Local Prospects 3

アーティストトーク〈平川渚〉レポート

12/3に開催した平川渚さんのアーティストトークのレポートをお届けします。平川さんは本展で、一般の方から手編みの編みものの寄贈を募り、集まった編みものを使用して、作品《終わりのない物語》を展示されました。今回のトークは、これまでの制作と展示作品の過程についてお話いただきました。是非、ご覧ください。
(以下はアーティストトークを一部抜粋・編集したものです。)

(アルティアム・鈴田)今日は、「Local Prospects 3 原初の感覚」最終日で、作家の平川渚さんにお越しいただいています。平川さんは、今回の展示では会場の一番奥に展示いただきました。 本日は、過去作品を振り返りつつ、今回の作品について、それから事前におこなったワークショップも踏まえてお話していきたいと思います。平川さん、それではよろしくお願いします。

(平川渚さん)よろしくお願いします。最初に、今までつくってきた作品をご紹介します。私は糸を使って、それをかぎ針で編んでいく手法で作品をつくってきました。これまでは、場所に対して自分が関わる手段として、糸を編んでいく、空間に対してつくるという作品が多いです。
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これは2009年に、大分県別府市で開催された「混浴温泉世界」という芸術祭で制作したものです。戦後すぐに建てられた古いアパートの一部分で、こういう構造の建物と建物の間に、赤い毛糸を何ヶ月かに渡って少しずつ編み、増やしていったという作品です。

《境界》(2009) 清島アパート/大分

《境界》(2009)清島アパート/大分

これは2010年に湯布院の小さな神社、御霊社でつくった作品で、これも毛糸でこの場所で編んでいったものですね。

《糸の輪》(2010) 御霊社/大分

《糸の輪》(2010) 御霊社/大分

これも2011年に福岡市にあるWALD ART STUDIOで3週間くらい公開制作をしながらつくっていった作品です。徐々に編んでいって、見るたびに様相が変化していくような作品でした。お客さんも中に入ってみていただけるようになっていました。

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《カリソメの糸》(2011)WALD ART STUDIO/福岡

《カリソメの糸》(2011)WALD ART STUDIO/福岡

これは2013年に山口市のスタジオイマイチというところで、やっぱりこれも3週間くらい滞在して糸を毎日そこで編んでいく、それをお客さんが見ていくというような作品です。

《地面を編む》(2013)スタジオイマイチ/山口

《地面を編む》(2013)スタジオイマイチ/山口

(鈴田)作品の仕事量としてかなりの量と思うんですが、どのくらいのペースで作品ができていくものですか。

(平川さん)公開制作をしていたのが11〜18時くらいで、それ以外の時間、夜とかもずっと編んでいて、ご飯を食べて夜になったら寝てという感じでしたね。結構、こういうパターンの作品は2〜3週間ひたすらその場所で編んでいくようなスタイルでやっていましたね。

《ウミのシロ》(2015)大法寺 書院/静岡

《ウミのシロ》(2015)大法寺 書院/静岡

これは2013年に、静岡県の由比町というところの古い禅寺で制作させてもらう機会があって、駿河湾という海が見える雰囲気の良い、寺の書院の一室で展示したインスタレーションです。白いのは塩で、塩と糸を使った作品です。

《ぬけ道、とおり道》(2016)糸島芸農/福岡

《ぬけ道、とおり道》(2016)糸島芸農/福岡

これが去年、福岡の糸島であった「糸島芸農」という芸術祭の作品で、稲荷山という山の中腹辺りにある、古い社の中につくった、《ぬけ道、とおり道》という作品です。無人の社なんですけど、開けたら中に動物の足跡がいっぱいあって、持ち主の方に聞いたら、敢えて奥の方に穴が開けてあって、神様の通り道をふさがないようにしているということでした。その穴を通って、動物たちも行き来しているということで、そういう通路みたいなイメージでつくりました。
これも去年、長野県の木崎湖という湖で毎年開催している「原始感覚美術祭」での作品で、湖畔にある木と木の間に、糸を20日間くらいかけて編んで出来たものです。

《ミナワ》(2016)原始感覚美術祭/長野

《ミナワ》(2016)原始感覚美術祭/長野

きれいな湖のふもとで、「ミナワ」というタイトルです。この年のテーマが「地は語る、水のかたりべ」で、水の話で「水話」と、「水縄」、「縄」というのは蛇が近くにいて、蛇は水の化身でそのイメージもあります。それから「水輪」、「水」と「輪っか」、そういうイメージでつくった作品です。

(鈴田)この「原始感覚美術祭」には、何回か参加されてますよね。

(平川さん)この時と、その前の年なので、2回参加していました。 今まで見ていただいたのは、場所に対して自分が対峙してつくる、場所性を取り込みながら、つくっていく作品だったんですけれども。一方で、使う糸自体からインスピレーションを得て、つくっていく作品もいくつかあります。

《カセツ世界》(2012)レトロフトMuseo/鹿児島

《カセツ世界》(2012)レトロフトMuseo/鹿児島

これは、2012年に鹿児島市のギャラリー「レトロフトMuseo」がオープンする記念展を滞在制作でやることになって、そこのオーナーさんが織物の作家さんで、やっぱり糸を扱う方だったんですけど、その方から染色する前の生成りの糸をたくさんいただいて、その糸で編んでいったものです。下にあるのがいただいた糸で、その糸を少しずつ編み進めてつくっています。
こちらの作品は、鹿児島にある、この地方の護国神社でつくったものです。

《吹上町護国神社を編む》(2013)吹上町護国神社/鹿児島

《吹上町護国神社を編む》(2013)吹上町護国神社/鹿児島

その土地の戦没者の方が祀られてある神社で、お名前が上の方にあるんですけど、その土地に住む人たちのおじいさんやお父さんの名前が載っています。そこの住民の方々から白い布、生活の中にあるカーテンとかシーツとかそういったものの寄贈を募りまして、細かく切って、紐状にして、それを編んでいった作品ですね。手前にあるのは貝殻で、吹上浜という長い砂浜なんですけど、この浜に方言で「ヲトッケ」という、よみがえりの貝と言われている貝がたくさん落ちていて、それを並べています。
次にこれが、2013年に静岡県のオルタナティブスペースでつくった作品です。このスペースの一階がリサイクルブティック、古着屋さんで、捨てるしかなくなってしまった商品をいただきまして、それを細かく切ってつくった作品です。紐状にハサミを全部入れて、それを空間に編んでいったものです。

《スノードールの”洋服をめぐる物語”》(2013)オルタナティブスペース・スノドカフェ/静岡

《スノードールの”洋服をめぐる物語”》(2013)オルタナティブスペース・スノドカフェ/静岡

役目を終えた洋服がまた次の持ち主のところを巡っていくっていう、《洋服をめぐる物語》というのが、このブティックのコンセプトで。それがまた、さらに形を変えて、商品としてはもう使えなくなったけれども、こういった形で新たな物語を繋げていくという感じで、全部繋がって編み込んでいる作品ですね。

《通過するもの》(2014)原藤家/静岡

《通過するもの》(2014)原藤家/静岡

これは、静岡県の由比町という漁師町でつくった作品です。由比町は、しらすと桜えび漁が盛んな町で、漁に使う糸を漁協で買ってきまして、地元の漁師さんたちに漁網の編み方を教わって、同じ編み方で編んでいったものですね。いろんな漁師さんが入れ替わり立ち替わり教えに来てくれて、一緒に編んでいって、袋状につくりました。網の目の大きさはとらないものの大きさであるというお話を聞いて、大きな編み目は大きい魚が、下の小さい網目は小さい魚が逃げられるように編んであるらしくて、「編み目を通過していくものの」ということに初めて意識がいって、《通過するもの》というタイトルにしました。旧東海道の道沿いに立っている土地で、人々も通過していく、往き交っていくような場所ということもあります。

《今日の話、明日みる夢》(2016)MEIJIKAN/福岡

《今日の話、明日みる夢》(2016)MEIJIKAN/福岡

これが、去年福岡の筑後市にある「MEIJIKAN」という創業100年になる古いホテルが改修されるにあたって、アーティストルームをつくるということでつくった作品です。

4人のアーティストがそれぞれ土地をリサーチして、お部屋をつくることになりました。筑後でいろいろ見させてもらって、久留米絣が盛んな土地なので、その絣にすごく惹かれまして、工房の見学に行って、織ってるところ、染めているところを見させてもらいました。染めた糸をいただいて、一部屋つくらせていただきました。藍染めした糸と染める前の白い糸で編んでいったものです。実際に、今も宿泊をしていただけるお部屋です。

《イトナム》(2016)galerie 6c/兵庫

《イトナム》(2016)galerie 6c/兵庫

この作品は、「地層を編む」というテーマで、これは第1層目のカラフルなところを編んでいるところです。これも自分のこれまで使ってきた糸とか、いただいたり、母親が使っていたり、ご縁があって集まってきた糸を使っています。この作品は、いろんな場所に移動させて、2層目、3層目を編み足していこうと思って始めました。2層目は、筑後で作ったのですが、紺色の部分が久留米絣の糸を使っています。また次、そこにゆかりのある糸で、どんどん積層されていけたらなと思っているところですね。
今回、アルティアムに出させてもらっている作品も、空間、場所に対して自分がつくるというよりも、ギャラリーの空間なので、糸から何か形を立ち上げていけたらなと最初に思いました。それで手編みの編みものを皆さんから募集しまして、それらを解いて、最初にセーターならセーターで、誰かが編んだ、使っていたセーターという物語が一つあって、それをまた一本の糸に戻して、履歴が残った糸を使って編んでいくということができたらなと、一つの試みとしてやってみました。
そして、7/22に編みものをほどくワークショップをおこないました。自分で持ってきた編みものを解いてくださった方もいたり、すでに集まった編みものを解くのを一緒にやってくれた方もいたり。ほどく作業ってなかなかないと思うんですね。(当日のレポートはこちら

(鈴田)私もこのワークショップは参加しましたが、とても新鮮な体験でした。意外とほどくのって難しいというか、つくっていく逆なので編んでいる時間を追体験するような感覚でした。

編みもの/物語をほどくワークショップの様子(2017年7月22日開催)

編みもの/物語をほどくワークショップの様子(2017年7月22日開催)

(平川さん)不思議な感覚ですよね。編むのとほどくのでは逆だけど、編むのに似た感覚が得られるというか。そういう作業でしたね。

(鈴田)皆さん、編みものにまつわる思い出、例えば「これは入院していた時に時間があって編んでいたストール」とか。ご自分の記憶を辿っていたのが印象的でした。

(平川さん)そうですね。寄贈の際に、編みものにまつわるエピソードも合わせて書いていただきました。自分で持ってこられた方は、見させていただきながら、その場でほどきました。やっぱり私一人じゃなく、みんなでほどいて、寄贈してくれた人とほどいてくれた人、いろんな人の手が入るってことは今回の作品に必要なことかなと思って。

(鈴田)このエピソードの一部は、会場内で映像として流れています。本当にそれぞれが思い出深いエピソードで、読んでいるとハッとさせるようなものが多かったですよね。

(平川さん)既製品にはないエピソードが手編みにはあるんだなと思って興味深かったですね。ほどく作業もアルティアムの皆さんも仕事中にやってくれて。

(鈴田)はい(笑)。みんな仕事の合間にほどいていましたね。寄贈していただいたものは大作のものも多かったですから。

(平川さん)そうですね。こたつカバーとか、毛糸をたくさん使用したものがありました。一つのセーターを編むのにも結構な毛糸を使っていますね。ほどいていって毛糸玉に戻したものを、今度は私が編み直したものがアルティアムに展示してあるんですけれども。

《終わりのない物語》展示風景

《終わりのない物語》展示風景

ほどく前の状態の編みものの写真も合わせて展示しています。一つ一つエピソードが興味深くて、編み直しながら、これはもともと何だったのかを見ながら、編んでいました。すごく暖かい毛糸とか肌触りが良い毛糸を選んで使っていらっしゃる方が多くて、エピソードを読んでいると「冷え性のお孫さんのためにおばあちゃんが編んでくれた」とか、「受験を応援するためにお母さんが編んでくれたもの」とか、糸の手触りを通して、編み直す時は編んだ方の気持ちが伝わってくるような作業でしたね。

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昔はいろんな方が編みものをされてて、それをあげたりもらったりしてたんだなぁと。作者の手はどうしても入るから、同じものを違う人が編んだらやっぱり違うものになると思うんですけど、そういう編んだ人の面影が見える感じがやっぱり手編みって面白いなと思いながら。小学校4年生の女の子が自分で編まれたものや、編みかけのものがあったり、パーツがあったり。

(鈴田)この編みものは、形が見えないですけども、どういうストーリーがあるのでしょうか。

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(平川さん)ベビー用の編みものの本と一緒にあった、靴下か何かつくろうとしたパーツで、8年前にお母様が亡くなって、遺品の整理をしていた時に娘さんが見つけられた、というものでしたね。あとは、猿の編みものもありましたね。これは、実は募集を締め切った後に持ってきてくださったというものです。

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(鈴田)そうですね。どうしても寄贈したいものがあるということでお電話があって、学芸会の時に先生がつくってくれたものということでした。

(平川さん)幼稚園で、さるかに合戦をやる時に、寄贈してくださった方がじゃんけんで負けて、さる役に決まって、嫌がって泣いていた時に、担任の先生が一生懸命編んでくれたっていうエピソードです。

(鈴田)それをずっとお持ちだったということですもんね。手編みってなかなか手放せないというか。

(平川さん)こたつカバーも35年くらい前に、自分のご主人が進学で上京するにあたって、お母さんが持たせてくれたコタツカバーということで眠っていたものだそうです。

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(平川さん)ご飯粒がこびりついていたりしました。これなんかも、糸を3本くらい自分で配色して1本にして編んでいたりとか、すごい工夫されていて、より暖かく、糸を集めて編んでたり、お母さんの気持ちが伝わってくるような感じでしたね。 編み図があって、つくっているのかもしれないけど、既製品にはないオリジナリティー、唯一無二な感じがしますね。普通のお母さんの創作力みたいなものが発揮されているなと思って、皆さん主婦の方とか、お店をしながら終わった後に編んだ座布団カバーとか、仕事が忙しくてなかなか一緒にいれない娘さんのために編んだものだったり。専門家じゃなくて、普通の生活をしながら、セーターやベストを編まれていて、普通の暮らしの中の創作っていうものがすごくあるなと思いました。

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(鈴田)平川さんの作品は、通常はインスタレーションで展開されているわけですけど、今回の展示では映像と写真という要素が入ってきていて、ある種珍しいことですよね。それはやっぱりこのエピソードに惹かれて、というところがありますか。

(平川さん)そうですね。ほどいてしまう前に、肖像写真みたいな感じでどうしても残しておきたいなと思って。なおかつ、それぞれ編んだ方の作品として展示したいということもありましたね。一つ一つストーリーがあって、どれも本当に興味深くて、エピソードをどう見せるかは悩みました。でも例えば、「20年前に母から譲り受けたボレロ」、「祖母が昔、自分のために編んだカーディガン」というタイトル部分だけでも十分想像が掻き立てられるので、その部分のみを今回はスライドで流しています。このエピソードは本当に、それぞれ何でもないものじゃなくて、人がつくったものなので、ともに思い出も生きているような、そういうものでしたね。

(鈴田)なるほど。それから平川さんは、ちょうど出産時期に今回の作品をつくられていました。妊娠・出産というのは、人生の稀有な出来事だと思うんですけど、そうした出来事が作品に何らかの影響を与えたということはありましたか。

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(平川さん)形状は産後にほとんどつくったんですけど、赤ん坊を見ながらだと、今までつくってきたような、空間全体を自分で編んでいくようなインスタレーションというのはなかなかできなくて。赤ちゃんを小脇に抱えて、自分の手元だけで完結する範囲での制作にならざるを得なかったというのもあって、できる形を編んでいって、それがこういう丸い形になりました。これを会場で同じ糸同士を繋げていきました。 そういう手作業をしている時に、おそらく寄贈してくれた方たちも子育てや家事をしながら編んで、同じような状況でつくられていて、その様子を自分も追体験しているような感覚を得ましたね。糸の手触りとかエピソードから、こんな気持ちで編んでたのかなというのを追いながら制作するっていう感覚があって、この感覚は初めでしたね。なんで多くの女性たちが編むのか、つくるのかっていうこと。編みものをする女性の感覚を初めて共感できたところがありました。私は手芸が好きで、こういう作品をつくっているわけではないので。

(鈴田)その点は本当にそうですね。平川さんは手芸的な意味合いではなく、作品として、素材として「編む」という行為を使っているという意識が強い。だから今回の作品は、本当にオーソドックスな編みものという素材なので、「編む」という行為について逆に新鮮に感じられたのかなと思いました。

(平川さん)技術としては単純な方法をひたすらやっているだけで。でも編んでいて、生活の中でも細切れで時間をつくれる、飛び飛びでも繋げていけるというか、そんな感じがして、忙しい女性たちが生活の中でできる創造として、編むということが一つあるのかなとは思いましたね。途中で置いて、しばらく経って、そのまま続きが編んでいける。時間がそこにどんどん足されていく、そういうやり方なのかなと思いました。今回の作品が《終わりのない物語》で、糸という素材は、何かの形をしていたとしても、ほどいて一本の糸に戻したら、また違う形に編み直せて、またそれをほどいたら違う形になって、終わりのない、どこかで完成とか切れてしまうんではなくて、可能性がずっと残っているものなのかなと思いました。昔はセーターなんかも、サイズが小さくなったら、ほどいてまた編み直したり、ちりちりになった糸をまっすぐにする湯のし器みたいなものもあったりして。そういう無限性みたいなところに惹かれています。ほどいたら無くなるからこそ、いろいろな形がつくれる。そういうところもあって、糸を使って形をつくり続けている節があります。

(鈴田)継続されている地層の作品にも繋がっていくような、徐々に、緩やかに繋がっていくという素材の可能性ですね。今後も平川さんの作品を楽しみにしています。

会期中は、編みものの寄贈者の方やワークショップ参加者の方にも多く来場いただきました。自分の思い出の品であった編みものたちが、平川さんにより、また新たな物語を紡いでいった様子を感慨深くご覧いただいていたように感じました。展覧会は終了しましたが、本展に出展いただいた作家4名の活動を、今後も楽しみにしていただければと思います。

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