津田直 エリナスの森

オープニングレセプション レポート

初日4/28(土)に津田直さんが来場し、オープニングレセプションをおこないました。その模様をレポートします。
津田さんに語っていただいたことの中に、本展をご覧いただく際のヒントがたくさん隠されているように思います。これらの言葉を手掛かりに、ぜひ会場でエリナスの森を体感してみてください。
(以下はオープニングレセプションでのトークを一部抜粋・編集したものです。)

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(津田直さん)お集まりいただき、ありがとうございます。
僕は福岡に住んでいるので、何度もアルティアムの展覧会を見ています。今回、福岡で新作の展覧会ができるということで、今回のテーマでしかできない空間を作りたいと思いました。今日は来れませんでしたが、豊嶋秀樹さんに会場構成を担当してもらいました。彼と話しながら、イメージとしては、写真ひとつひとつが、その向こう側に入っていけるような扉になったらいいなと。それは本のページをめくるということにも繋がるのかもしれないですけど。写真に入っていく、知らない国に出会っていく、そういうことが体感できたら…というところから構想は生まれています。ご覧いただいているように、ギャラリーの四方の壁には写真が一点も掛かっていません。入口で写真に出会って、進んで、振り返ったらまた写真があって。「森」がひとつのテーマになっています。あまり動線を縛りたくないこともあって、なにか見過ごしてしまったとしても、行きたい方向に自由に身体を振りながら進んでいけるような写真展をつくりたいと思い、こういった会場になりました。わずかですが、言葉・詩のようなものを書いています。展覧会と同時に、写真集もリリースしました。
会期中にトークも行います。その時は、制作の裏側の話をしようかなと思っています。4年もリトアニアを旅したこともあり、なぜその場所に惹き込まれたのか、そこでどういうふうに写真を撮っていく日々があったのか等、お話できればと思っています。
福岡に暮らし始めて6年経って、今までいくつか小さな展覧会をやったり、トークイベントをやったりしてきましたが、こうやって自分が今拠点を置いている身近なところで展覧会をできること、そして僕にとって今本当にやりたいことができたことは、すごくうれしく思っています。
5/12(土)から太宰府天満宮でも展覧会(津田直写真展 辺つ方の休息)をさせていただきます。この5月は三菱地所アルティアムと太宰府天満宮の2つの場所をまたいでもらえればと思っています。ここの扉を開いて、また次の扉が来てという連続性で展覧会をつくる、写真や言葉を巡るということをやりたいなと思って、この季節を迎えました。5月の太宰府の展覧会も楽しみにしていただきながら、本展を見ていただければと思います。

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ータイトルにある「エリナス」について

入り口の展覧会タイトルの下に、僕が依頼して描いてもらった絵を展示しています。写真家が写真展をやる時に絵があるというのは例外的で、僕も今までやったことがないです。タイトルの「エリナス」ってなんだろう、土地の名前か、女性の名前なのか、とかいろんなことを思われているかもしれませんので、今日この場で言葉を添えておこうと思います。鹿には角が2つありますが、その角1本ずつが9本に分かれている鹿がいたという話を、リトアニアを旅して、高齢のおじいちゃんやおばあちゃんから聞きましたし、古い歌の中にそういう言葉を見つけました。でもエリナスのことをリトアニア人に何度聞いても、ぼんやりと知ってるような、知らないような存在なんです。
今、リトアニアは主にキリスト教文化ですけど、その前は日本と同じような自然の神様、例えば雷の神様、川や泉そのものが神様、そういったものがたくさんあった時代でした。そして、それよりも前には、「エリナス」という信仰があったとちらっと聞きました。そこから今回のタイトルに繋がっていく構想が膨らんで。ある意味、リトアニア人ですらよく分からない単語で、ヨーロッパの人も「エリナス」と聞いて、ピンとくる言葉じゃないからこそ、そのままにしておこうと思いました。大事なものだけぎゅっと詰めておいて、どこかでそれが皆さんの人生の中でもう一度開かれる瞬間がくればいいなと思っています。今回の展示の中で一枚だけでも気になるものが心にひっかかって、リトアニアに目を向けたり。そういう速度でいいと思っているんです。
9本の角を持つ鹿を写真には撮れません。もしかしたら、見てはいけないものかもしれないと思っています。そこで、以前から付き合いのあった画家の寺崎百合子さんに話をして、「そういう古い話を聞いて、それを今リトアニアの中で書き留めておきたいものなんだけど、描いてくださいませんか」と頼みました。普段、人の依頼で絵を描く作家ではないので、断られるだろうと思いながら、言葉を持っていきました。でも、非常に共鳴してくれて、絵を描いてくださり、写真集にも収録しています。
「エリナス」というのは、今は見ることができない架空の存在で、でも昔々もしかすると人々が一番大事に思っていた鹿で、象徴的存在だったかもしれないということから、寺崎さんの作品が案内役というか扉となって、このシリーズは始まっているというふうに僕の中で設定しました。今日も言葉だからこそお伝えできるけれど、このことを書いたりしようとは思っていません。神聖なものとして、日本人が神様を存在としてだけ向き合って、気配だけを大事にしているように、ヨーロッパにもそういう時代があったと思ってもらえれば。そのことだけ、今日はここで触れておきたいと思いました。

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ー4本のキャンドルについて

この4本のろうそくは、普段からリトアニア人が使っているものではありません。小さな村で古い資料が見つかり、再現したものを撮らせてもらいました。ろうそくの芯が1本だけのもの、3〜4本に分かれているものもあります。
左上の芯が1本のろうそくは、「ライフキャンドル」と言われています。生まれた時に家族が火をつけて、一つの灯りをそこで分かち合う。命に立ち会う、ということだと思います。火を付けて、家族や身内で過ごし、みんなでひとつの祝福をしたところで火を消す。そして、次の大事な機会に火をつける。その人が死ぬ時までこの1本のろうそくを使うんです。リトアニア人、ヨーロッパには、元々そういう文化があった、ろうそくとはそういうものだったと言っている人もいます。
今回のプロジェクトには、75歳くらいのリトアニア人がスタッフとして入ってくれています。彼の妻のお母さんの体調が悪くなってきて、「そろそろの彼女のライフキャンドルを枕元に持って来なきゃね」っていう話を、たまたま旅の途中で彼が言うのを聞いたんです。それに僕はどきっとしました。ひとつの命が細くなってきて、いよいよ最期が近づいた時に火をつけて、息を引き取る時に消さない。そうやって一人の人が生まれて亡くなっていく。僕らはもう今電気を知ってしまっているから、たくさんの灯りの中で生きているけど、ひとつの灯りと人間の命が同じくらいの重たさというか慎ましさなのかって。この1本のろうそくには、そういう世界観があります。
芯が2つあるろうそくは、「ウェディングキャンドル」と言われています。結婚する時にそれぞれに火をつけて、それが溶けながら1本の芯になっていくのを、周りと自分たちで見届ける。それが結婚という約束なのだと、火が教えてくれる。
芯が3つあるのは、「クロスキャンドル」です。子どもたちが大きくなって10代になった時に、良いもの、悪いもの、いろんなものに触れて、災いが降り注ぐこともある。生きていくってそういうことだから。そういうものから、火で自身を守るために使われるもので、前髪が燃えるくらい近くで、自分の正面、右、左で火をつけると聞きました。
右下のは、「ハウスキャンドル」。自分が家を建てるくらい大人になった時に、家の四つ角でそれぞれ火をつけます。家に結界をはるっていう感覚だと思います。
この4つがあればやっていけると、リトアニアの人たちから聞きました。でも、このろうそくは、リトアニアにずっとあり続けたわけではないんです。ある古い民家の床を開けて補修した時に、このろうそくの古いスケッチが残っていた。リトアニアは何度も領土を奪われてきた小さな国だから、家の中ではなく、土の中や床下に隠していたんだと思います。そして、これらは、それをもとに去年ある村で僕の知り合いたちが再現したろうそくなんです。ちなみに、「ペルクーナスデイ」(雷の神様の日)に作るということも決まっているそうです。

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ー春のはじまりについて

入口入ってすぐのところに緑が茂っている写真があります。リトアニアは、3〜4月になるとグレーの重たい空がだんだん晴れてきて春になります。「ペルクーナス」という雷の神様が、大地に雷をドーンと落として、植物に命が吹き込まれ、動物たちが目を覚まして、春が始まると言われています。僕は、春を連れてくるものが雷だと聞いた時、日本の雷信仰とも繋がっているんじゃないか思いました。リトアニア語は、インド=ヨーロッパ語族で、世界で最も古い言語の一つと言われています。文化とか、習慣とか、この国ではなくなってしまったとしても、遠い国のどこかには残っているかもしれない。床下にあるかもしれない。そんなものを実はこの展覧会と写真集のなかで拾い集めながら、これからまたエッセイを書いたりしながら、最終的にはこの展覧会をリトアニアに持っていこうと思っています。

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5/5(土・祝)にスライドショー&トークがあります。津田さんのリトアニアでの撮影の裏話をぜひ、聞きに来てください。会期は5/27(日)まで。※5/15(火)は休館日。
ご来場お待ちしております!

【展覧会ページ】
津田直 エリナスの森
Nao Tsuda Photo Exhibition | Elnias Forest

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