい。寂しさと明るさと切なさとぬくもりと、たくさんのエッセンスが詰まった作品でした。また、音楽、照明、レイアウト、植物すべてが融合して生まれるハーモニーのようなものを感じました。

・ かげがでることをくふうしたり、おもしろいものがたくさんありました。お母さんが「こんなへやが自分のへやだといいな」と言っていました。

・ 大人になって何を忘れてしまったのだろうと思いながら、何かを思い出したくて来てみました。もう一度来ます。

・扉を開けて入りこんだ世界が、なんともなつかしく切なさを感じる空間で、思いがけずひとりいろいろなことに思いをはせるひとときとなりました。

・なんとなく見てみようと思って入ってみたのですが、すごく素敵で心が浄化され、童心を思い出しました。小さな繊細な気づきみたいなものがいっぱいに広がっていて、なつかしさを感じました。見れてよかったです!

・今日で5回目。少し展示内容が変わっていてまたいろいろと想像するのが楽しかったです。初めて娘と一緒に行けてよかった。馬から羽が生える映像を何度も見たり虹のボタンを何回も押してのぞきこんでいました。また来ます。

・北海道から来ました。来れて良かったです!とっても素敵で、帰るのが惜しい気持ち、ずっと居たい空間でした。これからも素敵なものをたくさんつくってください。

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会場では、ヴィンテージ家具と彫刻を組み合わせた作品や、光と影を用いたインスタレーションなど、約30点を展示しています。

「Mother」という作品では、光の大きさや角度、高さを変えて、一体の鹿から、タイトルにもある通り母と子のようなふたつの影が投影されます。ここにはいない母親が導いているかのような影に、いつも心に存在する大きくあたたかい相手のことを感じさせてくれるような作品です。藤井さんもお気に入りの作品とのこと。

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Mother

作品「祈り」では、動物が見上げる先に十字架の光が投影されています。一見どこかから十字型の光が照射されているかのようですが、実際は板に置いた鏡に当たった光が反射して映し出されたものです。作品の仕組みや仕掛けを考えながら見るのも楽しいです。

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祈り

ほかにも、一番制作時に苦労したと話されていた「最後に虹を描くボタン」では、水と光の屈折による本物の虹がこの装置のなかでご覧いただけます。こちらはぜひ会場でご覧くださいませ。

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最後に虹を描くボタン

会場の音楽を担当したharuka nakamuraさんや植物装飾を担当したtsumugiさんをはじめ、西浦裕太さん、samuloさん、rukaさん、zujo circusさんなどさまざまな分野で活躍する作家とのコラボレーションワークも展示。

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12/26(水)より一部展示替えをおこないました。一度来られた方も、ぜひ再入場できるチケットをご利用ください!
最終日1/14(月・祝)には藤井さんが来場する〈1日限定〉出張販売会もあります。貴重な機会にぜひお時間を合わせてお越しくださいませ。

【展覧会ページ】
krank marcello
ぼくらはいつのまにか 虹にさわれないことをおぼえていた

2018/11/23 − 2019/1/14

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