シンプルの正体 ディック・ブルーナのデザイン展

菊地敦己×中村至男 オープニングトーク レポート1

5月14日(日)にグラフィックデザイナーであり、アートディレクターでもある菊地敦己さんと中村至男さんをお招きし、トークイベントを開催いたしました。司会は、本展の企画プロデューサーに務めていただきました。デザイナーとしての視点を通して見えるブルーナ作品の魅力や展覧会への想いをお話いただきました。今回は、2回に分けてお届けします。
(以下は、トークを一部抜粋・編集したものです。)

(司会)お二人をご紹介いたします。まず、本展のアートディレクターであり、グラフィックデザイナーやアートディレクションのお仕事をされている菊地敦己さんです。
3章「シンプルの明日」というコーナーに作品を寄せてくださいました、グラフィックデザイナーであり、アートディレクターの中村至男さんです。

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(司会)
では、早速ですが内容に入っていきたいと思います。お二人が最初にブルーナさんの作品に出会ったのは、どの作品ですか。

 (菊地敦己さん/以下略)どうですかね。あまり「これがブルーナ初体験」っていうのは記憶にないですね。大学生の頃、自分の作品をつくり始めてデザインを意識するようになってから、ディック・ブルーナはデザインだなと見るようになりました。

 (司会)それはミッフィーの絵本でしょうか。ブラック・ベアシリーズ?

 (菊地)ミッフィーの絵を展開させる仕組みが面白いと思ったんです。平面の形がいろんな方法論で使われていて、しかも色が分離されている。形と色の組み合わせが、使われる状況に合わせて変化しますよね。色は限定されていて、いわゆるモダンデザインの方法ですよね。

 (司会)中村さんはいかがでしょうか。

 (中村至男さん/以下略やっぱり仕事をし出してからですね。デザイナー的な目線で、ブルーナさんの仕事を見て、改めて面白さが分かるようになった。

 (司会)読み聞かせてもらった絵本としてというよりは、大人になってから。

 (中村)僕はもともと絵本では育っていなんです。大人になってから、デザインとして見て、すごいなと。

 (菊地)「ディック・ブルーナの絵本を子どもは好きなのか?」問題ありますよね。

 (会場)

 (菊地)子どもの頃からブルーナの絵本が大好きで育ったっていう方いらっしゃいますか?

 (会場)挙手あり

 (菊地)ちらほらいらっしゃいますけど少ないですね。あの、悪く言っているわけではないですよ、もちろん。ただ、結構難しいというか。子どもに対する求心力があるかっていうと、あまりないのではないかと僕は思ってるんです。読み手というか、一緒に読む大人次第なところはあると思いますけど。

 (司会)言葉を覚える前のお子さま向けという位置付けで親しまれている印象はありますね。赤ちゃんって色がしっかり認識ができないので、ブルーナ作品のような明確な色使いが選ばれる理由だと聞いたことがあります。

 

***

 

(司会)展覧会のビジュアルをつくると同時に、デザイン展として成立させたいと、まず菊地さんにご相談に伺いました。ブルーナさんの「デザイン」をテーマにした展覧会は、それほどたくさんは行われていなくて。その話しを受けて菊地さんはどう思われましたか。

 (菊地)僕はもともとブルーナは好きでしたし、キャラクターではなくグラフィックデザインとして捉えていたので、面白そうだなと。ブルーナを通して、グラフィックデザインの考え方が伝わる展覧会になったら良いなと思いました。

 (司会)「シンプル」が今回の展覧会のキーワードになりそうという話は割とすぐに出てきました。ブルーナさんの作品はただの「シンプル」じゃないとおっしゃってましたよね。

 (菊地)そうですね。デザインといった時に「白くて角張ったシンプルなもの」という風潮が僕はすごく嫌いで(笑)。ミニマルなものをよしとする美意識が信用されすぎている。僕もかなり単純な図形を使ったデザインをしますけど、シンプルな中に別な意味や余分な要素をどうやって存在させることができるかが、結構大事なんです。使っている要素は似ていても、モダンデザイン的な様式とはちょっと距離があるんです。
ブルーナの形は、最初からシンプルな形があるんじゃなくて、元にちゃんと具体的なものがあって、それが簡略化されていく段階があるように感じます。だからシンプルな形にも、表情があるのではないかと思います。

 (司会)ブルーナさんの「シンプル」って、実はすごくカラフルだったり、情緒豊かなものが見える。それでも「シンプル」って言われている所以はなんだろうと、菊地さんとご相談を重ねながら、展覧会の構成を決めていきました。
今回のポスターのビジュアルを考えた時の菊地さんのアプローチなど教えてください。

 (菊地)はじめは、今ならではのディック・ブルーナの解釈があって良いのではないかと思って、自分の方法に引き寄せて考えました。使う要素はブルーナの形だけど、ちょっと違和感があるようなものをつくったのですが、ボツられました(笑)。

 (中村)誰から(笑)。

 (菊地)よくわからなかったんだけど、いろんな人の都合ですかね(笑)。ケチがつくと全然違うことをやりたくなるので、だったら極力自分の個性を消してつくろうと思って、より技術的というか裏方的なデザインのやり口を考えました。でもまあ、個性を消してつくったと思ったものに、滲み出てしまうものもあるわけですが。

ブルーナ展_ポスター

展覧会ポスター

元々ブラック・ベアシリーズのポスターの中で、この寝た熊のポスターがあるんです。それを基本的に踏襲してつくりました。ただそのままだと展覧会自体のアイデンティティにならないから、背景色を変えて、単純な方法で文字を組んで、少し多めの余白をつくって、結果このようになりました。会場別に色を変える計画もあったんですけど、それはここの会場に蹴られて(笑)。
決定プロセスに多くの人が関わる場合、新規性の高いものってなかなか受け入れられづらいんですよね。見慣れたものが良いということになってしまうことが多い。人は、自分の中にある記憶と、外側の対象物が符号した時に、いいなと思う傾向があるので。だから、多くの人が良いと思えるものは既成のものに近くなっていくんです。でも本当はそれだけだと、活力が生まれないので、求心力が生まれないのですが

 (司会)ちなみにアルティアムは初夏でもあるのでブルーはどうでしょうかとご提案をしたんですが、明るい印象もあるので、黄色が良いということで選んでいただいたプロセスがありました。

 (菊地)明るいから良いというのも、呪縛のひとつなんですけどね。

 (司会)ちなみに中村さんは展覧会のポスターのビジュアルご覧になった感想はありますか。

 (中村)デザイナーの工夫とか知恵を全く見せずに、それらを裏に秘めて、まっすぐに投げてきて、おお!そうきたかと思いましたね。

 (菊地)素晴らしいフォローをありがとうございます(笑)。実際は結構難しいんですよね。既にデザインされたものを扱って、リデザインしていくのは。どうデザインするかではなく、どういうレベルでその対象と関わり合うのかをすごく考えます。これまで知られているディック・ブルーナという絵をそのまま活かすやり方もあるし、新鮮さを引き出すために違うイメージを加えていく方法もある。どういう関わり方を、どういう段階でするかを、喧々諤々考えるんです。

 (司会)今回はグラフィックデザイナーとしてのブルーナさんを紹介するにあたり、必ずしも可愛らしさだけじゃなく、今まで見たことのない姿を見れますよ、ということも伝えたいという想いがありました。結果的に可愛らしさもあり、シンプルでデザイン性も高い、両方の要素を持ち合わせたこのデザインに落ち着いたということかなと思っています。ブルーナさんの魅力をブラック・ベアに背負ってもらって、直球でまっすぐに出していったっていうアプローチは、すごく良かったなと思いました。

 

***

 

(司会)展覧会の図録の話もしていただいてよろしいでしょうか。今回判型が小さめの図録なんです。

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展覧会図録の表紙

(菊地)ペーパーバックと言われる小説の装丁のデザインをブルーナはたくさん手がけていました。高さはそれと同じサイズにしています。

 (中村)幅は違う?

 (菊地)違います。ペーパーバックって細長いんです。横組みの文章を読むものだから、あまり文章のストロークが長くなりすぎない可読性の高いフォーマットになっています。今回の図録は、絵を一枚ずつ見える方が良いなと思っていたので、サイズが大きい必要がなかったけど、ポスターなどを見せるには、ペーパーバックサイズだと横幅が足りないので伸ばしています。表紙には文字もなく、ポスターがまんま表出されるのが良いかなぁと思って。表紙のシールはきれいにはがせます。

 (司会)図録は17.5×13cmくらい。判型は小さいですが、図版の大きさ自体はこれまで発行している本の中でも、それぞれが大きく見えるよう配置されています。ページの構成、文字の関係とかで、何か気にしてくださったことはありますか。

 (菊地)造形的なことで言えば、何もデザインしていません。1ページごとのレイアウトも基本右ページに作品1点というかなり単純なつくりです。気をつけたのは絵や文字のサイズを大きめにして、全体におおらかな空気をつくること。装飾を極力無くして、ひとつひとつの絵に集中できるような本にしたかったんです。そういった全体の構成という意味では、かなりデザインしたつもりはあるんですが。

 (司会)菊地さんは本をデザインするとき、最初にどういうプロセスからスタートされますか。

 (菊地)それぞれですね。

 (司会)今回は?

 (菊地)今回は作品を一点ずつ見せるという構成を決めたことが出発点ですね。

 (中村)そうそう!一個ずつ見たかった。必ず視界に一つだけ入ってくるようにしてもらえたのは嬉しかったですね。

 

レポートは第2回目に続きます。お楽しみに!

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