伊藤隆介のフィルム・スタディーズ

ゴールデン洋画トークレポート【その1】

作家の伊藤隆介さんに加え、澤隆志(映像作家・キュレーター)さんと工藤健志(青森県立美術館学芸主幹)さんをお招きし、開催したギャラリートーク「ゴールデン洋画トーク」のレポートを4回に分けてお届けします! 3D眼鏡を装着したお三方の様子からも分かるように、終始マニアックかつ興味深いお話が繰り広げられました。 第1回目のレポートは、映画と美術、そして宣伝にまつわるお話と、映画のセットと作品をめぐる現実と虚構のお話です。(※本文は、本イベントのトークを一部抜粋・編集したものです。)

 

CIMG7656

左から工藤健志さん、澤隆志さん、伊藤隆介さん

 (澤さん)まず、ここになぜ眼鏡をかけた3人がいるのかっていうところから始めたいと思うんですけど、そもそも伊藤隆介さんはこうした美術館、ギャラリーでの発表もするし、映画祭で映像作家としても出品されたりもしています。ざっくり分けると、青森県立美術館の工藤さんが美術、僕が映画というそれぞれの領域で、ずっと付き合いがあったわけです。一昨年11月に伊藤さんのホームタウンであります札幌で個展(伊藤隆介ワンマンショー; RYUSUKE ITO SHOW ; ALL THINGS CONSIDERED)がありまして、そこでもこんな感じでトークしてたんですね。その時に、福岡でやりませんかと、飲みながら話してたことが本当に現実になっちゃいました。できあがったばかりの展覧会ですし、完成するまでのことを伊藤さんも今せっかく覚えていらっしゃるので、そのことを話していただきつつも、僕らが横で「はは~」みたいな感じでいければいいかなと。

 (工藤さん)一応、二人ともキュレーターなんですが、今回の展覧会のキュレーターしてるわけじゃないんです。今回は映画がテーマなので、展覧会の作り方も映画的な手法を真似ようよっていうことで、今回キュレーションではなく、宣伝部員を澤さんと僕でやらせてもらいました。まず、チラシの話をすると、これは上田信さんという今回ポスターとかメインビジュアルを手がけていただいた方、画家というよりは絵師、イラストレーターという方の原画ですね。

展覧会ポスタービジュアル

展覧会ポスタービジュアル

 昔の映画ってこう、看板職人さんが手書きで描かれてたじゃないですか。せっかくだからそういう雰囲気で、今回の映画のモチーフみたいなものを、まとめてポスター・チラシのメインビジュアルにできないかとなりまして。上田さんに相談したら「いいよ」って。実質二週間くらいしかなかったんですが、こんな素晴らしい原画を描いてくださいました。文字も上田さんの手書きで、書いてもらってます。こういったビジュアルがまずできまして、僕はチラシを担当して、映像の方を澤さんが進めてくれました。

 (澤さん)映画館に行くと、予告編が流れるわけなんですけれども、映画の予告編は美術と違うところがあって、美術の場合は展覧会ができた後に、展評なり、批評なりが載りますよね。なかなか予告編っていうのがないじゃないですか。映画の場合は、配給しないといけないので、煽るわけです。映画が公開される前にいかに仕込むかっていうのが大事なんですね。なので、チラシを作ったり、予告編もとにかく前から前から仕込んでいくわけですよ。その体を取ろうということで、上田さんのこういう素晴らしいイラストレーションがあるので、これをカタカタ動かしちゃえばいいんじゃないかって思って、僕の友人の最勝健太郎さんっていう映像のディレクターにお話ししたら快諾していただいて作りました。今アルティアムのHPにもありますし、イムズのエレベーターに乗っても見れますけれども、おどろおどろしい予告編ができてしまって、すごく映画っぽくなったかなって思います。映画の形式を引用した宣伝と、映画から引用している作品を展示するということで、今入り口に立ってもらっているわけです。

 

(工藤さん)伊藤さんのこのシリーズっていうのは「Realistic Virtuality」シリーズということになってるんですけど、(註:「Realistic Virtuality / リアリスティック・ヴァ-チャリティ(現実的な仮想性)」は、伊藤隆介さんによるビデオ・インスタレーションのシリーズ。我々を取り巻くメディア社会について、視覚的・詩的批評を試みる作品です。本展で紹介しているものの多くは、そのシリーズの新作です。詳しくはこちら)これはあえて壁の構成で「Realistic Virtuality」が分断してますよね。普段は並存していて、同じ視界の中に「Realistic」と「Virtuality」があるんですけど、これはわざわざ分断してあって、これ、面白い仕掛けだなと思いました。最初に種明かしをみせないっていう、最初お客さんが入ってきたときには、プロジェクションの映像が流れていて、これは記録された映像なのかなと思いますよね。裏を見ると、実はそれがリアルタイムの模型をライブで撮影されて、実際にプロジェクションされている。この関係性、なかなか新鮮ですね。最初入ったときに自分の影とどちらが現実でどちらがフィクションか分からなくなる。これは非常に面白い仕掛けだなと。

(伊藤さん)それは別に僕が考えたわけじゃなくて、プロデューサーの中村光信さんとアルティアムの方々がこういう見せ方が面白いだろうと。

 ※入口の作品《恐竜の支配》については、レセプションのレポートを是非ご覧ください。

 (澤さん)次は《ローマ 1972年~アミティ島 1975年》ですが。

CIMG7668

(伊藤さん)ローマ1972年”っていうのは、ブルース・リーの映画「ドラゴンへの道」が1972年公開で、舞台がローマなんですね。“アミティ島”っていうのは、スティーブン・スピルバーグ監督「ジョーズ」が1975年に公開されていて、そこに出てくる架空の海水浴場の島の名前に由来しています。東海岸のイメージですが、実際にはない架空の街です。「ドラゴンへの道」では、現地では観光地のシーンだけ一週間くらいで撮られていて、あとは全部セットなんですよね。当時は分からなかったですけど、DVDとかブルーレイで見ると、背景があからさまに写真、絵ということになっていて。実在の1972年のローマじゃないっていうのが面白くて。アミティ島の方は、実際は島がないので、映画の中の街とかロケーションはマサチューセッツ州に作られたものだっていう。

《ローマ 1972年~アミティ島 1975年》のセット

《ローマ 1972年~アミティ島 1975年》のセット

映画のロケーションの虚構についての作品ということなんですね。自分としてこだわったところは、サメは特に分かりやすいんですが、後ろの背景のところに、実際の撮影では使われていない特撮用のブルースクリーンが貼ってあるんですね。映画見てると「映画のセットの再現ね」っていうふうに思うんですけど、そうじゃなくて、「映画のセットのイメージについての作り物」なんで、それを行ったり来たりすることが面白い、大事なところなんじゃないかな。

 (澤さん)わざとセットのアラを正確にモデリング化しているところが離れ業なんですよね。その現実を見せることによって、「イメージなの?本当なの?本当の体のイメージなの?またそれの作り物なの?」っていうのを紛らわしくさせる、ある種、立体視させるというか。すごい作り込んでるのに、わざわざこんな線とか出しっぱなしにするっていうのが味わいどころなんですよ。あと、このカメラっていわゆる自宅のペットとかを見る監視カメラ用のカメラなんですね。これって録画したビデオのソースを流してるんじゃなくて、同時中継なんですよ。フィルムじゃない、つまり映画じゃできなくて、「ビデオメディアって何」ってことを問う形でもあるんです。いわゆるビデオ・テレビも含めて、みんなが現実に受け止めているものは、実はイメージ上にしかないっていうことが往々にしてあるわけですよ。みんなが恐怖してた映画だったりとか、歴史的な事件だったりとか。それをわざわざ作り物くさいセットにして、その現実の度合いを疑うというか、イメージで受け入れた現実が「本当にどこまで現実なの?」みたいなことを、半分冗談も含めて問いかけているものなんですね。

 (工藤さん)伊藤さんのすごいところは、本当に自分で、手で作っているっていうところなんですね。誰かに発注してどこかの人に作らせるんじゃなくて、基本的には資料を随分リサーチをして、できるだけ当時のものを忠実に再現してるわけですよね。映画では普段は見えていない部分っていうのをなんとかして見せていこうとしている。見えないものに対する伊藤さん個人の欲望みたいなものが表れていると思います。そういう模型のディテールを見る楽しみというのは、やっぱり美術なんだろうなって思うし。 今までだったら、アーティストが模型と言うと、ちょっと一段低いものとされてきたと思うんです。でも、伊藤さんはそういう序列みたいなものが全くないんですね。とにかく興味のあるものに対して、とことん迫っていく。美術だろうが、映像だろうが、模型だろうが、いろんなジャンルを行き来しながらできたものがこういった作品。それはあくまで、伊藤さんの個人的な欲望であると同時に、現代に生きている我々の欲望でもあると、そういう仕掛けの作品ですよね。

展覧会ビジュアルを手掛けていただいた上田信さんの新刊が出たてのほやほやです!編集は、トークでも熱く語ってくださった工藤健志さん。アルティアム併設ショップでも展覧会会期中は取り扱っておりますので、是非お手に取ってご覧ください!

トークレポートは第2回以降に続きます!

【展覧会ページ】
天神洋画劇場
伊藤隆介の「フィルム・スタディーズ」

ニュース&レポート アーカイブ