みえないものとの対話

アーティストトーク<谷口暁彦+渡邉朋也> レポート前編

先日10/17(土)18時から、参加作家の谷口暁彦さん、渡邉朋也さん、そしてゲストとして登壇いただいたアーティストでクリエイティブ・ラボanno lab代表の藤岡 定さんによるトークが行われました。
当日はその場でチョイスされたたくさんの参考動画が流され、軽妙なお三方のトークに、会場は笑いに包まれ、楽しい時間になりました。
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右から渡邉朋也、藤岡定、谷口暁彦、アルティアム鈴田

(以下はアーティスト・トークを一部抜粋・編集したものです。)

(渡邉さん)普段どういうことを考えながら作品をつくってるのかという話をしたらいいのかなと思って、ちょっと長い動画なんですが、こちらを紹介したいと思います。

(落合の動画)

(ディレクター・鈴田)これは何の…?

(渡邉)落合博満2000本安打達成の瞬間です。95年ですから、落合はもう40歳を超えてます。一応補足的に言っておくと、トークの始まりとしてちょうどいいんじゃないかなと思って。何故かというと、チラシのところに、僕と谷口くんのことが「思い出横丁芸術情報アカデミー」というふうに書いてあって、なんでそういうふうに書いてあるのかっていう。

(谷口さん)それの説明してなかったですね。

(渡邉)それは実は僕と谷口くんがCBCネットというウェブマガジンの中でやってる連載の名前で。と言っても始まったのが2010年で、2010年の3月と9月に第1回と第2回を公開してからは更新をしてない。あと4回残ってるんですけどね。

(谷口)6回やんなくちゃいけないうちの2回。

(渡邉)そう、でまだギャラも払われてない。

(谷口)3回やると半分もらえる。

(渡邉)その連載というのがメディアアートをどうつくるか、おもしろい美術作品は何かという話をテーマにした連載なんですけど、そこでわりかし最初の頃に出てきたモチーフもしくはキーパーソンというのが、野球選手の落合でした。

◆落合のプレーに見るとんでもない特異点

(渡邉)落合は500本安打、1000本安打、1500本安打、2000本安打が全部ホームランなんです。さらに、確か1000試合出場、2000試合出場のときもホームランを打ってるんです。そんな選手は歴史上いないんですよ。これはどういうことかといえば、彼はホームランを狙って打っているということだと思うんです。もちろん奇跡である可能性も否定はできないと思うのですが、おそらく狙っている。ちなみに、この動画で見応えがあるのは、ホームラン打てなさそうなボールを全部カットしてファールにするんですよ。結構長いのはそのためなんです。ホームランを打てるボールをひたすら待って、そして打つわけです、いまのこの動画のように。

(藤岡さん)これが2000本安打。

(渡邉)2000本安打達成。素晴らしい。

(藤岡)とんでもない。

(渡邉)それで、何が言いたいのかというと、作品つくる上では《人工と自然》、やっぱり人間は自然の中、そこで人工のものを作り出そうとしてる。何が自然でそうでないかを意識したうえで、いろいろな区別のあり方を考えなければならない。自分にとってスポーツというのは、《人工と自然》という対比における「庭」ような中間項というか、入れ子状の存在としてみていて、そこを自然や人工を考えるインターフェースとして考えているところがあると思います。

(藤岡)庭?

(渡邉)「人工的なものに囲まれた自然」ですよね。ノイズじゃなくてカオス、一定の閾値が適用されたノイズという言い方もあるかもしれません。スタジアムや道具、ルールは人工のものですが、それらやそこで起きる現象には自然の物理法則が厳格に適用されます。もちろん身体という問題も絡んできますし。つまり完全に人工というか、コントロールされた環境であれば、ピッチャーは必ず抑えられるか、バッターは必ずホームラン打てるかだけど実際はそうじゃない。ピッチャーやバッターの思い通りにならないし、そもそも誰の思い通りにもならないときの方が多いわけです。重力とか慣性の法則みたいな物理法則の影響を瞬時に判断できないとか、それはやっぱりボールとかバットが身体化されていないとか。いろいろなところにコントロールしきれないノイズがあるからやっぱりうまくいかない。

(谷口)ピッチャーとバッターのそれぞれは、真逆の目的のためにプレイしているわけですよね、お互いがそれぞれの目的の範囲外の他者として存在している。

(渡邉)じゃあ落合は何なんだって話で。落合の周辺に裂け目みたいなものが発生しているとしか思えないんです。ノイズ、カオスを完全に反転する、なにかそういうとんでもない特異点を持っている。特異点としての落合なんですよ。

(谷口)野球において、スポーツの選手の能力を測る基準が「打率」とか「防御率」という「確率」なのがいいと思うんです。数じゃなくて、ノイズをコントロールできた割合、確率なんですよね。

(渡邉)あと、この動画やばいなと思って、落合が打席でボールを見逃すところだけを集めた動画です。

(落合の見過ごし動画集)

(藤岡)へー!(笑)

(谷口)あーこれいいですね、これまでの話の流れで、見逃すところが、シミュレーションの精度を高めるために現実を観測しているように見える。

(渡邉)野球っていうゲームとは別の論理が落合の中で動いているような感じすらしてくる。

(谷口)シミュレーションの精度が「打率」という数字として出てくると。

※解説:打率とは、簡単に言えば何回に一度ヒット(ホームラン含む)が打てるかの割合のことで、打率の高い選手は「確実性の高い打者」と呼ばれる。打率は「安打÷打数=」の式で求められる。

◆現実とシュミレーションの裂け目

(渡邉)(映画の)マトリックスではこの現実が現実であることを確かめるということが、非常に重要になるわけですが、そういう「現実との裂け目」みたいなものを探している感じがする。

(谷口)この動画だけをずっと見てると。見逃しのね。

(渡邉)そう。

(谷口)こういうときになにか調整をしてるっていうこと?

(渡邉)調整というか、なにか探してるんだと思う。

(谷口)現実とシミュレーションの裂け目を?

(渡邉)そう、全てをシミュレーションするために必要な定数のようなものを。やっぱりこういう動画がまとめてアップされているということは、他の人も気づき始めているんだと思う、落合の異常性を。他の選手でこんな動画ないので。

(谷口)こうした落合の話題が、思い出横丁の連載始めるときに最初に軸としてあったと。

(渡邉)まあ極端にいうとこういう感じになりたいっていうのはあるかもしれないです。

◆渡邉さん出品作品〈荒んだ食卓を極力直そう〉に通じること

渡邉 朋也 《なべたんの極力直そう》 京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA  2015年 プラスチック容器/割り箸/3Dプリンタ出力したPLA素材

渡邉 朋也 《なべたんの極力直そう》京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA 
プラスチック容器/割り箸/3Dプリンタ出力したPLA素材

(谷口)だから渡邉くんの〈荒んだ食卓を極力直そう〉の割り箸の作品も、現実に起こる出来事(=割り箸が割れた状態)は一過性なもので常に再現できないんだけれど、それをモデル化して再現できるようにしてる。それは落合がシュミレーション通りにホームランを打ったときに近い。ホームランを打つってことは本来再現性があまりないということでその確率は低い。

(渡邉)落合はそこからさらに進んで、見逃すだけで金取れるくらいの感じになっていた。

(会場)笑

(渡邉)でも常識的に考えて、見逃したら点取れないし、ヒット打てないし。だから確実に給料下がるんですよ。でもなんか美しいというか、球場行ってお金払ってもいいかなと思う。そこじゃないかな、目指すべきは。

(谷口)最終的には見逃しすらも、っていう。ホームランじゃないっていう。

◆話は高松次郎の話へ

(渡邉)そういえば、高松次郎の展覧会に行ったら「25×4」という計算をひたすらやり続けてたときの痕跡がしるされたドローイングみたいなものがあったような気がして、答えは言わずもがな「100」で、実際にそこにも「100」と延々と記されているわけなんですが……。

(谷口)可能性を確認しようとしてる

(渡邉)そうそう。これで、もし何かの拍子に答えが100にならなかったら世界が終わると思うんです。「25×4」の結果が「100」である、ということはいろいろなものごとのベースにありますからね。万が一、100にならなかったらどうしよう…。検算した方がいいとは思うけど…。

(谷口)手書きのところがさらに良くて、毎回微妙にちょっと筆跡違うわけだよね。

(渡邉)ちょっと試してんだと思う。

(谷口)書き損じとかもちょっとあるわけだよね。

(藤岡)そんなノイズが積もり積もって101に変えちゃうんじゃないかていう。緊張感がある。

(渡邉)高松もそれを呼び込んでると思うんだよね。ちょっとしたらどうにかなるんじゃないかっていう。まぁ、それは文字の表面上の問題であって「25×4」という概念的な問題とは別のところだとは思いますが、そこから崩れていく可能性も否定はできない

(藤岡)仮に言えばそれは(落合の)見逃しというか。

(渡邉)「現実(または真理)をいろいろなかたちでなぞってみる」ということもでしょうか。

(藤岡)記念ホームランは本当にすごいですね。

◆再び、落合の話に

(鈴田)ちょっとずっと落合の話ばっかりなんですけど…(笑)

(渡邉)ちなみに俺野球やったことないんですけど(笑)

(鈴田)ないんですか??(一同)笑

(渡邉)そういうスポーツのニュース番組を見て、想像を膨らませていました。

(会場)笑

・ ・ ・ ・

トーク前半では、野球を題材に普段考えていることを語って頂きました。また高松次郎の作品以外にも、ここで紹介しきれないほど色々なお話しが飛び交い、全部をお伝えしきれないのが残念ですが、少しでも雰囲気が伝わるでしょうか。アーティスト・トークは後半へ続きます。

【展覧会ページ】
みえないものとの対話:
Dialogue with Something Invisible

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