チャペック兄弟の絵本・ブックデザイン・舞台

オープニングイベント 講演チャペック兄弟の創作とその時代 レポート後編

初日に阿部賢一先生をお迎えし開催した講演「チャペック兄弟の創作とその時代」レポート後編です。前編と合わせてご覧ください。

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新聞記者/『郵便屋さんの話』『ダーシェンカ』

チャペック兄弟は、新しくクオリティーの高い、子どもも楽しめる文化を作ろうとしていました。今回展示されている『長い長いお医者さんの話』もそうですが、実はこれは依頼原稿です。この時代の新聞記者はいろんなものを書いて紙面を埋めていかなきゃいけない。一人何役もこなすわけです。カレルとヨゼフは、「日曜版」に子ども用の読み物も書いています。
チャペックの児童文学の特徴は、王様などが出て来ることもあるんですが、郵便屋さんなどの毎日見かける身近な人を素材にしている点があります。チャペックはお話というのは、身近なことや、生活から生まれてきているんだと言っています。
その中のひとつである『郵便屋さんの話』は、郵便配達員のコルババさんがうつらうつらしていると、夜中に小人たちが現れて、手紙でトランプをしている。一枚だけ温かい手紙があって、これは心がこもっている手紙だと。でもその手紙には、宛名も差出人も書いてないんです。コルババさんはどうしてもその手紙を届けたいと、1年かけて手紙を届けるというお話です。実は教育的な側面があると思いますが、コルババさんが配達先を探しているところで、チェコのいろんな名所が出てきて、チェコの風土巡りのようにもなっているんですね。絵を描いたのは、お兄さんのヨゼフ・チャペックです。ペンで描いた非常にシンプルなものですが、それは新聞用だからなんです。新聞には縮小して掲載されるので、大きな輪郭が強調されています。

『ダーシェンカ』 出典: http://www.digitalniknihovna.cz/mzk/view/uuid:c121cd00-2d8e-11e2-89c9-005056827e51?page=uuid:fd5c89454792a3d3fdc165df8edcd95b

『ダーシェンカ』
出典:
http://www.digitalniknihovna.cz/mzk/view/uuid:c121cd00-2d8e-11e2-89c9-005056827e51?page=uuid:fd5c89454792a3d3fdc165df8edcd95b

『ダーシェンカ』の表紙を見てください。
文章を書き、
絵を描き、
写真を撮影し、
挑戦したのは
カレル・チャペック
と書いてあります。カレルは決して児童文学の専門家ではない。『ダーシェンカ』も依頼原稿ですが、ニーズがあるならトライしてみたという感覚でしょうね。それはやっぱり、この時代のチェコの雰囲気だと思います。この時代のチェコスロヴァキアはありとあらゆるものを急いで作らないといけない時代で、まだそんなに専門家がいなかった。優秀な人にはいろんなジャンルの仕事が多く舞い込んだということです。だからこそ、固定観念がなく、新しいものができたと言えます。実は装丁家のカレル・タイゲはこの作品で、テキストとイラストに加えて、写真も使っています。児童文学でフォトモンタージュを使ったのは、この1933年の『ダーシェンカ』が初めての例だと言われております。そして、カレルが描いたイラストも一筆書きですね。ヨゼフの影響を受けていると思いますが、素人とはいえ、非常に卓越した観察眼と表現力を持った人物だと思います。

画家ヨゼフ・チャペック

チャペック兄弟は二人とも、フランスの文化、芸術に傾倒しています。フランス的な芸術潮流がチェコに生まれますが、その先駆的な存在がヨゼフ・チャペックでした。カレルはフランスの詩を翻訳して、近代的なチェコの詩の石杖を築きました。ヨゼフはキュビスムの影響を受けていて、ピカソの作品と通底しているような、いろんな視点から描いた絵画作品を残しています。

キュビスムの多視点的手法は、カレルの小説にも表れており、ヨゼフがカレルに影響を与えていると言えると思います。カレルの小説『流れ星』は、ある嵐の夜に飛行機が墜落します。男の人が意識不明で身元を証明するものがなく、ある病院に運ばれます。でも、識別できるものがなくて、その人は患者Xと呼ばれます。そこにたまたま居合わせた何人かの人が、じゃあこの人はどういう人なのか、ということでいろいろと推理を働かせていくという物語です。尼僧看護婦、千里眼の超能力者、詩人という人たちが、それぞれの立場から推理をする。これはキュビスムと同じで、いろんな視点から書いていくけれども、答えは言わない。どれかが正解というわけではありません。カレルはこうした相対主義のやり方、検討に検討を重ねるという形で、小説やエッセイを書いています。そういった意味では、カレルのキュビスム的な小説、ヨゼフのキュビスム的絵画というのはどこかで通じるものがあったというわけです。

カレルはおとぎ話をつくる時には生活から出る身近なものを書きましたが、ヨゼフも絵画作品においてそうしたものを描いています。ヨゼフは1910年代にキュビスムの前衛的な作品に出会ったんですけども、1920年代は子どもを主題にしたものが増えていきます。その理由の一つには、娘アレンカの誕生があります。ヨゼフが書いた童話作品では、最初に彼女に読み聞かせて反応を見て、加筆修正していくという形で書かれていたと言われています。
また、ヨゼフはいわゆるアフリカの芸術や彫刻にオマージュを捧げていると同時に、日曜画家の絵が大変素晴らしいという内容の著作『原始民族の芸術』を出版しており、ヨゼフは絵画表現においてアマチュアであり続けようとしたと言えると思います。

ヨゼフの装丁/カレルの著作

チャペック兄弟二人がともに力を入れてきたのが本づくりでした。ヨゼフの装丁には、幾何学的なキュビスムの感覚が見られます。ただし、シンプルな一色刷りが多く、複雑な多色刷りや凝ったグラフィック加工はやらない。シンプルで幾何学的なんだけれども、図案の配置を計算し尽くして立体的で躍動的なブックデザインになっている。パッと目を引く、そういった効果を出すために非常に細かいことをやっています。展覧会場でぜひ実際に見てお楽しみください。

チェコは中世の宗教戦争で負けたことで、貴族階級があまり存在しないんです。国ができた当時ほぼ均一な社会階層になっていた。芸術家たちはそうした市民に楽しんでもらえる芸術ということで、本作りに力を入れていました。本は買おうと思えば買えるんです。そして書棚に置くだけでちょっとしたアートになる。そういった一番身近な芸術が本でした。

ロボット

最後に「ロボット」についてお話しします。1920年に発表された戯曲『R.U.R.』から派生した言葉です。『R.U.R.』というタイトルは、「ロッサム社のユニバーサルロボット」という意味です。展覧会会場には、ベドジフ・フォイエルシュタインという人が描いた舞台案が展示されています。大変貴重なものですので、ぜひご覧いただきたいです。非常に色彩豊かで近未来的な、1920年代としては先端的な表現です。フォイエルシュタインは日本と所縁がある作家、美術デザイナー、建築家で、東京の築地の聖路加国際病院を手がけています。チェコ系の建築家が日本にも数多く来ていたんです。
「ロボット」と言う言葉の由来はちゃんとわかっています。しばしばいろんなクイズとかで「ロボットを発明したのは誰ですか」「カレル・チャペック」というのがありますが、これは間違いです。実はヨゼフ・チャペックなんです。カレルが「人工の労働者をどう呼んだらいいのか分からないんだ」とヨゼフに相談したところ、「ロボットにしたら」と。ロボットとは、チェコ語で「ロボタ」、つまり「賦役」を意味します。
もう一つ間違っていはいけないのは、カレルが描いたロボット像です。みなさん「ロボット」と聞いてどういうものを思い浮かべますか。

出典: https://www.denofgeek.com/us/culture/279175/the-legacy-of-rossums-universal-robots

出典:
https://www.denofgeek.com/us/culture/279175/the-legacy-of-rossums-universal-robots

これは1938年にBBCテレビが作ったロボットですが、どうですか。金属っぽくて、動作がカクカクしていそうな。これは、カレルの戯曲を読んでいない証拠です。戯曲にはロボットとはどういうものか、ちゃんと書いてあります。「金髪の女性には典型的なうぶ毛まであります。目は小さめですけれど」と。実は人間の造形そっくりなものとして考えられていたんです。今で言うアンドロイド寄りです。ロボットの作り方も書いていて、粉末を混ぜて作るというシーンがあります。日本語だとよく分からないんですが、チェコ語で「チェスト」、つまり「練り物」を指します。プラハに昔からあるゴーレム伝説というユダヤのお話があります。土くれから作った人造人間がいて、あるお守りの言葉を入れると自分のいうことを聞いて、自分の二倍の仕事をしてくれる召使いとして作ったという内容です。つまり、チャペックがいきなりゼロから人造人間を作り出したのではなくて、ゴーレム伝説が下敷きになっている。ゴーレム伝説では、ある時お守りの言葉を入れ忘れて、夜になって召使いが暴れ反乱を起こしますが、この内容もチャペックの『R.U.R.』と重なっていますね。

おわりに

チャペック兄弟は生活に根ざした考えを持ち、日常生活を大事にしていました。カレルは徐々に電車も満員電車になって、人間らしさが失われてきている、仕事をするために仕事をしていると危惧していました。カレルもヨゼフも、人間らしさ、生活感を大事にし、どこか超えてはならない一線という意識を持っていて、それを超えるものとして生まれたのがロボットという造形だったかもしれません。

チャペック兄弟は、皆さんにいろんな入り口を作ってくれています。純粋にかわいいもの、SF的なもの、思索へと誘うもの。チェコスロヴァキアという新しい国ができて、新しい芸術、娯楽、哲学、思想、美術、本を作り上げていった二人です。いろいろな入口から入って、チャペック兄弟の世界、そしてチェコ、さらには中央ヨーロッパへと興味を広げ深めていっていただければと思います。今日はありがとうございました。

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本展会期は7月15日(月・祝)まで。阿部賢一先生の講演レポートを読んで展覧会をご覧いただくと、違った発見があるかもしれません。ぜひ、足をお運びください。

【展覧会ページ】
「ロボット」誕生100年記念
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