津田直 エリナスの森

津田直スライドショー&トーク レポート

5/5に開催したスライドショー&トークのレポートをお届けします。津田直さんと東京からリトアニア専門店LTshop店主の松田沙織さん、そして、お二人ともに旧知の仲であり、最新写真集『Elnias Forest』の出版を手がけられたhandpickedの盆子原明美さんにも、聞き手・進行役としてご参加いただきました。
津田さんがリトアニアで撮影した写真を投影し、本のページをめくるように丁寧にお話していただきました。その中で、津田さんが写真家として大切にされていることなどが見えてきました。
(以下はスライドショー&トークの内容を一部抜粋・編集したものです。)

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出会い

(盆子原明美さん)最初に、津田さんからリトアニアとの出会いについてお話いただけますか。

(津田直さん)5年前、リトアニアとラトビアに行ったのが最初です。少し急ぎ足な旅だったので、リトアニアからラトビアに向かう時、リトアニアの風景が消えていくことに後ろ髪を引かれて。もう一度ここに戻りたいという気持ちを抱えながら旅を続けたことがきっかけでした。

(盆子原さん)津田さんと松田さんの共通の場所はリトアニアですが、お二人はどのようなきっかけで出会ったのでしょうか。

(津田さん)東京のGallery916で個展をした時の担当者に、「津田さん、最近どのあたりを移動しているんですか」と聞かれて、ちょうどリトアニアに入り始めているとお伝えしたら、「実は知り合いがリトアニアのお店をやっています」ということで松田さんのことを知りました。ただ、それから結構時間が経ってから松田さんのお店に行ったと思います。僕は常々流れを大事にしていて、自分の力に惹き込む力が加わったときに一番一致するというか、心地よい時間が流れると感じているので。そのタイミングでLTshopを訪ねたら、松田さんがいらっしゃった。

(松田沙織さん)ある日、津田さんがお訪ねくださって、彼女に「津田さんが来てくださったんだよ」という話をしたら、そういえば、そういう話をしたかもしれません、と。

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津田直さん、松田沙織さん

(津田さん)僕が旅している時は、いつもいろんな手掛かりがあるんです。地図とかじゃなくて、形の無いものを手掛かりにしていくことが多い。例えば、松田さんとは知人を介して繋がりが生まれたけれども、LTshopのお店に入った瞬間の匂いが、リトアニアを旅した時のものに含まれていた。それは意図して作ろうとした香りではないんです。多分森の中もそうなんですけど、なにか一種類の香りではなくて、複数の香りが重なり合った厚みのあるもの。それで、自然と松田さんのお店に通うようになりました。

(松田さん)匂いのことですが、大使館の公使のおばさまが来てくださった時、「あら、おばあちゃん家の匂いがするわ」とおっしゃって。それはすごく嬉しい言葉でした。

 

ーリトアニアについて

(津田さん)リトアニアはポーランドとも接していて、飛び地のロシアがあり、北にラトビアとエストニアがあって、バルト海をまたいでフィンランドがある。今は「バルト三国」と観光的にくくったりしますが、僕の中では、とてもコントラストのある国々だと思っています。言語的にもかなり違う。

(松田さん)本人たちも、一緒にしないでくれって思っているみたいです。

(津田さん)決して仲が悪いとか一言では言えない。隣接するから複雑な感じがあります。いろいろ領土の問題もあったし。

(松田さん)バルト三国で一つの国だった歴史はなく、リトアニアの歴史はポーランドとの関わりが大きいです。リトアニア、ラトビア、エストニアの三国はともに資本主義になっていく過程で、「バルト三国」として手を携えてきたという感じがあります。

(盆子原さん)松田さんはどういうきっかけでリトアニア専門店を始めたのですか。

(松田さん)お店がやりたくて何を売ろうかっていう順序ではなくて、リトアニアと出会って、リトアニアと関係を深めていき、それを日本のお客様と共有していきたいと思い、お店という形に結果的になりました。
私がリトアニアに行きはじめた8年前は、発展する夜明け前みたいな時期で、独立して20年くらい経った頃です。すごく静かでものがなくて、でもなんだか幸せそうで、なんだろうこの国は?というのが最初の印象です。その翌年から時代が動き始めて、どんどん西の空気に変わっていく様子を肌身で感じました。その中で、クラフトは他の国より純粋な形で残っているように思います。
リトアニア語に「かごを編む」という動詞があるように、かごは生活で必要な道具として今も農閑期に作られています。こうしたものを通して、リトアニアを日本の暮らしの中に取り入れることで、まだ見ぬ国に思いを馳せてもらえたらと思ってお店をやっています。

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(津田さん)ヨーロッパが持っている冬の空の重たさが、工芸的な心をくすぐり、人を土に近づけ、木を大事にし、集めておいたもので冬を越えるという、本来人間が何千年もやめなかった行為がリトアニアには残っています。「かごを編む」という動詞があるのは、一番大事なものがまだ残っているということだと思うんです。自然の揺らぎが人を動かしているということが、松田さんの選ばれているもの中にもある気がしています。

(松田さん)かごも、木が芽吹く前の方がきれいに編めるので、冬に編まないといけなくて、眠っている木を申し訳ないけれど収穫して、春からの収穫に備えて作る。そういう自然に合わせたサイクルが営みとして残っています。

 

ー陶芸と写真

(津田さん)リトアニアは、自然信仰が長く残った国で、自然と人がとても近い。滝そのもの、岩そのものが信仰の対象だったり、神様だったり。古い時代の時間と現在がゆるやかにまだ繋がっている場所だと思いました。
僕はリトアニアに通いながら、前の時代からずっと残っている信仰や行いを丁寧になぞっている人たちが住む小さな村に行き、徐々に知り合いができていった。そういうところで撮っていました。
そんな中で、ある陶芸家と出会い、その人の作品も写真に収めました。僕は、写真を撮ることと、陶器が焼かれることはちょっと近いような気がしています。僕の場合はフィルムカメラがベースなので、シャッターを切った瞬間はレンズが閉じて、厳密に言うと撮った瞬間は、僕が見てない時間なんです。撮った時は目を閉じていると言ってもいい。でもその瞬間だけが写真として定着する。写真はそういう不思議なことを、一番大事なところで行うわけです。
陶芸も窯の中で焼かれ完成する。最後のフィニッシュのところは誰も見ていない。僕が出会った陶芸家は「これは私が作ったものというよりも、火の神、灰の神が生み出したものなんだよ」っていう言い方をします。火の神様が最後を仕上げていく陶芸の世界と、ある意味誰も見ていない光景としての写真が、僕の中では重なっています。

 

ー展覧会について

(盆子原さん)今回の展覧会は、写真集を立体的に体感してもらうというコンセプトと聞きました。

(津田さん)今回、僕が撮ってきたものは、言葉にして分かるというよりも、不思議な、掴めるような掴めないような距離感とか、意味以外のものです。古いものが現在残るというのは、意味が剥がれ落ちたものだと僕は思っています。それは見ておかなきゃいけないし、結んでおかないといけない。もしかしたら、ひっかかったままで置いておかないといけないものかもしれないと思っていて。構想の段階で、それらをどううまく混ぜ合わせるかを考えたとき、バラバラの本のページがそこに立っているようなイメージがありました。そして今回、空間構成をお願いした豊嶋秀樹さんに、僕がリトアニアで見た距離感のまま写真を置けないかと話しました。それで、始めにエリナスの絵を置いて。いきなり暗い冬のシーンがあって、それが扉になって、裏に行けば、また写真があって。写真の裏に回れたらいいなと思った。一つ越えた時に、初めて次の風景が見えてくるような。写真を見る中で、丘を越えていく。森の中は入っていけば行くほど迷うわけですけど。そういうことが、来場するみなさんの中で起こった方が良いなと思いました。

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盆子原明美さん

(盆子原さん)普通、展覧会には順路がありますけど、自由に見て立ち止まっても良いし、また戻っても良いというコンセプトでしょうか。

(津田さん)リトアニア自体が、標識のようなものがあまりないんです。史跡はどの辺ですかって聞いているうちに、もうその上に立っていたりする。本来そういうもののような気がします。

(松田さん)裏庭から雑木林に行って、そのまま行ったらもう森みたいな感じです。日常の延長ですね。公園とか、野外博物館とかも村みたいな感じです。垣根がよく分からないんです。

(津田さん)境界線があまりない、過去と現在がゆるやかに繋がっている。力んで観光的なことをあまりやっていないということかもしれません。

 

ー自然について

(津田さん)リトアニアの人たちの、見えないものにどれだけ目を向けるかというのは、日本人の感覚と共通するもののような気がしています。今は資本主義の社会の中で、輪郭がはっきりしたものや、名前の付いたものを頼りに見ているのかもしれないですけど、そうではなくて、ちゃんと気配を感じてほしい。展覧会会場では、自分の歩く速度で、自然のものと対峙して、そこに転がる意味以前のものを感じてほしい。
「自然」と僕が言っているものは、決して人間以外の、いわゆる大自然が生んだものだけを指しているのではありません。人が関わることで開かれていったり、残っていったりしたものもある。例えば、歌い継がれてきた歌などの、人間の小さな解釈。僕の場合だと、それは写真です。そういうことを介して、次へ繋いでいけたらと思っています。一番長く残っていくものはそういう世界観だと思うから。だから、この自然をどういうふうに見てほしいとかは、敢えて強くあったりするわけではありません。

 

ーこれから書くエッセイのこと

(津田さん)これから、今回のプロジェクトに関するエッセイを書こうと思っています。
今回のプロジェクトには、詩のようなテキストのある写真集と、見ている人の身体的感覚に委ねられている展覧会があり、その2つの間には少し距離があります。またそこから距離を置いて、エッセイを書こうと思っています。みなさんには時間差が生じるかもしれないけど、いつかそれが重なって共鳴する時が来ればいいなと思っています。
これは、リトアニアの古い歌から学んだ方法です。リトアニアの古い歌は、パラレルでできていることが多い。4番まである木の歌とか。1番の歌詞では森の中の大きな木の話、2番ではその木は実は3本の枝に分かれていてという話、そして春が来て、そこで実って、実が落ちて、という季節のうつろいのことを歌っているんだけど、4番目まできた時に、これって木の話じゃないかもって気づくんです。それは、1本の木の話をしているようで、実は人間のあるお母さん、ある家族に置き換えられるように書いてある。木と人間という2つの話が少し離れて並行している。同じ速度でその2つの流れが進んでいる。そういうところに場所が生まれるのかなと僕は思っています。
歌うときは、複数の人が輪唱します。1人、2人だと始めは声を聴いている気持ちで聴いているんですけど、4人とかになっていくと、誰の声でもなくなって、誰が歌っているのかじゃなくて、歌が一つの声として聴こえる。つまり共鳴した時にたった一つのものが自分に残る。リトアニアを体感して、その感覚こそが「伝える」ってことなんだと強く思いました。
皆さんの中にその感覚を起こせるかは分からないんだけど、場所や季節や意味がどうだとかいうことではなく、それよりも何かが繋がった瞬間に皆さんが見たものや感じたことが一番大事なことのような気がします。

 

ーつくるということ

(盆子原さん)津田さんは作品をつくる時に、何を最も大切にしていますか。

(津田さん)とても難しいことなんですけど、「速度」が一番大事だと思っています。今の日本の社会はかなり過密な中、高速で動いていますが、その中に何かを持ち込んでも、倒れてしまうんだったらあまり意味がない。僕がたった一人で違う速度を持ち込んだとしても、はっきりとした存在感を持てば、その速度になっていく人が出てくるような気がして、まずは提案をします。
例えば、今回の写真展では、アルティアムの空間を見て、四辺の壁は一切触れず、真ん中に場所を作るという提案しました。安定した壁に掛けてしまったのでは、多分揺らがないと思ったから。揺らさなきゃいけないんだと思い、豊嶋さんと話していくなかで、今回の会場構成が生まれていった。だから僕が持っている感覚だけですべてが動いてるのではないということは、はっきりと言えます。関わっている人たちの速度が、大きく関わって入ってきている。僕だけではなくて、関わったメンバーの皆さんの持っていた時間を見ながら、間を見ながら、ずっと自分が立っていた場所そのものでつくったという感じです。
スケジュールとは違う時間軸で動くので、非常にリスクの高い仕事のやり方になります。ぎりぎりまで苦しみながら決断しました。
ただ、入り口で春の兆しを持たせたいと思って、あのピンクに。そのあとに入るならば、裏面をグレーにしても大丈夫っていうのが自分の中であるんです。人肌の温もりを一瞬見たうえで、グレーに入っても苦しいはずはないと。その向こうに太陽が待っている。奥に行けば光を浴びて、その中で蘇る。ペルクーナス(雷の神様)に打たれて、雷に打たれて、みんな命を吹き返すんだということが、設定としてあります。だからこそ皆さんを歩かせなきゃいけないし、それぞれの速度でそこを歩いてほしい。結果的にはリスクの高いことをやって、スタッフには非常に負担をかけたけど、豊嶋さんの力が加わり、心地よい空間を作ることができた。須山悠里さんというデザイナーの力で写真集が出来上がった。やはりメンバーですから。その人たち、みんなを信頼しています。

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リトアニアや展覧会のこと、津田さんにとって作品をつくるということについて、より知っていただける貴重なトークとなりました。LTshopの松田さんがセレクトしたリトアニア関連の商品は、本展会期中、併設ショップドットジーで販売しております!ぜひお立ち寄りください。
会期は残り10日となりました。ご来場、お待ちしております。

【展覧会ページ】
津田直 エリナスの森
Nao Tsuda Photo Exhibition | Elnias Forest

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