Local Prospects 3

アーティストトーク〈山下耕平〉レポート

11/12に開催した山下耕平さんのアーティストトークのレポートをお届けします。山下さんは本展で、2014年以降の絵画作品9点を展示しています。今回のトークでは、山下さんの制作の過程や過去作品を画像を交えながら、先日紹介した三輪さんと同様、担当ディレクターとの対話形式でお話しいただきました。会場内の様子とあわせて是非ご覧ください。
(以下はアーティストトークを一部抜粋・編集したものです。)

(アルティアム・鈴田)山下さんのトークは、今回の展示作品を中心に、その制作過程をご紹介します。過去作の画像もたくさんお持ちいただいてますので、まずは展示作品についてお話をして、時間があればこれまでの過去作品もご紹介できればと思います。

《知らない道、迷走、時間がない》2014年 66×55cm アクリル、カラーインク、パネル ©YAMASHITA Kohei

《知らない道、迷走、時間がない》2014年 66×55cm アクリル、カラーインク、パネル ©YAMASHITA Kohei

まず、展覧会の構成は《知らない道、迷走、時間がない》という作品が起点になりました。山下さんの作品は、人物像が画面に1人で描かれている構図が多く、人物の顔の表情や荒々しい筆の運びが印象的です。今回は特に近年の作品を展示するということで、作品の特徴がよく表れたこちらの作品を展示することになりました。

DSC03397
そしてこちらは山下さんのアトリエの風景ですね。

yamashita_shiranai
(山下耕平さん)この中でいうと、《知らない道、迷走、時間がない》の作品は、右下の横長の作品です。こういう感じで描き始めて、割と下書きなどを考えて始めるというよりは、描く前に気持ちだけを決めて描き始めて、描きながら、消して描いて繰り返しながら、その気持ちの絵になるように探りながら、つくっています。

(鈴田)過程を見ると、この作品は相当な移り変わりがあるのですね。まず縦長の作品なのに、横長のサイズから始まっている。この状態では完成した姿が全く伺えないですね。

(山下さん)いろいろと画面を切ってしまったり加工をします。

(鈴田)なるほど、では横画面を切ってしまって、縦構図に途中から変えたというわけですね。分割することは、結構よくすることなんですか。

(山下さん)割とよくしますね。

yamashira05
(鈴田)どんどん上から潰して描いているんですね。

(山下さん)はい。そして段々と近づいてきて、出来上がりました。

yamashita07
(鈴田)アトリエには作品が沢山並んでいますが、いつも同時進行で描いているんですか?

(山下さん)そうですね。いつも平行して進めています。

(鈴田)筆を置くタイミングはどういう感じで決めているのですか。この方法で言えば、結構何回も描けてしまうわけですよね。描き終わってからやっぱりもう一回変えようかなという気持ちはあったりしますか。

(山下さん)自分が落ち着くところで終わるっていう。だからもう一度、描き直すということはないです。

DSC03399
(鈴田)山下さんの作品はタイトルもすごく素敵だなと思うんです。《あげくにはてな》とか《シーユーレイター》とか、情景が浮かびますね。このタイトルは絵が完成した後に考えています?それとも描きながら考えているんですか。

(山下さん)いろいろなんですけどね。《知らない道、迷走、時間がない》はもともとタイトルありきで考えていて、こういう絵になるかなと構想しながら、描いています。

(鈴田)じゃあタイトルありきでそこに向かっているというような感じなんですね。全部の作品がそういう感じですか?

(山下さん)半々くらいです。タイトルは、今自分が置かれている、その時うまくいかなかったりというような、いろんな感情を言葉にして、そういうタイトルがあるなら、どういう絵になるんだろうっていうようなところからきている感じですね。大学の時には、音楽からそのままタイトルを持ってきたりという描き方をしていたんですけど、途中からは曲は自分のものじゃないしということで止めました。

(鈴田)こちらはアルティアムの展示の最初に展示している小作品ですけど、こちらは額も作品の一部というものですね。

yamashita08
(山下さん)はい。額から作っています。その枠に絵をはめるという作品ですね。自分はあまり一発で描いたりというのができないので、下書きをまず鉛筆で描いて、その下書きをパーツごとに切って、写して、そこに色を乗せていきました。

DSC03409

(鈴田)ポストから手紙が出ているイメージで、これは新作にも繋がる作品です。手紙=コミュニケーションの象徴ということで、山下さんの作品にはよく「手紙」がモチーフとして登場します。こちらは《帰り》という作品です。

展示風景 左:《徒歩40分気分》、右《帰り》

展示風景 左:《徒歩40分気分》、右《帰り》

(山下さん)さっきの作品と同じように、下書きで描いたものを上に当てて、シルエットだけをとってます。

(鈴田)画面を見ると、少し段差がついているので会場で確かめてみてください。パズルみたいにくり抜かれていて、最後に裏からパーツをはめるという仕掛けです。

(山下さん)一つの板に描いた絵を後ろからはめ込んでいます。

(鈴田)山下さんは大工的な仕事がすごく上手ですよね。設営でも絵の接合を着々とされていましたけど、元から得意なんですか。

(山下さん)嫌いじゃないですね。

(鈴田)いろいろと技法も試されているのですごいなと思って見ていました。この作品(《徒歩40分気分》)はさきほどの作品と対になっているものです。

(山下さん)これは《帰り》という作品が外から見た状態だと考えて、こちらは、内面が外から見えてしまっているような状態です。

(鈴田)人物によりクローズアップして描いているわけですね。

(山下さん)はい。さっきのシルエットを拡大してそれを板に写して、それをくり抜いて、それをまた別の板に貼り直してという感じで作ってます。

(鈴田)表と裏、人物の外と内というような構造が描かれています。さて、どんどんいきます。次は《どうかしてた》という作品で、会場の右の方に展示してる作品ですけども。

(山下さん)これは細い一ミリ角くらいのヒノキの棒があるんですけど、それを曲げたり切ったりしながら、線を描いて顔を描いています。ノートにもともと描いていた下絵があって、それを拡大して作品にしました。ボンドで留めて。そしてその上から絵の具を塗っています。同じシリーズで4点あります。

《どうかしてた(midnight)》(部分)

《どうかしてた(midnight)》(部分)

(鈴田)毎回展覧会ごとにいろんな技法を試されているので、こちらもその一つという作品です。そしてこちらは《頼りない返事》という作品で、今年描かれた作品です。

yamashita09

(山下さん)絵の具を細く出せる先が細いチューブ状のものがあって、それに絵の具を入れて、それで線を描いています。

(鈴田)今日も来場された方が、これはどうやって描かれているんだろうとかなりじっくり見られていました。大体、絵を一枚描くスピードってどのくらいなんですか。

(山下さん)割と最近の作品は1日とか、何時間かですね。早く仕上げるようにしてます。

(鈴田)次に《あげくにはてな》という作品ですが、この作品もノートのスケッチがベースになってるんですね。

yamashita10

(山下さん)はい。普段こういうふうにノートに、その時の気持ちでいろんな顔を描いてるんですけど、それが一番自分に近い表現だと思っています。それを作品にする時に、同じくらいの気持ちのこもり方で表現したいなとは常に考えていて、そうするにはどういう道具を使ったら描けるのかということを考えているんです。

(鈴田)様々な技法を意欲的に試していって、その集大成として今回の新作《シーユーレイター》に繋げているわけですね。2×4mの大作ですが、よく見ると作品が分割されていてパーツを会場でつなぎ合わせています。これは最初の構想からこういうふうにしようと思っていたのですか。

《シーユーレイター》

《シーユーレイター》

(山下さん)そうですね。これも同じように下書きを紙にして、それを画面に置いて描いています。ぼんやり完成形を頭に浮かべて、なるべく一発勝負で描くようにしてます。

(鈴田)気づかれた方はいらっしゃるかなと思うんですけど、実は隠れた人物が画面の見えないところに隠れているんですよね。是非、会場で探していただけたらと思います。
またせっかくなので、過去作品もお見せできたらなと。これは2003年の作品です。

《A SILENT STREET, LITTLE CHILDREN》 92×117cm 油彩、油性マジック、画布 ©YAMASHITA Kohei

《A SILENT STREET, LITTLE CHILDREN》2003年 92×117cm 油彩、油性マジック、画布 ©YAMASHITA Kohei

(山下さん)これは大学に入って1年生の時に初めて作品としてちゃんと絵を描いた作品で、油絵で描きました。

(鈴田)かなり今とは違う作風と思いますけど、この時はどういう影響を受けていたとか、どういう背景で描かれてますか。

(山下さん)この時はもう本当に何も考えてなくて、好きな絵を大きい画面で描く、描けるっていう楽しさだけですね。

《ファンレター》2009年 88×53cm アクリル、カラーインク、木製パネル ©YAMASHITA Kohei

《ファンレター》2009年 88×53cm アクリル、カラーインク、木製パネル ©YAMASHITA Kohei

(鈴田)この時代の作品に惹かれるという方も多くいらっしゃるかと思うんですが、山下さんはどんどん作品が変換していくという作風です。ただ、こちらは2009年の作品ですが、やはり手紙を出してるという構図は変わらない。過去の作品を今見るといかがでしょうか。

(山下さん)その時しか描けない、今描きたいことをずっと残していきたいと思っていて、なので、その時にその気持ちで描いたものが残っていくというのが自分にとって一番意味があります。過去に描いたものについては手を加えたりはしたくないなと思っています。

会場から質問

(お客様A)1日で描いてしまうことが多いということだったんですが、それはどうしてですか。

(山下さん)昔は何ヶ月も何年もという時間のかけ方で描いていたんですけど、そしたら最初に描き始めようと思った気持ちがどういう感じだったのか分からなくなってきたんです。そこで、できるだけその時の気持ちを込めたいと思っていて短時間で描くようにしています。

(お客様B)今回2014年以降の作品を展示されていたんですが、なぜその期間の作品を展示したのでしょうか。

(山下さん)はっきりとしたこうだという理由は特にないんですけど、気持ちの面で、自分の中で微妙な線引きがあります。「ここから」、「これは違う」という感じなんですけど、そういうものがあったので、そこで2014年以降の作品にまとめて展示しようと決めました。

(鈴田)今回の展覧会にあたって、今、大きな作品を描いてみたいと思っている、ということを山下さんから聞いてとても嬉しかったです。しかし、大きな作品にトライしようと思ったきっかけは何かあったんですか。

(山下さん)そうですね。作品を作る時は、その時自分がそういう感情で、どういう気持ちなのかということが一番描く上で大事だと思っていて、そこからこういう絵にしようというのを考えてやってきてるんですけど。例えば、今回出品している作品でいうと、棒を使ってみたり、板をくり抜いてみたり、この気持ちを表現するためにどういう表現方法があるんだろうって思いながらずっとやってきて、そういったことをやりきった、じゃないですけど、だんだん作品化する時に自分でハードルが高くなってきて、出口が狭くなってきていたところで、今回のお話をいただきました。テーマが「原初の感覚」ということで、ちょうど自分の心境と重なる部分があって、深く考えずにその時描きたい絵を素直な気持ちで描けたのかなと思っています。

(鈴田)今回の展覧会で原点回帰というか、描きたい衝動を取り戻したり、気持ちを高めたりすることができたなら、とても嬉しいです。

描きたいと最初に思った、その時の自分の気持ちをどのように表現するか、ひとつひとつを選びながら話されていた言葉からは、作品制作への真摯さ、誠実さが伝わってきました。凹凸があったり厚みがあったり人物が隠れていたり、近くで見ると新たな気づきがある作品も多いです。ぜひ、実際に会場でご覧ください。

【展覧会ページ】
Local Prospects 3
原初の感覚

ニュース&レポート アーカイブ