田根 剛|未来の記憶

田根 剛 トークイベント レポート2

建築家・田根剛さんと、聞き手に池田美奈子さんをお迎えし、開催した『田根 剛 トークイベント「Archaeology of the Futureー未来の記憶 Image & Imagination」』レポート二回目です。第一回目と合わせてご覧ください!

記憶とは何か

(池田美奈子さん)今回サブタイトルを「Image & Imagination」とし、東京二会場と変えていて面白いなと思いました。そしてマニフェスト、「記憶は未来をつくる」という部分に非常に共感しました。
記憶というと、正しいとは限らないですよね。人は絶えず変わっていってしまう。記録は残るかもしれないけど、記憶は人の中にあって、ときに都合の良いように、または年代によって変わるかもしれない。「記憶」についてもう少し具体的にお話いただけますか。

(田根剛さん)ひとつ記憶が良いのは、記憶に正しいも間違いもない。一番大切なことは、正しさではなく、その記憶に何の意味があるのかを問いかけられることです。その問いが、記憶の力になるのではないかと思うと、僕らがものをつくる原動力もそこに集中していきやすい。
また記憶というと、人の記憶と思われがちですが、ここで語っているのは、場所の記憶です。人の記憶は変わって忘れられても、場所の記憶は絶対に忘れない。古代でも現代でもその場所で起きたことを僕らは掘り返し、その場所が持っている最も大切な記憶はなんだろうかと考えます。それを建築として残し伝えることで、もしかしたらそこから未来をつくることができるかもしれないと考えています。

(池田さん)なるほど。それが根本的な考え方なのですね。

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リサーチとクリエーション

(池田さん)アルティアムの展覧会は、膨大なリサーチ資料の部屋から始まります。建築の展覧会ということで、模型や図面、あるいはドローイングがあるのかなと思ったら、いきなり圧倒的な量のリサーチがある。

(田根さん)そうですね。

(池田さん)学問としてのアーキオロジー、考古学は、事実を求めていきますよね。でも、田根さんの場合、事実ではなく、何か別のものを掘り返している気がします。というのは、膨大なリサーチのイメージに添えられたキーワードが、どこかポエティックで恣意的なものかもしれない。それらのキーワードが、どうクリエーションに変わっていくのでしょうか。

(田根さん)その土地を掘り返して、様々な地層や土から見つかったものによって、歴史的な発見もできるかもしれないというモチベーションがある。
過去を掘り返すことで、歴史的な発見をしたいというのが考古学者であれば、僕らも同じように未来を創造したいという気持ちで、一見時間軸では未来とは真逆な過去を掘り返していく。このモチベーションが、日々の仕事に、密接に繋がっているような気がしています。

今回の展示は、最初の部屋に「記憶とは何か」をリサーチした約1,500枚以上の膨大なイメージがあり、ここに記憶の力が蓄積されているのではと考えています。イメージの中に、6つのキーワードがあり、例えば、「SYMBOL」の周りには、象徴的な画像や図像があります。古代人はシンボリックなものを見てそれを記憶してきた。または、シンボリックなものによって何かを崇拝、信仰する、祈る力があった。僕なりに、「象徴は記憶の原点ではないか」と考えています。他には、「IMPACT」の周りには、突然起こる出来事、予期せぬ衝撃を受けることで、「衝撃が最も強い記憶ではないか」。また「NARRATIVE」では、我々にとっての「記憶とは物語や伝承によって繋がる」ことができるのではないか、などの考えを展示しています。

イメージから様々な想像力を働かせ、建築を考え始める。これが基礎的な思考のプロセスだと思うと、この部屋なしで「Image & Imagination」というサブタイトルを語れないと思い、今回の展示構成に加えました。

(池田さん)展示を見られる方は、最初の部屋を読み解くと本当に面白いと思います。

(田根さん)読み解こう思えば、1時間でも2時間でも楽しめると思います。

 

リサーチの面白さ

(池田さん)プロジェクトごとに、このようなリサーチをされるのですか。

(田根さん)そうですね。どんなに小さなことでもやります。例えば、お酒のボトルをデザインしたことがあるのですが、たった一本のボトルデザインでも、お酒、ワインの容器の歴史的変遷やお酒を発酵させるプロセスを調べたりします。そうすると、大概はメソポタミアに辿り着くことが多いです。またこの文明に辿り着いたのかというくらい、大概のことはメソポタミア文明がやってしまっている。
メソポタミアで様々なものが発明されて、それを強い信仰で意味をつくり出したのがエジプトであったり、思想や哲学をつくったのがギリシャだったりします。ただ、大体はメソポタミアで発明されているというのが、僕の今のところの感想です。

(池田さん)そうすると、メソポタミアで生まれたものを、時間と空間を超えて我々は根源に持っていると。

(田根さん)コップにしても、持ちやすくするための取っ手は、メソポタミアが発明しています。ふたをすることもです。そういう意味でもなかなかすごい人々ですね。今日はそういう対談ではないですけど(笑)。

(池田さん)リサーチをやることでそういった発見がある、という面白さですよね。

(田根さん)僕らはまず言葉と本から学ぶことが多く、本を読みながら、書かれている言葉や気になっていることを見つけつつ、短時間で膨大な情報量を集めることができるインターネットを活用して作業をします。その作業がないとこのような様々な時代やスケールのものを扱えなかったのではと思うと、面白いですね。

 

ラベルを剥がす

(池田さん)あのリサーチの部屋自体がひとつの宇宙のように見えます。何かのプロジェクトがあれば、そこにだんだんフォーカスしていくと思いますが、全体の中であるものをどう位置付けていくのでしょうか。例えば「日本である」ということを、全体の中でどう位置付けますか。

(田根さん)例えば、「ここは日本である」といった抽象的な既成概念はどんどん外してしまう。そのとき、信じられるのは具体的な「場所」で、地名は信じていいと思っています。既成概念を外したときに何が見えるか、残っているか。または全く違うものを照らし合わせ、比較することで、何が見えてくるか。
日本という一応の概要はあっても、日本はどこかというと特定の場所はない。建築はその場所に建つので、場所の記憶の部分を探ってリサーチを行います。

(池田さん)なるほど。ラベルを剥がしていくということですかね。

(田根さん)そうですね。既成概念や一般化されたものは気にしないで、次々見ていくということですかね。

(池田さん)多くの人がラベルによって物事を認識して生きている中で、田根さんたちは、ラベルはないものとする、あるいは膨大な作業をするうちにどんどんラベルが剥がされていく。

(田根さん)そうかもしれないですね。一般的な見方をすると、どんどんものごとがつまらなく見えてきてしまう。でも、ものの意味を深く探っていくと、非常にたくさんの記憶が蓄積されている。
そう思うと、知っていく想像力が面白い。何も知らないことを前提に、知ろうとする好奇心が、物事をより深く広く繋げていく作業が面白いなと。

(池田さん)そういったベースがあると、まったく見たこともない新しいものがつくれる。

(田根さん)つくれるかもしれない。僕らがつくるものは基本的には建築なので、リサーチしたことがダイレクトに形や色に反映されるという訳ではありません。あくまで知らないことを知ることにより、自分たちの中になかったものが次々と思考の中に入ってきて、そこから何かつくりたいという衝動に変わっていく。内側からこみ上げる衝動をより強くする仕事としてやっています。

(池田さん)体づくりのような感じですかね。

(田根さん)基本は体育会系なので、筋トレとしてやっているような部分はあるかもしれないですね(笑)。

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Room 1 展示風景 撮影:古賀亜矢子

 

リサーチを始めたきっかけ

(池田さん)体育会系というのが気になってしまったのですが、どういうことでしょうか。

(田根さん)実は、元々スポーツをずっとやっていました。
2011年に長野・松本で、サイトウ・キネン・オーケストラという小澤征爾さんの舞台で、オペラの舞台空間をつくる仕事がありました。その時に舞台裏でオーケストラの方々がリハーサル前に個人でウォームアップをしていました。日々のトレーニング、ウォームアップで自分と向き合っている時間やその音色がとても美しくて、それを見たときに非常にショックを受けました。

基礎トレーニングとして、音楽家であれば本番に向けてリハーサルや練習をする。スポーツであれば、試合に向けてトレーニングを行う。それに対して、設計をやっている僕らが、いきなりプロジェクトを始めてしまうのは、何の準備もしてないのではないかと。
そこから、僕たちであればリサーチを基礎トレーニングとして繰り返すことによって、本当にオリジナリティのある仕事ができるのではないか、と気づき、必要を感じて、基礎の作業としてリサーチを始めました。それが、今仕事に大きく役立つようになったという経緯があります。

(池田さん)非常に納得感がありました。

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レポートは第三回に続きます!

【展覧会ページ】
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