okinawan portraits 2012-2016

アーティストトーク レポート【第一回】

「石川竜一 アーティスト・トーク」と題した、石川竜一さんと写真評論家の倉石信乃さんによるトークイベントのレポート【第一回】です。【第二回】【第三回】と三回に分けてお届けいたします。石川さんの作品をより深く理解する機会で、大変興味深い対談でした。当日はあいにくの天候でしたので残念ながらご参加出来なかった方は、是非レポートをご覧下さい。 (本文は、本イベントのトークを一部抜粋・編集したものです。)

(ディレクター・鈴田)本日は台風が近づく中、トークにお越しいただきまして、誠にありがとうございます。当イベントは「石川竜一 okinawan portraits 2012-2016」の関連イベントとしておこなうものです。本日は、石川竜一さんと、写真評論家であり、明治大学理工学部総合文化教室教授であられる倉石信乃さんにお越しいただきました。よろしくお願いいたします。

(石川さん・倉石さん)よろしくお願いします。

(鈴田)今回は、石川さんのこれまでの作品や福岡で初公開となった新作を中心にお話いただきます。トークは倉石さんにて進行をお進めいただきます。倉石さん、お願いいたします。

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(倉石さん)簡単に一言、展覧会の感想を私からお伝えして、それからいろいろお話をうかがっていきたいと思います。まず、この展覧会は新作がかなりの部分を占めていて、私の個人的な感想ですけれども、石川さんにとって、ここから新しい世界が開けていくような、そんな予感を感じさせる重要な転換点となる展示のように思います。そういう企画をあえて「福岡」という東京ではない場所で展開するということが、まず素晴らしいと思いました。何でも中央でイベントが行われて、そこで消費されてから地方に伝わっていくというか、次第に伝播していくのが繰り返されるのではなくて、さまざまな都市がそれぞれ中心になって、そこから文化が伝わっていくのは、とても良いことではないか。石川さんは、この展覧会をやってみた率直なご自身の感想はいかがですか。

(石川さん)感想ですか、いやぁ…良い展覧会ですよね。(笑)僕の作品は置いといて、って置いておくことはできないかもしれないけど、東京でもあまりできないようなすごいボリュームで展示することができました。それはもちろん僕の力ではどうしようもないことなんですけど、アルティアムや赤々舎のサポートで本当にすごいことをしてもらえたなぁと思ってますね。このボリュームの展示が、東京から始まらず、地方から始まったということについて、僕は特にこだわりや深い意味はないんですが、ただこれまで沖縄などでも、いい展示をしてきたつもりで、その時々の場所やタイミングがよければ新しい作品を出すということをしています。今回、本当に良い形で新作がまとまってうれしいなという感じですね。

(倉石さん)この1年以内くらいの石川さんの活動は、周囲の期待もあるだろうし、はっきりいって、相当展示数が多い。これからも多いだろうと思われる中でも、今回はとても充実した展示になっています。振り返ってみて、今年の「六本木クロッシング」(森美術館)での展示では、ブラウン管の古いテレビを積み上げて、そこに顔が映し出されるという作品と、今回展示されているクローズアップの顔写真がともに展示されていました。背景を切り離して「顔」そのものと観る人が向き合うような、実験的な空間が出現していた。それと、同じく今年、横浜市民ギャラリーあざみ野で石川さんの個展が行われた時には、本当に初期の習作から新作の「CAMP」まで全て見せていた。「CAMP」の写真シリーズでは、あれは何日か山で野営したんですよね。

(石川さん)そうですね。山に2回行って、1回目が4泊5日で、2回目が6泊7日の1週間くらいですね。

(倉石さん)横浜市民ギャラリーでの展示は、引き出しを全部開けてしまうというか、退路を断つというか、大変潔い、全て見せようとする展示だったと思います。そういう意味では、いずれの展示も問題提起的であるし、我が身を切るようなことでもあったかもしれません。しかし今回の展示はもっとシンプルに、写真そのものと見る人が向き合うことができる空間になっている。それはあらかじめこのようにしようという意図があったんですか。

(石川さん)横浜での展示は、僕は元々持ってるものやあるものを全部早めに出しておきたいって(いつも)思っています。考えながら、戦略を練りながらということはあんまり得意じゃないし、それよりもどんどん自分が持ってるものを出し切っていきたい。余裕みたいなのが嫌なんですよね。どんどん出して出して、余裕がないギリギリの状態で出てくるものが面白いといつも思っていて、それが本当の自分の気持ちや感覚なんじゃないかと思ってます。だから常に出していきたいというのがあって、横浜市民ギャラリーでの展示はそういう感じでした。今回の展示については、展示の話をいただいた時の自分の状況と関係があって、写真集を赤々舎から出版させてもらったあとから、いろいろなところで展示させてもらう機会が増えて、今は沖縄にほとんどいないんです。だから沖縄で撮っているポートレートを一つ区切って(発表しても)いいんじゃないかっていうタイミングだった。今は、行った先で同じように街でスナップを撮ったり、ポートレートを撮らせてもらったりしているので、どんどん自分の中では広がりが出てきて面白いなと思ってるんです。今年で「okinawan portraits 2010-2012」をいったん区切ってから、4年くらいの期間が経っていて、その4年間の作品と、今撮っている県外での写真を混ぜるにはバランスが違うというか。もしその写真を混ぜようと思ったら、随分後にしか混ざらないんじゃないかっていうこともあって、「okinawan portraits」の2012年から2016年までの写真群を今回展示させてもらうことにしたっていう感じですね。

(倉石さん)わかりました。ところで『日曜美術館』で平敷兼七さんという沖縄の写真家の特集番組が放送された時に、石川さんはいわばナビゲーターの役割で登場されていました。石川さんがある意味で観客の代表でもあり、後輩としての沖縄の写真家の代表でもあるという。平敷さんは、生きている間はあまりメジャーではなかったけれども、とても重要な仕事をされていて、特に社会の底辺で生きている人たちに共感するポートレートやスナップを撮っておられました。この番組の中で、石川さんは平敷さんから影響を受けたという話をされていて、自分がこれまでの撮り方とは変わっていくのではないかという意味の発言をされていたように記憶しています。これは、たまたま石川さんの撮り方とは違うアプローチをしている写真家に出会ったからそういう話が出たのか、あるいはご自分もその時撮り方を変えようとする時期にさしかかっていたから、その発言が出たのか。平敷さんはかなり先輩の写真家ですが、平敷さんにかぎらず特定の写真家から受けた影響があれば教えていただけますか。最近まで沖縄で、平敷さんとの二人展も沖縄でされていました。

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(石川さん)自分の写真をどうにかしたいとか、そういうふうなことはあまり思ってなくて、平敷さんの写真と出会ったからといって、それを意識的になぞるとか自分に取り入れていこう、ということは自分はあまり考えていないんです。他の写真家の写真をみてもそうなんですけど、意識的ではなくて、ただその写真と出会うことで、無意識的に自分の中に必要としてるものが、取り入れられていくだろうということはあります。自分にはその取り入れられていくイメージみたいなものはあるんです。だから平敷さんやいろんな写真家の写真に出会うと、それが自分の写真の中に無意識的に表れてきたりします。それが僕の中で楽しみでもあって、だからいい写真と出会うのはうれしいなというふうには思いますね。

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《okinawan portraits 2012-2016》 OP2.0000010 那覇 NAHA, 2012

(倉石さん)なるほど。それではここで具体的に写真を見ていきたいと思います。これは、会場に展示されている新作の作品ですけども、空にきれいな虹が出ています。たぶん虹を撮るというのは写真になりにくいというか、おそらく誰もが撮る対象なので、そういう意味では難しさはあるように思うんです。逆にこういう誰もが撮るものも石川さんは写真に撮っていますよね。にも関わらず、きちっと作品にしてしまうところがある。

(石川さん)単純にやっぱり、「あ、虹だっ」と思って撮りたくなります(笑)。あまり僕は誰の写真がどうだからとか、これまでの写真がどうだからっていうのは考えないです。

(倉石さん)でも、みんなが撮るものは、プロとしては少しアプローチが難しい面もありませんか。

(石川さん)その意識もあんまりなくて、みんなが撮ればみんな面白くていいんじゃないかっていう(笑)。みんなが同じもの撮ってもいいと思うし、やっぱりそこで何か違いが出てきてくれるなら、それはもっと面白いことですし、それって絶対違うものになってると思うから。だから普通に「あ、虹」「撮りたい」って思いますね。

(倉石さん)写真でここまでくっきりと虹が写るということは、肉眼でみたら凄まじい虹でしょうね。

(石川さん)本当にタイミングですよね。雨が急に降ったのでカメラを隠してたんですけど、虹が出てきて「あ、虹だ」って思っていたら、この人が傘さして歩いてきたんで、思わず写真を撮らせてくださいってお願いした感じです。本当にたまたまが重なるので、写真って面白いですよね。

(倉石さん)運を呼び込む、みたいなことですね。写真集が出てから指摘されるようになるでしょうけど、今度の写真集は、前作からフォーマットが正方形から長方形に変わっていますね。このフォーマットの変化についてはどうでしょうか。

(石川さん)僕は持ってるものを全部使いたい、ということが趣味みたいな、ゲームみたいなことが自分の中であるんです。初めにデジタルバックを買った時も、ハッセル(ブラッド)っていうカメラを知らないまんま、自分が持ってるお金で一番高いカメラを買おうと思って、それで買ったのがハッセルだったんですよ。

(倉石さん)それで、6×6のフォーマットだったと。

(石川さん)6×6で、それで写真を撮っていた。それで、またお金が入って、早く使わないとって思って、買ったのがハッセルの新しいデジタルバックで、それがこのフォーマットだったっていうことです。フォーマットの違いはそこです。

(倉石さん)早くから石川さんを評価されていた清水穣さんはそのことについて、「収集箱」という言葉を使って批評されていました。清水さんが6×6のフォーマットという場合、否定的な意味合いで使うことが多いんですが、石川さんの場合にはむしろ肯定的な意味で論じられていました。「箱」であるがゆえに、そこには「同じ」資格のいろんなものが入っていくことができて、ひいてはいわゆる沖縄的なアイデンティティーの政治にがんじがらめになることから免れることができている、というように結論付けていた。使ってみようと思ったのは、割と自然な成り行きであったにせよ、この6×4.5の形式を使うことによって、何かあとから発見してきたことはありますか。

(石川さん)当たり前のことですけど、背景がたくさん入りました。(笑)でもそこで、自分の写真に変化ができたっていう部分ももちろんあります。正方形のフォーマットの時も、背景はもちろん結構意識してたんですけど、それよりも背景が映る割合が大きくなってきて、そういう中で「風景」にも意識的になってきました。それで、風景とポートレートを合わせて撮っていくっていうことになりました。

お二人の貴重なトークレポート【第二回】【第三回】も近日公開予定です!お楽しみに。  

【展覧会ページ】
石川竜一
okinawan portraits 2012-2016

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